16話 新しい牙?
「んーと、これで・・・・・・出来たぞ! 豪これでどうだ?」
「え? もうできたんですか?」
豪と神木はお互いのアームズ・デバイスに対しての見解について話し合い、そして豪にとっての現状における最適解をだした。早速アームズ・デバイスをいじりだした神木は、ものの10分程度で作業を終えてしまった。
「まぁ、私に掛かれば容易いことさ」
豪の言葉に上機嫌で答える神木。
その様子を面白くない表情で見ているゴリラ・・・・・・ソフィがフンと鼻を鳴らす。
「そりゃあ、早いに決まっているだろ。この人を誰だと思っているんだ? 数々の調整師の中で数少ない二つ名をもつ調整師だぞ」
豪に対して嘲笑の目を向けるソフィ。反面そんなことも話していなとホッとしている自分もいるのだが、それはソフィ自身も気が付いてはいない。
「調整師? 二つ名?」
豪には聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
その行動は幼い少年そのものに見えてしまい、ソフィと神木は顔を合わせて笑いだした。
「本当に何も知らないんだな、授業をちゃんと受けているのか不安になるな」
「教授、きちんと言ってやって下さい。こいつは座学は寝てばかりで・・・・・・」
調整師とは、アームズ・デバイスをファイターに合わせることが主な役回りだ。
実際この学園の隣の敷地では、ファイターになることを早々に諦め、それでもトーナメントに係わる仕事を夢見る少年少女たちが、アームズ・デバイスの構造などについて勉強している。
その調整師の中で二つ名を持ち合わせている者は、そう多くは無い。
最も権威のある二つ名は天目一箇神。数多くのギフトオブギフトの調整師をしていた男の名で、現在は一門を多く抱える調整師の神様と崇められている。
この名は現在世襲制をとっていて、調整料も高額になっているという。
「教授は妖精の鍛冶師と呼ばれる珍しいファイター兼調整師なんだ」
「ま、ファイターとしては2流もいいところだがね」
「現役の・・・・・・ファイター・・・・・・」
豪の目がひと際輝きだす、憧れた職業の人が目の前にいたという驚きと、そんな人に師事を受けていたという感動、そしてそんな人と出会うことが出来た幸運が豪の中に渦巻いている。
「そんな目で見られてもな、私はとうに落ちぶれたファイターなんだから」
実際神木はここ何年も表舞台に立ってはいない。とあるファイターに完膚なきまでに敗れてしまったことをきっかけにスランプに陥っていた。そして低級のファイターの寿命はそう長くはない。現在の神木はファイターとしては誰からも見向きもされていない。
「それよりも! 豪、試し切りをしてくるか?」
「試し切り? ・・・・・・ああ、そうですね。色々と試したいです」
「そうだな、ただ一度決闘回避の願いを取り下げると、次はいつ取れるか分からないぞ? それでもいいか?」
「はい。大丈夫です」
「じゃぁ、いってこい」
神木は自分の通信端末で、豪の決闘を許可する操作を行う。
すると、豪の端末が鳴きだす。待ってましたとばかりの決闘要請が豪に届く。
「行ってきます」
頭を下げて走り出していく豪を見送る神木。
自分には無い時間と言う代えがたい宝を持っている豪が、いささか眩しく見えるのだった。
「お嬢、君は行かないのかい?」
「私に挑戦してくる奴はあらかた潰しましたからね。今はこの通り」
ソフィは神木に自分の通信端末を見せながら、肩を上げる。
「そうでは無いよ。豪を追いかけなくていいのかい?」
「そんな、私には無関係ですし」
神木の意地の悪そうな顔を向けられて、ソフィは慌てて顔をそむける。
「そうか・・・・・・では、どうする?」
「・・・・・・あ! 急用を思い出したのでこれで失礼します」
ソフィが走り出し部屋を後にすると、残された神木は肩を震わせて、その背中を送り出す。
◇ ◇ ◇
豪の向かった先では、久しぶりに行われる娯楽を今か今かと待ちわびた生徒でごった返していた。
一人の生徒が豪を見つけると、歓声が徐々に広がり所々で『童顔』コールが起きる。
豪がひとしきり辺りを見渡して、リングを見ると今回の対戦相手を見つける。
相手の名は聖澤聖人。なんとも神々しい名前である。
すでに、聖澤はアームズ・デバイスを展開しており豪がリングに上がるのを待ちわびている。
この聖澤、今までの対戦相手とは違い顔は男から見てもかっこよく見える。
しかし、残念ながら実力が伴っておらずこの学園では、モテランキング下位である。
残念なイケメン。それが彼の通り名となっている、ある意味有名人ではある。
手にしているアームズ・デバイスは槍の形をしていて、その高身長も相まってかなり長いリーチを有している。体格も悪くなく速さも人並み以上、彼がランキング下位である理由が良く分からない。
そんな存在だ。
豪は、相手の情報を確認するとリングに上がる。
一週間とは言え、現役のファイターに鍛えられた自信がその顔に溢れている。
そして、展開したアームズ・デバイス。これが有名調整師に調整してもらったものと来れば、豪の自信も分からなくもない。
しかし、そううまくいかないのも現実である。
開始早々、豪の放った矢は見当違いの所に飛んでいき豪の制御を離れる。
好機と見た聖澤がラッシュを繰り出すが、豪は紙一重でそれをかわす。
アームズ・デバイスは言うことを聞かないが、自分の体はそんなことは無い。
そのギャップに、豪は苛立ちと焦りを募らせる。
観客はこれまでとは違う展開に、大盛り上がり。賭け率も久々に豪の倍率が低くなっている。
ただ、一部生徒は驚きの表情で固まる。これまで確かに一撃も貰ってはいない豪ではあったが、攻撃を避けるその様は何とも無様で、見ていてとても滑稽なものであった。
それが、一週間開けただけでこの違いは何だというのだろうか?
明らかに、豪は聖澤の攻撃を目で見て避けている。何だったら聖澤の機先を読んで避けているようにも思える。
これまで、組みやすしと思っていた中位ランキングの生徒たちは、急ぎ決闘を取り下げる操作を端末に行う。
聖澤も自分が押していると感じてはいるものの、どこかに違和感を感じている。
目の前の豪は、確かに攻撃の糸口を見いだせていないように見える。
しかし、先ほどから目の前でそこにいる豪に言いようのない恐怖を感じる。
攻撃の合間に、自分の足元を確認すると、聖澤は驚愕の事実に気が付く。
先ほどから自分は、一歩も動いてはいない。それは豪も同じである。自分のレンジでベストと思える攻撃を繰り出しているようでその実、豪に誘導されているのでは? そんな疑念が聖澤に生まれる。
豪が行っている小刻みなステップ。半径1メートル以内で自分の攻撃が避けられている事実に気圧され、聖澤は大きくバックステップし距離を取る。
引いたところで、体勢を整えようとする聖澤の視界におかしなものが映り込む。
開始早々、どこかに飛んでいった豪の矢が、今にも自分に襲い掛からんと飛んできているのである。
豪の足元には、二の矢が置かれており今にも放たれようとしている。
聖澤の脳裏に、『十字砲火』の文字が浮かび出る。
ここにいてはいけない! そう感じながらも整わない体制のせいで一拍、ほんの一拍動きが遅れてしまった。そこに飛んでくる豪の二の矢。目の前の大きく映った二の矢とは別の方向からの衝撃で、聖澤の意識は立ち消える。
聖澤の身体が倒れると同時に、観衆のどよめきが起きる。
大半の生徒が何が起きているのかわからない中、苦々しい表情で会場を後にする生徒が数人見受けられる。
次の大会の思わぬ伏兵。その存在を意識した実力者たちが早々と立ち去っていった。
そして真の実力者たちは、その様子を楽し気に見つめていた。
本当に読んでくれている方がいるのか、不安ではありますが次回投稿は二日後を予定しています。
では、次回投稿で。




