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20話 次戦決定

 豪の試合の後も続々と勝利者が名乗りを上げていた。

 その中には、もちろんソフィの姿もあった。

 ソフィは序盤は温存を目的としているのか、アームズ・デバイスを変更して戦いに挑んでいた。

 片手で振るえる槌、そう金槌の形をしたアームズ・デバイスを展開していた。


 いつもの戦槌ではなく金槌を使っているお陰で、いつもよりも素早い移動で相手を追い詰め側頭部の一撃で沈めていた。

 しかし、仕留めるまでにかなり対戦相手を追い回したせいで、ソフィの姿が観客には怪談の登場人物に見えたようだ。当の対戦相手はこの試合以降、何度も金槌を持ったゴリラに追い回される悪夢を見るようになり、ファイターを諦めざるを得なくなった。

 

 この時ソフィが使った戦法は、移動に使う蹴り脚のインパクトに合わせてギフトを発動し、自身の移動速度を上げるという荒業だ。

 誰かを意識したうえでの実験でも行っていたのであろう。

 ただただ、不幸な対戦相手である。


 そんなゴリラの怪談が新しく生まれた頃、別会場ではとある人物も勝ち上がっていた。

 卯月である。

 開催前に豪に接触し、豪を面白いと称したファイター。

 彼も無難に駒を進めていた。

 対戦相手を再起不能に追い込んで。

 

 卯月の試合が行われた会場は、その注目度に反比例して観客が少ない。

 恐らく、この大会でも上位に位置づけられる、このファイターの試合を観戦しようとするのは、ごく一部の怖いもの見たさの酔狂な生徒しかいない。

 そんな酔狂な生徒であっても、卯月の勝ちに歓声は上げない。

 絶句しているか、悲鳴を上げ会場から逃げ出すか、あまりの凄惨さに意識を失うかだ。


 試合終了後には、卯月の対戦相手は血の海に沈みメディカルスタッフに、緊急搬送されている。

 そして、当の卯月は試合を反芻(はんすう)するように、恍惚な表情で天井を見上げている。

 卯月の二つ名は、ずばり『狂戦士(バーサーカー)』だ。

 一般的な狂戦士のイメージは、自らの身体の損傷を気にすることなく、戦い続ける者と言うものだが、彼の場合は違う。

 彼は、意図して対戦相手を壊す。

 致命傷にならず出血する部位を切り裂き、向かって来ればさらに出血を求め、逃げまどえば追い回し出血を求める。


 彼の決闘においては、出血することが前提であった。

 そのため、対戦相手の同門の兄弟子たちは敵討のため決闘を挑み返り討ちに合っていた。

 それを繰り返すうちに、卯月のポイントはかなり高く。

 一年目の生徒の中では、最もポイントを取得しているのであった。


 一年目でかなりの生徒を自主退学に追い込んだ卯月は、早々に自治委員に目を付けられるが、決闘であることを理由に未だ何ら処罰されていない一部生徒の間で、恐怖の対象として有名であった。

 

 卯月は少しの間呆けていると、急に先ほどのことに興味を失ったかのように足早にリングを後にする。

 その顔は、次なる獲物を求めているかのような、飛び切りの笑顔で輝いていた。

 その姿がさらなる狂戦士(バーサーカー)伝説を生むのだった。


◇ ◇ ◇


 そんなことが起きているとも知らない豪は、会場を後に神木の研究室に来ていた。

 次の試合には、まだ4時間空いている。

 選手の出入りは自由だが、完全に会場を後にしてしまうのは豪くらいのものだろう。


「ドク、じゃなかった、先生! さっきの試合見ました?」

「ああ、見ていたさ。随分と手こずっていたな」

「いやぁ~、そうなんですよ。やっぱりあの設定じゃダメみたいですね」

「だろう? だから言ったのさ。さあ、早くしたまえ」

「お願いします」


 豪は、自分のアームズ・デバイスを神木に渡して調整が終わるのを待つ。

 豪のたっての願いで、以前と同じ設定で試合に臨んでいた。

 以前の設定とは、豪の幸運に強い偏りを持たせないフラットな設定だ。

 大会開催前に、手ごたえを感じていなかった豪は今回どうしても、違いを知りたいと願い出たのだ。

 そうして、一試合を終えて神木の考えの正しさを知ることが出来た。


「次の相手はもう決まったのか?」

「いや、まだみたいです。長引いてるのかな?」

「ほう? それにしては長いようだがね」

「そうですね・・・・・・あ、決まってました。えっと? ・・・・・・栗栖院(くりすいん)アリスだそうです」

(クリスなのか、アリスなのか分かりずらい奴だな)

 豪はその名前のややこしさに気を取られたが、神木はそうでは無かった。


「なに? 栗栖院だと!? ん~、君の幸運もこれまでかな」

「へ? 強いんですか? この人?」

「聞く前に、その端末で調べる位は出来ないものかね?」

「ああ、そうですね」


 豪は、通信端末で次なる対戦相手を調べる。

 データバンクには、栗栖院のデータが膨大にあった。

 栗栖院アリス。彼女はこの学園で第三席を与えられている二課の3年生だ。

 彼女のデータが膨大なのは、その試合記録の多さに加え試合時間の長さにも理由があった。

 その他にもその美貌に対する記事が数多く挙げられている。以前対外試合に出場した時には彼女目当てに観客が集まりすぎて整理券が発券され、その券にダフ屋が登場するほどであった。


 しかも栗栖院には、もう非公式ファンクラブが結成されていて、今年度の入学者の中にその会員が何名か潜入しているほどだ。

 潜入者は一般の生徒に紛れ、日夜栗栖院の画像をファンに提供している。

 そう遠くない未来、彼らは自治委員によって排除されることになるだろう。


 そして、栗栖院を目的としないで入学した生徒も彼女に魅入られ、学園内にも非公式なファンクラブが出来ている。

 豪が勝ってしまうと、彼らの不興を買うのは必至だ。

 しかし、負けた場合はその幸運が負けたことになり、どっちにしろ豪の幸運はこの対戦相手にはあまり効果が見られないということになってしまう。


 豪が検索を続けると、対戦相手が決まったばかりのこのカードが早速掲示板に上がっていた。

 その書き込みは近くで戦える豪に対しての羨望と怨嗟の声が渦巻いていた。

 とある書き込みに、豪の目が留まる。

『もし万が一、アリス様のお顔に攻撃でもしたらこいつを殺してしまうかもしれない』

 そう書かれた言葉には、制止する者は居らず同調の声が多数書き込まれていた。


(え? マジで? 勘弁してよぉ~! ん? あっ!!!!)

「先生!!! 設定戻して!」

「何言ってるんだ? 無理だ」

「お願いします!!!! 俺が殺されてもいいんですか!?」

「はぁ? どうした、落ち着き給え」

「これが落ち着いていられますか!! まだ死にたくないんですよ!」


 豪が神木に頼んでいる調整は、豪自身の幸運を強く反映するための調整。

 それは、豪の制御から完全に離れた攻撃を行うための調整。

 高確率で相手の意識を刈り取る為の調整を今現在行っている。

 もし、その効果が十全に発揮されたら豪の攻撃は高確率で栗栖院の顔に命中するだろう。


「彼女もできていないのに! 死にたくないんです!!!」

 悲痛な豪の叫びが、神木のラボに木霊した。


次回投稿は二日後を予定しています。

では、次回投稿で。

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