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30話 休養日 夜

「お前と言う奴は、お前と言う奴は!!」

 豪とソフィの部屋の中から、ソフィの怒声が響く。

 原因は昼間に行ったプールのせいだろう。豪の幸運というギフトは豪にだけは至上の幸運をもたらしたらしい。

 ちなみに、女性用水着ではワンピースよりもモノキニと呼ばれる前は繋がっているが、後ろはセパレートに見える水着や、ビキニの方がスタイルがよく見える効果が期待できるとか・・・・・・。

 ただの雑学であって、何も栗栖院とソフィが着ていたという確証はない。着ていない事実もないのだが。


 そして、左河合市にあるプールの多くは競技用に使用されるプールではなく、レジャー施設としての意味合いが強い。ウォータースライダーを利用した時、流れるプールなどで栗栖院とソフィと豪の身に何が起きたのかは、御想像にお任せするところとしよう。


「どうするんだ!? あの女『責任とってもらいますからね』なんて言っていたぞ! なんだ責任って!! 私だって取ってもらいたいもんだ!!」

 帰ってくるなり、仮面を脱ぎ投げ捨てて真っ赤な顔で豪に詰め寄るソフィ。

「だから、俺だけのせいじゃ・・・・・・」

「確かに、プールに誘ったのは私だ。ウォータースライダーに誘ったのはあの女だ! だけど、あの事態はお前のギフトのせいだろ!!」

「いや、そう決まったわけじゃ・・・・・・」

「いや! そうに決まっている。大体お前と同居することになってから、お前に痴態を見られることが多すぎる! 一人の時はそんなことなかったもん!!」


 興奮のあまりキャラが崩れるソフィ。確かに豪自体はそのことに気が付いていないし、本意ではない。

 しかし、その瞬間確かに豪は、幸運を感じている。

 すなわち、豪のギフトはラッキースケベ的にも作用しているのである。


 ソフィの詰問はまだまだ続く。論点は次第に日常生活で起きたトラブルにも及んでいく。

 ソフィの興奮はもう少しの間、続きそうである。

 男子だったら誰もが切望するであろう、トラブルは一時的に楽園に導いてくれるが、そのあとにこういった光景が存在するのかもしれない。


 

「はぁ、今日は散々だったな」

 やっとのことでソフィから解放された豪は、ため息交じりに愚痴をこぼす。

 時間は深夜に近くなっている。先ほどまで怒っていたソフィは、今は夢の中だ。

 豪は疲労を感じながらも、ベランダで夏の夜を感じていた。

 明日には角力ファイターの相模との一戦が待っているにもかかわらず、二人の女子に振り回され、プールで疲労し、自室では精神的に追い込まれる事態にはなったが、そこには暗い感情は起きてこなかった。

 

 明日の対戦相手のことを思い出してみると、朝にはあれほど絶望的に思えた戦力差も、今ではどうにかなるかもしれないと思い始めている。

 昼に忘却し、その後に別問題にて追い込まれたことで、思わぬ切り替えが出来たようだ。

 

 目を閉じて相模の姿を脳裏に呼び起こす。

 切り替えた今でさえも、その体格による有利は動かない。何度イメージしても確かに真っ向勝負でなら万に一つも勝ち目はないだろう。

 しかし、と豪は思う。


(仮に今日の出来事が全部、自分のギフトのお陰であったとしよう)

 プールで三人に起きたことを考えると、自分のギフトのせいで豪の中でかなりの高レベルなファイターである二人が、痴態を晒さないといけない状況に追い込まれたということになる。

 二人同時にだ。 相模とソフィと栗栖院二人、戦力的に二人の方が手ごわいはずである。

 それを追い込むことが出来た自分のギフトなら、相模に一泡吹かせることができるのではないだろうか?

 

 そう思うことで、豪の心から暗さが消えていく。

(それに、俺には誰も期待はしていない。皆、相模選手が勝つと思っている状況って今までと何も変わらないんだな)

 期待されていない。

 それは、嘆く人の方が多いかもしれない。しかし、豪にとっては日常の出来事だ。

 まずもって、ファイターになること自体が誰にも賛同されてこなかったのだから。


 だが、豪はそれを跳ねのけて今や、ファイターを育成する学園でも上から128人に残っているのである。

 むしろ、豪にとっては期待されていない現状が、望ましい状況と言えなくもない。


 上手く気分の切り替えができたのは、恐らく二人の美少女のお陰だろうと考えながら、豪は床に就く。

 豪の耳に同室者の寝息が届く。

 珍しく仮面を脱いだまま、ベッドに入っているソフィを思い出すと、自然に今日の出来事が思い出される。

 もちろんプールでの出来事も脳裏に呼び起こされる。

 豪は若干ニヤケながら、眠りに落ちていくのであった。

 

◇ ◇ ◇


 翌日、豪は一人試合会場となる学園のコロシアムに向かっていた。

 ソフィはまたも別会場のため、別々に出てきた。

 コロシアムの入口で、見知った顔に出くわす。

「ふむ。良い顔になったじゃないか」

 そう言ってきたのは、豪を指導している神木だ。

 昨日は豪の悩みを煙に巻くような態度であったが、上手く気分転換が出来たのかを確認しに来るあたり心配はしていたのであろう。


「先生、見に来たんですか?」

「いかんかね?」

「まあ、見ていてください。一泡ぐらいなら吹かせることができるかもしれません」

「ふふ、お嬢とあのおっぱい君はうまい事出来たみたいだな」

「え?」

「いや、こっちの話さ」


 それだけ言うと、神木は観客入口に向かって歩き出す。

 そちらでは、今日の試合の予想屋のようなことをしている生徒も見受ける。

 やはり、豪と相模の試合は相模有利と予想されているようである。

 中には、昨日掲示板で見た映像を見せている生徒もいる。


 だが、豪の顔は楽しいアトラクションでも待っているかのように、笑顔が浮かんでいる。

 もし、一時でも彼らの表情が凍り付く出来事が起きたら、それは豪の中では勝ちに等しい一時になる。

 豪は、今日の戦いを観客の反応を含めて楽しもうと考えていた。

次回投稿は1/28 2:00を予定しております。

では、次回投稿で。

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