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17話 ドクの思惑

「ふげぇ!」

 潰れたカエルの様な声をあげて、豪の目の前の生徒が今、リングに沈む。

 決闘の開始直後、豪の蹴りあげた矢が跳弾し、後頭部に直撃を喰らいKOとなった哀れな生徒。

 

 立ち去る観客達は、今日の娯楽の感想を話し合う。

「いや~、今日は秒殺かぁ~」

「そう言えば、相手って誰?」

「さぁ~、田沢だか戸沢だか?」

「お前ひどいなぁ~、名前ぐらい覚えてやれよぉ~!」

「お前だって知らないじゃん!」

「あはは、確かに」


 今日豪と対戦した生徒は中沢と言う。奇しくも豪と対戦してKОタイムが速い順に中沢、聖澤、轟沢と並んでしまった。

 この三人をとある生徒が学園の端っこの立ち木に、彫刻し必勝祈願を掛けたことで、彼らの名は学園史に残ることになる。その像は『三沢呪願像(さんざわじゅがんぞう)』と呼ばれて、信心深い生徒などに親しまれるようになったのはしばらくたってからのお話。


 それとはまったく関係なく、リングを降りる豪の顔が冴えない。顔が悪いという意味ではなく、その表情はどことなく落ち込んでいる。

 意を決したように走り出す豪。

 豪が向かったのは、神木の居る建物。通称ラボだ。神木以外にその呼び方をするものは居らず、当の神木も呼び方の普及に諦めを見せているため、その呼び方が定着することは今後もないだろう。


「ドク! やっぱりこのアームズ・デバイスは使いずらいですよ!」

 部屋に入るなり、神木の姿を確認せずに言い放つ豪。

「豪、レディの部屋に入る時はノックをしたまえ」

 豪への対応を冷静に行う神木の姿は、何もつけていない生まれたままの姿だった。

「ひゃっ! ごめんなさい!!」

 神木の姿を確認した豪は、慌てて扉を閉める。


 豪がソフィ以外の裸を見るのは、これで2回目。即ち、神木は前にもこうして豪に裸を見られている。

 神木は何故こうも落ち着いているのか? 前回見られた時には、何がどうなったのかは未だに不明だが、結論から言えばその胸を0距離で見られている。

 なので、こうして裸だけを見られた状況は、双方にとって幸運であると言える。

 前回は流石の神木も狼狽したが、年下のそれも幼さを極端に残した豪に見られたとしても、神木は親戚の子供と風呂に入ったときと同じぐらいの感情しか生まれていなかった。


「入っていいぞ」

「失礼します」

 今回は中を確認しながら入ってくる豪の姿を見て、神木は可笑しく思えてしまう。

「で? どこが使いずらいというのかね」

「あ、はい。・・・・・・やっぱりこの調整だと、思う様に扱えないんです。どこに飛んでいくか分からないというか・・・・・・」

 呼吸を整え、ゆっくりと話し出す豪に、神木はため息を吐く。

「豪、何を勘違いしているのかわからないが、お前にはこの調整がベストだよ」

「っで、でも――」

「まぁ、聞き給え。君は私から基礎を習ったからと言って、それがこの学園で通じるとでも思っているのかね?」

「え?」

「考えてもみ給え、君と戦う相手のほとんどは、これまでもなんかしらの武術をカジって来ている。それで、幾ら君が基礎を習ったからと言って、相手の先行している分野で戦えるわけがないだろう? 体格、筋量、時間すべてで君が勝る項目は何もない。勝てるとしたら、それは君のギフト、幸運のお陰さ」


 確かにと、豪は考える。豪が望んだ確信の持てる一撃。

それは、武術家としての成長にはなるかもしれない。では、それで勝てるのだろうか?

 自分の体を見れば、それが絶望的であることは明白だ。

 やはり、ギフトだよりの一撃、幸運任せのラッキーパンチしかないのかもしれない。

(まてよ? だったら、ドクはなんで俺に基礎を教えたんだ?)


「まだ分からんかね? 君に武術を教えた意味が」

「・・・・・・はい」

「いいかい? 君には攻撃手段としての武術は必要がないんだ。君に必要なのは、防御手段としての武術さ」

 古来から武術における防御は、素人には行えないとされている。

 情報が氾濫した豪の世代であっても、それは変わらない。

 何故できないのか? それは、方法論を知らないのと速さが違うからだ。

 武術による攻撃は、武術による防御でしか防ぐことは出来ない。

 それを、神木は教えたかったようだ。


「それにだ、武術で速さと言うのは攻撃にも防御にも使える優れモノだ。だから言っただろう? 速くなれと、神速を貴べと」

「でも、速さなら依然と変わりませんよ?」

「はぁ~、そんな言葉が出てくるとはな。武術における速さとは、物理的な速さとはイコールではないのだよ。例えば足を止めていても触れられなければ、それは速いと称されるだろう? 相手が避けた先に拳が置いておければ、速いといわれるだろう? そう言うことさ」

「?」

理解が追いつかない豪が、首を傾げる。


「無理に知らなくてもいいさ。何より実行できることが肝要だからな」

「はぁ、・・・・・・?」

「さて、それではその所を重点的に訓練していくかね」


 こうして、豪の理解は深まることは無く、豪の訓練は続いていく。

 幸いにして、ある程度の実力者たちが決闘を取り下げたため訓練の時間は十分に取れ、それでも決闘を申請してくる実力の伴わない者たちを豪の実験台にして、豪と言うファイターのひな型が出来上がっていく。


 優速にて攻撃を躱し、自身の意図さえ及ばない角度から攻撃を仕掛ける。

 それまでの武術を否定するかのような、そんなファイターへの階段を豪は着実に上がっていった。

 

 そして、学生限定トーナメントの学内予選が始まろうとしていた。

次回投稿は二日後を予定しています。

では、次回投稿で。

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