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25話 努力対幸運

 豪は軽い後悔をしていた。どこかで順調に勝ち上がってきたことで、自分を強者であると勘違いしていたことに。 

 豪は懺悔していた。ソフィが自分のためにこの那須と言う選手を調べ上げてくれたのに、そのことを少しも活かせないことに。

 

 開始直後、豪は那須に対して先制攻撃を試みる。しかし、那須も心得たもので、豪が一歩足を踏み出す前に自分の最大火力を、大砲を撃ちけん制をして来た。

 那須が最も信頼する技。矢の軌道に掛かる空気抵抗を極限にまで排除する、『絶影』。

 風使いの弓使い那須は、自身の矢が失速することが何よりも許せなかった。

 一課ではあるものの入学当初、リングでは弓がどれだけ不利であるかを思い知った那須は、撃ち落とされ、失速し、躱される矢を自分と重ね合わせてしまった。

 

 ただ打ち出された矢は、空気と言う目には見えない物の影響を受け、必ず失速してしまう。

 それが、自分の挫折を表しているかのようで、周囲の嘲笑のようで許せなかった。

(ならば、誰にも避けることのできない矢を放とう。空気が邪魔なら排除してしまえばいい)

 それから、那須は何千何万を矢を放ち、自身のギフトをミリ単位でのコントロールを意識し、ついには矢の軌道の空気を最小限にまで排除することに成功する。

 

 風を筒状に形成し、その中の空気を可能な限り真空に近づけることで、放たれた矢は初速を維持し相手を襲う。

 それはまるで自分の信念が周囲を、限界を貫き未来と言う大空に羽ばたいて行くかのようであった。

 自分の信念と努力が自分を覆う暗い影を振り切って飛ぶ。まさに絶影は那須にとって自分を表現した最高の技と思っていた。


 しかし、そんな最高の技であっても最強たりえないのがファイター同士の戦いだ。

 那須が誇る最高の技を豪は紙一重ではあるが躱していた。

 放たれる度に豪の衣服が、頭髪が中に舞う。それでも豪は必死に回避行動を行う。

 速度を失わない矢を何故、豪が避けることができるのか?

 それは、那須が最高の技と疑わないことで見落とされたある欠陥が絶影にはあった。


 風で筒を形成し、真空に近づけることで速さは手に入れた。だが、その筒を作ったことで副作用が生まれてしまった。

 それは筒を通過する矢によって起こされる筒の内圧上昇と言う副作用。その結果筒の出口、つまり対戦相手の真正面に押し出され、僅かな風を引き起こすことになる。

 一瞬ではあるがその風が明らかな攻撃予告となってしまうことに、那須は気が付いていない。

 

 あたかもトンネルを電車が通過する際に発生する、トンネルドンと言う現象に酷似した現象が那須の技で生じてしまう。

 そのことに豪が幸運にも気が付いたのは、豪のギフトのお陰といって良いだろう。

 まして豪自身はまだ、武術をカジった程度の素人と言っても過言ではない。そもそも攻撃を躱せる時点で幸運と言って良い。

 

 那須は続けざまに躱される矢を見て、異常事態だと気が付く。

 自身の最高の技が、ことごとく躱されることなど久しぶりの事である。

 特に絶影を手に入れた後では、ほぼ皆無と言って良い。そんな奇妙な出来事が起きている。

 那須は攻撃の手を休め、豪を観察し始める。


(彼の特筆すべきは回避能力、恐らく瞬間的な速度上昇的なギフトと考えるのが妥当だ。でもそれだとこの状況は説明できない)

 一般的な速度上昇をギフトとして獲得している者は、持久力に乏しい傾向にある。

 中には特例もあるが、ギフトと言う才能を伸ばす方が有効だと考えるファイターが多くその特例はごくごく少数しか存在しない。しかも、その特例はほとんどがベテランと呼ばれる老練としたプロのファイターである。

 

(だとすると、未来予測的なギフトか? そうであればこの展開も、昨日の試合も説明がつく)

 ギフトの中には一課(エリート)二課(スルース)には区別できないギフトも存在する。

 特課(スペシャル)に分類されるギフトが確かに存在することはするが、そのギフトを持って生まれるのは数百万分の一にも満たない確率なので、ファイターとして出会う確率はさらに低くなる。

 代表的なものは那須のあげた『未来予測』。これは、多くは災害予測などに駆り出されるため、国が確保に勤しむので大抵ファイターにはなることは無い。

 また精度の問題もあるので、複数の人材を常に確保している。

 そして、過去に数例しか確認されていない複数のギフトを保持している者が有名ではあるが、検査でもそれが発見されることは少なく、都市伝説的な扱いとなっている。

 豪の幸運も確かに見る人が見れば特課と考えるかもしれないが、れっきとした二課である。

 

 那須は特課の可能性を考えて、自嘲する。そんなまさに特別な新人が入れば、学園はおろか世間が黙ってはいない。入学前から騒ぎになってなくてはおかしいのだ。

 那須は頭を切り替え、更に豪の観察を続ける。


 豪は那須の攻撃が止まったことを、普段は信じてもいない神に感謝した。

 いくら攻撃予告に気が付いたとはいえ、速度を失わない矢を躱し続けるのは至難の業だ。

 なので、豪は今のうちに那須攻略に動く。まずは情報を引き出す、事前に知りえた那須の情報を。


 思い浮かべた情報は、それ自体は明らかに豪が不利であると言っている。

(攻撃の精度、連射速度、これまでの勝率、情報に疎い僕が見ても勝つ見込みは低い。先制攻撃でかく乱しようとしたけど、それもできなかった。ではどうする?)

 試合前に考えていたプランでは、いつもとは違い自分から仕掛けてみようと考えていた。

 なんだったら、昨日の栗栖院にやられたようにタックルで密着しようと考えていた。

 

 しかし、豪の目論見は開始早々に潰されてしまった。結果いつも通りに後手からのスタートだ。

 ではどうするか?

 いつも通りを強要されるなら、さらなるいつの通りを行うしかない。


 豪は那須の情報の一切を捨てて、いつものように無心で攻撃に移る。

 当然警戒していた那須は、迎撃を考えるが豪の蹴り出した矢の行方を見て放置を決める。

 またしても、豪の矢は豪の制御を離れ勝手な方向に飛び去っていく。

 そう、いつも通りに。

次回投稿は、1/18 2:00を予定しております。

では、次回投稿で。

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