18話 控室にて
開会式に並ぶ豪、自分は本当についているとそう思うのだった。
(入学して二か月でこの大舞台、俺って本当に幸運だよな)
これまでのポイントと通知二か月の決闘の勝率合わせて、豪を含めた上位512人が開会式に集まっている。
これから、10回戦の後本選出場の切符を手にする8名が選出される。
豪が周りを見渡すと、ソフィの姿が目に映る。
(そうか、ソフィも出場するんだな)
席次6位のソフィはもちろん、ここにいる511名は全員が豪とは比べものにならない経歴を持っている。
3学年ある学園の中でも常にトップを走り続けた猛者がこの豪を除く511人だ。
そう考えると、豪がここにいる事が不釣り合いに思えるが入学と同時に手に入れた200ポイントとこの二か月で70勝は、それなりの成績であることを豪はまだ知らない。
最初の512人に並び、本選の64人、そして本来のトーナメントの32人とステージを重ねるごとにファイターとしての名声は上がる。
豪の望みでもある身長を度外視にしてもモテる為には、少なくとも本選には残らないといけないだろう。
もし万が一ワイルドカードを手にでもしたら、モテの他にもハニーなトラップも用意されることになるかもしれない。
豪がグフフと気味の悪い笑みを浮かべながら、ソフィとは逆の方向に目を向けると覚えのある顔が目に入る。
(あ、あれって確か・・・・・・卯月とか言ってたよな?)
何時だったか、トイレの外で豪にこの大会のことを教えてくれた人物。
卯月と名乗った人物がそこにいた。
豪の戦いを見て、面白いと称した人物。
豪が本能的に強者だと認識した人物がこの開会式に並んでいた。
(そうか・・・・・・あいつもいるのか!)
豪の胸が躍る。ソフィと神木以外に自分を認めた人物がそこにいた。
願望を忘れて、豪の視線は卯月に釘付けとなる。
(出来れば、アイツとも戦ってみたいな)
自然にそう思える相手との対戦。男子であれば望むべきシチュエーションである。
互いを認めてくれるライバルの存在と言うのは、本人の努力だけでは得ることのできない貴重な存在だ。
大会組織委員のお偉方の挨拶が終わると、いよいよトーナメント抽選となる。
512人と人数が多いために、機械によるランダムな抽選となる。
10回戦16日に及ぶ過酷なトーナメントが、始まる。
◇ ◇ ◇
各会場に振り分けられ、控室に通されるとこれより先は何をするでもなく順番を待つ。
今なお廃れることを知らない競走馬の世界のようである。
各選手は控室において、自己の精神を静める精神統一を行っている。
だが、そう言った精神修養を行っていない豪にとっては、待ち時間と同じ長さで緊張が重なる。
椅子に座ってもストレッチを行っても、身体に力の入らないフワフワとした身の置きようのなさや、ソワソワとした緊張感から逃れる術を持たない。
それが、良くないこととは理解しているが和らげる方法を持たない豪の耳には、時計が刻む秒針の動きだけが届いている。
緊張を解くことを諦めた豪は、目をつぶり耳に入ってくる秒針の音だけに集中する。
目をつぶると、神木と行ってきた訓練の記憶やこれまで行ってきた決闘の記憶が呼び起こされる。
そのどれもが、自分にとっては大事な、だけれどもやや辛い記憶だ。
果たして自分はこれまでの訓練で神木が言っていたような動きが出来ていただろうか?
これまでの決闘でどれほど会心の出来があっただろうか?
70戦一つ一つ思い出しても、確信的な戦いは無かった。ただ、自分のギフトの導くままにここにいる。
心のどこかで、自分がここにいる事が場違いなのではないかと誰かが問いかける。
きっと、これからもその問掛けは聞こえてくるだろう。いや、勝ち進んで行けばそれだけ声は大きくなるかもしれない。
これは、このギフトで頂点を望んだ自分の罪と言って良い。
誰かの努力を誰かの修練の全てを台無しにする行為。それをちっぽけな自分の望みを手にするために選んだのは自分自身だ。
それは、確かに醜い我儘なのかもしれない。
落ち込み始めた豪の心に、(だが待てよ?)と声が掛かる。
先ほどから浮かんでは消えている決闘の数々。対戦相手の彼彼女らは、確かに自分とは違い多くの時間を努力に費やしたのかもしれない。
ただ、そうして努力した結果があの決闘と言う行為に繋がるのか?
努力をしていれば、右も左も分からない新入生をカモにしてもいいと結論付けてもいいのか?
そんな訳はない。
あの決闘たちは、言い換えればこの学園のシステムを悪用した不正行為だ。
要するに話題をかっさらった自分に土を付けたことをふれ回り、自分が有名になりたいと思う承認欲求のなれの果てだ。それは、この大会であっても変わりはない。
ファイターと言う、所謂人気商売をするために出場しているんだ。
ならば、そこに貴賤はない。
醜い我儘はお互い様だ。
ならば、自分のために生き抜くことが最も紳士的態度なのかもしれない。
豪は、そう結論付けて現実世界に戻ってくる。
(でも、ただ一人)
最後に顔に浮かんだソフィを思い出し、彼女だけはそうでは無いと知っている。
彼女だけは、素顔を醜いゴリラとしてでも成し遂げたいことを持っていると思いだした。
今棚上げした問題に何時か答えを出さないといけない。
そう思う豪であった。
目を開けると、先ほどのフワフワ、ソワソワした感覚は無くなり秒針の音も遠くなっていることに気が付く。
手を握ってみると、自分の拳に力が入る。
身体のチェックをすると、神木と訓練していた時のコンディションと同じ状態になっている。
最終チェックを行っていると、ノックの音がして扉が開かれる。
「宇院豪選手、試合会場にどうぞ」
「はい!」
控室を出て、薄暗い廊下の先の眩しい空間に目を凝らす。
「ここからだ」
豪は、一人そう呟いて歩き始める。
2分後、控室にアームズ・デバイスを忘れて走って戻ってくる姿があったのはご愛敬だ。
次回投稿は二日後を予定しています。
では、次回投稿で。




