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32話 巨人と小人 2

 豪の足から放たれた矢は、豪にとっては珍しく対戦相手の相模目掛けて素直に飛んでいく。

 何の変化もないその矢は、誰もが当たらないと予想していた。

 しかし、相模は避けるそぶりも見せずに、あえてその矢に自分の身を晒した。

 真っ直ぐ飛んでいった矢は、相模の顔面を的確にとらえることに成功する。


 後方に弾ける相模の顔。

 しかし、次の瞬間攻撃した豪の顔が歪む。豪自身が恐れていた通りの出来事が目の前で起きてしまったからだ。 

 後方にのけ反った相模ではあったが、相模の目は一切豪から離れてはいなかった。

 ノーダメージ。そう思わせるかのようなたたずまいを見せる相模。

 実際相模はダメージを受けてはいたが、倒れるほどではなく鼻から一筋の血が垂れるだけに留まっている。


 タフネス。それは一対一では絶大なアドバンテージとなる。

 先ほどの様にクリーンヒットした攻撃が効かないと思わせる姿は、相手に精神的ダメージを与えながらなお且つ相手の攻撃機会を奪う効果がある。

 効かない攻撃に体力を使うファイターがいるだろうか? 別の攻撃法を考えることはそれまで身に着けた行動とは違う動きを強要させられることになり、練度の低い攻撃は自身の動きに違和感を与えることになる。


 それは高い次元にいるファイターには顕著に表れる。

 そして、その違和感を逃す相模ではない。

 違和感に確信の持てない攻撃の後には、必ず隙が生じる。そこをつくことで相模をはじめとする角力ファイターは勝利を手にして来た。

 タフネスを見せつける。それは相模にとって必勝パターンの一つであった。


 ただ一つ相模は計算を間違っていた。

 何故なら相模は豪が、格闘技初心者であることに気が付いていないからだ。

 タフネスを見せつけられた豪が次にとる行動。それは・・・・・・。


 足元に帰ってきた矢を先ほどと同じように蹴りだす豪。

 豪にとって攻撃に使用できる技は、今もってない。

 豪が行えるのは、自らの幸運を信じてひたすらに矢を蹴りだすだけだ。


 豪の攻撃が自分を倒すに至らないと感じた相模は、豪の攻撃を被弾しながら一歩一歩、ゆっくりと豪に近寄っていく。

 豪は一心不乱に矢を蹴りだす。回転力を上げるために二つの矢を巧みに操り攻撃をしていく。

 その生み出した回転力は確かに、称賛されるべき巧みさだった。

 まるでマシーンの様に、同じタイミングで撃ちだされる矢が周囲には異様に思えただろう。

 しかし、その回転力をもってしても相模を倒すことができないという事実が、周囲の観客の声を黙らせる。


 そして、そんな神憑った回転力がいつまでも続けられる訳がない。

 目の前に迫った相模を前に、豪は痛恨と言えるミスキックをしてしまう。

 それまで捉えていた相模の顔の横をすり抜けて、矢はあらぬ方向に飛んでいく。

 更に、ごうは足元にある矢を撃つタイミングを逸してしまった。

 迫りくる相模の張り手。

 

(まだ終わらない。終われない。せめて一回で良い! 巨人の膝を地面につけてやる!!)

 そんな思いが、豪に回避行動をとらせる。

 それは、豪が滅多に取らない自分の思いを乗せた行動。

 反射的行動ではなく、意志を持った行動をとった。

 今までとは違い、依然行っていたようなあまりにも無様な回避行動。

 それにより、再び豪と相模の間には距離が生じた。


 距離はそれまで与えられていた焦りと、圧迫感を退ける。

 そして、何より時間と言う大きな助けを与えてくれた。

 豪が相模を一瞥し、自身のアームズ・デバイスを確認する。

 先ほど逸れた矢は、跳弾して豪に向かってきていることが確認できたが、豪はこれまでの経験からダイレクトに蹴ることができないと判断する。

 

 ならば、弱弱しくも自分の方に転がってきている矢を使用するしかないと判断を下す。

 ゆっくりと豪に向かってくる矢と相模。

 タイミング的にはほぼ同時に豪の今いる所に到達するだろう。

(それなら!!)


 豪は意を決して相模との距離を縮める。跳弾してきた矢には目もくれずに。

 矢を通り過ぎる豪の姿を見て、相模は足元に視線を落とす。

 そこには豪の矢が転がっていた。

 自分の進攻に邪魔だと判断した相模は、普段ならしないであろう行動に出た。

 豪の矢を自分に向かってくる豪自身に向かって、蹴りはなった。

 

 矢を蹴った瞬間

(何故俺は蹴ったんだ?)

 相模の頭に疑問が生じる。普段なら、対戦相手の手放したアームズ・デバイスを、相手方向に動かすなんて言う行動には至らない。

 それは相模の見せた油断だったのかもしれない。

 相模と言う巨体を支える脚から放たれた強烈な矢を、豪はまるで予期していたかのように射出準備に入る。

 そのあまりにも流れるような行動に、相模は目を奪われる。


 そして豪が目の前に来た矢を撃ち返す瞬間、それは起きた。

 豪の後方に飛んでいった矢が、リングに跳弾して豪の蹴り脚を加速させた。

 威力を失わず豪の蹴り脚に当たった矢は、豪の蹴り脚を加速させ、そして相模の蹴った矢は威力をそのままに豪によって相模に向かって放たれた。

 

 予測していたよりも速くなった蹴り脚にバランスを崩しながら、豪は最後まで足を振り抜いていた。

 加速に加速を重ねた豪の矢は、相模が反応するよりも速く相模の顔面を貫く。

 相模の満面を捉えたところで、豪が矢を放った時の音が会場に響く。

 そしてそれを追うかのように、相模の顔面から打撃音が鳴り響く。


 会場にいた観客たちは、そのあまりにも激しい衝撃音に相模の頭部が吹き飛ばされたかのような錯覚を見る。

 数人の女子生徒が思わず短い悲鳴を上げる。

 しかし実際には、未だに矢は相模の顔面で回転を続けてる。

 

 会場が静まり返る中、ゆっくりと回転を止めた矢が相模の顔面から落ちた。

 トントトンと、軽い音を鳴らして地面に落ちた矢が相模のつま先に当たり止まる。

 それに対しても微動だにしない相模の様子が、周囲に音を取り戻させる。


 バランスを崩して頭から落ちていた豪も、周囲の音に引きずられるように立ち上がり相模に目を向ける。

 数秒の時が経っても、相模が動き出す気配がない。

 流石の豪も対戦相手のおかしな様子に、行動を起こす。


 無防備に相模に近づく豪に対しても相模が動かない。

 恐る恐る相模に豪が触れると、相模は仰向けに倒れる。

 気絶。

 相模は立ったまま気絶していたようだ。

 

 巨人は最後までその膝を地面につくことなく、その試合を終えたのだった。

今回のサブタイトルに合わせて前回サブタイトルを変更しています。

次回投稿は2/1 2:00を予定しております。

では、次回投稿で。

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