33話 ラジオ
この学園には学園周辺に向けてラジオ放送が行われている。
これは、自分の進路を見直して色々な職業に目を向けられるようにと政府の政策の一つだ。
何故始めたのか? 理由は簡単である。ギフトを持ち半数は生涯戦うことを強要されるギフト所有者への人権が問題となったときに急遽決まったからだ。
しかし、厳密には移動に制限があるギフト所有者が望んだ職業に就くのは稀な事例だ。
それでも、配慮はしているという姿勢を内外に向けることで、批判をかわすことを選んだのである。
問題が浮き彫りになっても変わらない。それが世論の大多数を超えても他人の目が気になり変えることができない。そんな問題の一つがギフト所有者の自由と自立だ。
そんな大人の消極的行動であっても、子供たちから見れば他では手に入らないおもちゃである。
しかも多くは子供たちが聞いていて、数少ない大人の聴取者はそれで遊んでいた元子供たちだ。
多少の悪ふざけも咎める者が少なければ継続される。
違う年代が繋いできたものは、綺麗な言葉に置き換えると伝統となる。
そして、その伝統は今も脈々と受け継がれていく。
「時刻は午前0時を回りました、今夜も始まりました! 学園の戦いを予想していく番組! キャンパス・オッズ! 司会は私、学園の名物実況、町山絵里がお送りします」
「さて、本日の試合も白熱した戦いばかりでしたね?」
「・・・・・・」
「カフ上げてしゃべって、放送事故になるよ」
「え? しゃべるの、私も?」
「マイクの前に座ってるんだから、しゃべるでしょうよ!」
「聞いてないんだけど? 私、作家だし」
「作家が喋る番組なんて吐いて捨てるほどあるから、しゃべって!」
「・・・・・・」
「あやちゃん? カフ下げないで、ほら」
「はあ~、今日もか・・・・・・木崎あや子です。で何?」
「白熱した試合ばかりでしたねって!」
「そうね、このトーナメント学内予選も三回戦が終了したんだけど、実況してて面白い人いた?」
「いっぱいいるけど、毎回面白いのは、やっぱり宇院君の試合かな」
「ああ、あのちっこい一年だっけ?」
「そうそう、何といても会場に入る人も多いから、実況にも熱がこもる! って言うか」
「73戦無敗なのよね、彼って」
「そう! でも、オッズは未だに低いままなのよねぇ~」
「まぁ、あの体格だとね。いつ負けてもおかしくないし」
「そうなんだよ! そこんところも含めて予想していくよぉ~!! 二時間の生放送キャンパス・オッズ! あなたの運命予想して・あ・げ・る」
本来この番組は、次期の席次予想や年数回のポイント争奪戦などの予想をしていく番組だ。
毎年パーソナリティーを変更しながら継続している中々に息の長い番組である。
今年のパーソナリティーは、初戦から豪の実況を務めている町山という女子生徒が行っている。
女子生徒が喋っているためか、今年の聴取率は意外と高いようだ。
「さて、キャンパス・オッズ! 始まりましたけど、メールって来てる?」
「いっぱい来てるけど、使えないのが多いかな」
「へ~、どれどれ? 『我らが女神が宇院とデートしてやがった。許せん! いっそ・・・・・・』うわぁ、ごねんね。この番組は予想番組だから、こういうのは読めないかなぁ~」
「え? うわ、通信落ちた!」
「へ? 放送が!?」
「違う! メール用!」
「なんで? 何でそんなことに?」
「・・・・・・あ、さっきのメールのせいだ」
「『デートじゃねーし! ゴリ帝いたし!』って、さっきの追加情報で落ちたの?」
「そうみたい・・・・・・事故だ」
「キミ等ね! これは予想番組であって、ゴシップ番組じゃないの! こんなもん掲示板でやって!!」
町山のこの発言で、掲示板すら落ちてしまったのだがそれを知らない町山たちは放送を続けるのであった。
「さて、今日はメール無しで行くからね。あやちゃん頑張ろう!」
「怒られる」
「仕方ない、穴開けるよりはマシだから」
この放送での奮闘が、たまたま東京ローカルの某放送局のプロデューサーの耳に留まり、町山と木崎がパーソナリティーとして抜擢されるのだが、彼女らはそれを知る由もない。
「宇院君の話は、一旦置いておいて他の選手に行こうか! あやちゃん、泣かないで!!」
「だって・・・・・・、番組始まって以来の事故・・・・・・グズッ」
「もお! 次は・・・・・・『熱狂射手』って誰これ?」
「グズッ・・・・・・その人は宇院選手の次の対戦相手で、今大会の遠距離ファイターの一人。意外とオッズも低くて、でもその豪快は弾のばらまきが受けて観客が熱狂することからそう呼ばれてる」
「え? 銃なの? いいのそれ?」
「銃じゃないの、指弾なの」
指弾、それは指で矢玉となる物を撃ちだす技術である。
釘であったり、鉄の玉だったり、色々なものが矢となる。
熱狂射手こと、田中正弘は自身のギフトである火を矢玉として撃ちだす。
そして、彼の字名の由来はその手数の多さに由来する。
無数に乱れ飛ぶ火の矢玉はそれだけでも目を奪われるが、火を恐れて逃げまどう対戦相手を見て楽しむ暗い考えの持ち主たちに受けが良いようだ。
「もお! この学園はサッカーしたり、金槌振り回したり、血が好きな変態だったり、揚句に指弾!? まともなファイターはいないの!?」
「いるけど、大抵負けてるんだよね」
「探して! まともなファイター探して! 学園の代表になるんだよ!? 代表って顔だよ? 学園の顔になるんだよ!」
「いないかな」
「諦めないで!! きっといるから!」
彼女たちの奮闘を伝える放送はこの後、一時間半続くのだった。
その頃豪は、そんな放送があったことも知らずに夢の中にいた。
次回投稿は2/3 2:00を予定しております。
では、次回投稿で。




