表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/50

39話 神木の夢と緊急ニュース

 豪が羞恥で枕を濡らした翌日、豪とソフィは揃って神木の自称ラボを訪れていた。

 機材も大きさも桁違いの地下研究所が、自身のラボの下にあることを知ったら神木は何を思うのだろうか?

 学園長に憤慨するだろうか? それともそのシチュエーションに歓喜するだろうか?


「教授~! 教授~? いないのかー!」

 ソフィが何度か呼びかけるが、一切の応答が見られない。

 普段は外出もせずに引きこもっている彼女が、不在というのは意外と珍しい出来事だ。

 一応ファイターであるのに、外出しなくても大丈夫なのだろうか?

 そもそも正確には学園関係者ではない神木が、学園内で寝泊まりしている状況は本当にまともな状況なのか?

 ソフィの頭の中になぜか今更な疑問が顔を上げる。


「ドクいませんか~?」

 ソフィの声に応答がないとみると、たまらず豪も呼びかけを行う。

 豪にとっては二人目の、精神的師匠ではない初めての実践的師匠だ。

 大会中に付け焼刃だとは思っても、何かの訓練をしておきたいそう思い神木を訪ねた。

 昨日の試合が行われず、無いもできずに泣いてしまった事実を別の思いで塗り固めたいという現実逃避的な意味合いもある。


「豪かね、奥に来たまえ。どこぞのお嬢は帰ってもいいぞ」

「いるなら返事くらいしてくれてもいいだろう、教授」

「そもそも教授とやらが、いないんだがね」

「だったら、お嬢もいないんだが?」

「良かろう、来たまえ」


 部屋に入ると、神木は何やら作業をしている様子だ。

 二人には背を向けたまま作業に集中している。

「それで? 何か用かね」

「はい! なにか訓練を付けてもらいたいんです」

「君に必要なのは、特訓ではなく経験だ。不足している今を楽しみ給え、次」

 現実逃避の当てが外れた豪は、シュンとしていく。

「教授、マスクに付いてなんだが――」

 そこまで聞くと、神木は何やらモニターに目を向け言い放つ。

「耐久値もデバイス部分も異常はないな。気のせいじゃないか?」


 ソフィに至っては最後まで言わせてもらえない。

 なにをそんなに集中して作業しているのだろうか?

 豪とソフィは神木の様子に興味をそそられてきた。

 二人は顔を見合わせて頷くと、神木の背後に忍び寄る。


「馬鹿なことしてないで、二人でデートでもして来ればいいじゃないか。あのおっぱい君も居ないようだし」

 二人の気配を察知して言葉によるけん制をする神木。

 いつもと違う神木の行動に、立ち去ると言う選択肢を放棄する二人。

 それを察知して諦めるのは、いつも大人の選択だ。

「仕方がないな、来たまえ」

 二人を呼び寄せると、神木は作業台の物を二人に披露する。


「これが今開発中の新しい頭部保護用のデバイスだ」

 二人が見たのはラガーマンが付けていそうな、頭部用の防具だ。

 違うのは所々に妙な配線が見え隠れしているところだけだ。

 しかし、それが言い様もなく怪しい印象を与える。


「何に使うんですか、これ?」

「君のようなヘッドハンターから選手を守るために使うんだよ」

 ヘッドハンターとは、腹部などの部位より頭部への攻撃を好む選手が分類されるファイトスタイルである。

 武器の使用が認められているこの競技において、選手の保護が最優先に考えられるのは当然ではあるが、今までは各選手の個人的耐久値に依存されてきた。

 即ち、なにも保護がされてこなかったのが現状だ。


 これはトーナメント事務局の過激な狂信者たちと、世間のギフト保有者に対する恐怖がたまたま方向性が合致したせいで野放しになっていた部分でもあった。

 前者は真剣勝負を強要するため、後者は少しでも周囲に被害が出ない状況を作る為。

 それが選手の安全を蔑ろにする理由だった。

 人口比ではそれほど多くはないが、確実に排出されるギフト保有者、特に実社会に影響を与えかねない一課のギフト保有者はファイターにならないと、ギフトを使う機会はそうそうない。


 そんなギフト保有者の弱みに付け込んで、両者は過激さと数減らしという悪性に目をつぶってきた。

 しかし、現役のファイターでアームズ・デバイスに精通している神木は、そんな現状を打開したいとこの地で一人奮闘している。

 そのことは誰にも話さないのでなぜか学園に住み着いた実働のないファイターとして見られている。


 そして目の前の二人、特にソフィは自分が付けている仮面がこの防具の福産品であることを知らなかった。

 神木は、ゆくゆくは表情の様に意識した所に防御効果を与える防具になればいいと開発を続けている。


 最近の神木は、豪の指導によりその開発時間を大幅に削り思う様には進んではいなかったが、神木の考えに賛同してくれる協力者によって、その時間を取り戻せる目途がついた。

 大きな技術革新、それにより神木の夢が一歩近づいて来ていた。


 そのことを二人の子供に熱っぽく語る神木は、二人の目に少しだけ輝いて見えた。


 神木の語りが続く中、三人の通信端末が一斉になり始める。

 この通信端末は、個人間の通信だけではなく各種伝達事項、そして学園内のニュースが伝わるように出来ている。

 学園と言う小さな社会の中で、ニュースの発信源は一つしかない。

 それ故、関心が薄くともほぼ全員が登録している。そこからの緊急ニュースが伝えられてきていた。


「おい、・・・・・・これ」

「不味いな、誰かが気が付いたものがいたようだぞ。豪」

「・・・・・・」

 豪は画面に映る文字をただただ無言で眺めていた。

 そこに踊っている文字は、今期の注目選手に関する情報。

 中でも一際センセーショナルに報じられているのは、誰でもない豪自身の事。


『速報! 宇院豪のギフト発覚!! 今大会のダークホースはラッキーパンチャーだった!?』

 そんな文字がでかでかと書かれていた。

 中の記事はとても好意的とは言えず、寧ろ豪が反則でも行っていたかのような論調で書かれている。

 

 記事を読み、真相を知る二人は憤慨しているが、とうの本人は驚くほど冷静に記事を読み進めていた。

(この時が・・・・・・ついに来たか)

 そう、豪にとっては何時か発覚する事実。いつか来るべき当然の反応。

 しかし、このタイミングで発覚することは予想もしていなかった。

次回投稿は2/15 2:00を予定しております。

では、次回投稿で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ