2話 少年の実力?
豪は玉を一つ蹴りだし、ソフィの繰り出す一撃から距離を取る。
戦槌が地面に激突すると、轟音を上げて砂埃が豪を襲う。
辛うじて、目を守ることが出来た豪の目にソフィの振り下ろした戦槌が映る。
戦槌の周囲に陽炎が発生し、ソフィのゴリラ顔が揺らめいている。
不意に周囲の声が、豪の耳に入ってくる。
「おお! ゴリ帝の決闘かよ!」
「相手、だれだ?」
「あ! さっきのちびっ子じゃね?」
そういった声が、沸き起こっていた。
彼女、ソフィ・セバスチアンヌ・アルレット・アルチュセールは、この学園でそこそこしれた存在だ。
ギフトは、インパクトの増幅と言う地味な能力にも関わらず、序列5位を入学から維持している。
ギフトは環境に影響を及ぼすのもが、上位であると考えられており、一般に一課ギフトと呼ばれる。
反対に自分にのみ影響を及ぼすものが、二課ギフトと呼ばれるが、残念なことに蔑称がある。
それはセカンド・レート、二流のギフトと言う意味だ。
ソフィはセカンド・レートに属するギフトであったが、その威力を最大限に高めることで、一課ギフトと同等の価値に高めることが出来た。
それを面白く思わない輩に絡まれ、結果として序列6位に収まることになった。
そんな彼女を称え、学園の生徒は『陽炎のゴリ帝』と陰で呼んでいる。
実際、目の前でその言葉を口にすると病院のベッドに半年以上いなくてはいけない羽目になるからだ。
ゴリ帝のゴリは、彼女の容貌から取っているのだから、当然である。
彼女は、自身が言うように乙女なのだから、心は。
ギャラリーが増えて、次第にオッズが公開される。
デカデカと、モニターに浮かぶそれは明らかに、ソフィ優位を知らせている。
豪に掛けている者も、真剣に豪が勝つとは思ってはいない。
そうであったら、面白い。
そういった、遊び心の表れだ。
ソフィの戦槌が数度地面を撃つ頃、ソフィの脳裏に疑問が生じる。
(何故、捕らえることができない!?)
これまでの戦いでは、2度ほど戦槌を振るえば相手を追い込むことができていた。
しかし、目の前の小さな少年は、巧みにコーナーに追い込まれないように動いている。
そして、いつの間にやら、足元には二個の玉が揃っている。
速度も身のこなしも、何かを修めたものではない。
しかし、現実にはこうして倒しあぐねている。
言いようのない不安が、ソフィを襲う。
まるで、死神に魅入られているかのような嫌悪感を伴って。
ソフィが距離をじっくりと詰めていくと、豪は高らかに宣言する。
「うん。そろそろ決着でいいかな? いくよ?」
それは、豪による攻撃の宣言にして、勝利宣言。
自分から仕掛けると、宣言してからの攻撃。
明らかに、自分を下に見た言い様にソフィは、突進を敢行する。
豪の足元から撃ちだされる玉二つ。
それは、重心をランダムに変化させ、フィールドに反射しながらソフィに迫る。
跳弾しながら飛んでいくそれは、蹴った本人にも軌道は読めなかった。
そう、豪自身にも読めない軌道、それでも豪には確信があった。
必ず当たるという確信が。
豪の侮辱ともとれる宣言に、血を頭に上らせたソフィの視界は豪を中心に狭くなっていく。
そして、戦槌の範囲に入った豪目掛けて、振り下ろす。
微動だにしない豪を訝しながらも、ようやく決着したと確信する。
ソフィの頭の中から、玉の行方が抜け落ちた瞬間でもあった。
決着はあっけなく訪れる。
戦槌を振り下ろしながら、前のめりになったソフィの顎と頭頂に左右から豪の矢が突き刺さる。
ソフィの頭部を盛大に揺らすことに成功した玉は、豪の足元に帰ってくる。
意識を手放したソフィの手から、戦槌が手放され盛大に飛んでいく。
戦槌が地面に激突し、音を立てる時には喧騒は止んでいた。
予想外の決着にギャラリーたちも言葉を無くす。
辺りには、決着を告げるブザーが鳴り響くのみだった。
少女にも劣る矮躯の少年が、誇らしく胸を張ると、周囲から歓声が上がる。
大穴を当てた生徒も、信じられないようにその場にへたり込む。
そんな様子を、遠くの部屋から観察している二組の視線がある。
一組は、背の高い木の上から肉眼で。
決着を見るとその姿を消す。
二組目は機械的に、暗い部屋に映し出されたモニターで観戦している二人組。
「彼が、そうなんですか?」
「ああ、見ただろ? それ以外に説明できるかい?」
「それは・・・・・・難しいですね」
「やっと現れたのさ、ギフト・オブ・ギフトの器がね」
二人組の男の方が慈しみを持った目で、モニターに映る豪を見ている。
女の方は、訝しんだ目を向けている。
「さぁ、二人を呼んできてくれないか? 計画の最初の一幕を始めようじゃないか」
「はい」
部屋に数秒、光が入り込み女が出て行く。
男の目線は、今もモニターに釘付けになっている。
「さぁて、どんな遊びで迎えてあげようかな?」
手元に置かれた紙に、男が目を落とす。
「ふぅん、フフフ。初めは今回のご褒美からでもいいかな?」
先ほどの慈愛に満ちた表情とは、打って変って少年のような、本当に幼い少年が悪戯を画策するような無邪気と言って良いような、そんな表情が浮かんでいる。
「フフフ、アハハハ、ハァーハハハハ、ッゲホッゲホ」
この男の計画とは、本当に機能するのだろうか?
この姿を先ほどの女がいたら、一抹の不安を覚える姿であろう。
こうして、宇院 豪と、その取り巻く環境が織りなす物語は始まりを告げるのであった。
全話で案内不足だったので、ここでさせてください。
本作は最初の3話を連日投稿し、以降2日後に最新話を投稿していくつもりです。
また、時間は投稿日の午前2時に予約投稿していこうと思います。
ですが、日によっては投稿時間が大幅に遅れる可能性もありますがご了承ください。
完結目指して投稿を続けたいと思います。
ではでは。