14話 二度目の遭遇
「ほら! そこはもっと引き付けて躱すんだ!」
豪は、豪に迫る豪のアームズ・デバイスをかれこれ30分以上避け続けている。
先ほどもこれと同じメニューを、1時間ほど行っている。もっと言えば、今日朝早くから神木の下を訪れてからこれしかやらさえていない。
ひたすら迫りくる矢を敵に見立てて、足元に書かれた直径1メートルの円の中で右往左往していた。
豪は、延々と続く反復に文句の一つも言わずに従っている。
1週間前神木と初めて出会ってから、これまで1日全く同じ訓練をやらされていた。
ある日は、ひたすら手押し車で林の中を往復し、またある日は細い杭のうえに立たされるなど、豪には意味が分からないことをその日1日延々とやらされる日々を過ごしていた。
その間決闘は無かったのか? もちろん申し込みは、今も捌ききれないほど来ている。
では、それらはどうしているのか?
1週間前に神木は、自分の持つ端末で豪の指導者としての登録を済ませるとある操作を行った。
『指導者権限による、決闘拒否申請』という操作を行った。
決闘自体は生徒同士のいざこざを治める自治行為の範疇である。しかし、特例として病気、怪我による回避は認められている。では、それは誰が判断するのか?
それは、教師であったり、メディカル・スタッフの医師であったりするのだが、当然この学園はファイターを育成する機関であるわけで、生徒のトレーナーも出入りしている。
それらは、自身の選手が壊れないようにサポートする権限を持ち合わせている。したがって、選手が決闘を行えないと判断したトレーナーや指導者にも決闘を拒否する権限が渡されている。
それにはある程度の理由は必要ではあるが、豪の場合は『過度のトレーニングによるオーバーワーク』であった。事実豪は、最近では東雲に渡されたメニューの2倍を行っているため、一般的には明らかなオーバーワークで、身体の他の部位に手が回らないというのが、実情だった。
そこで、決闘に時間を取られると神木の訓練に支障が出るため、神木は決闘の拒否申請を行った。
豪が、どうしても知りたいと願ったことは、意外と簡単な方法であった。
それからは、足腰よりも他の部位や簡単な技術を反復させている。
そして、1日同じことをやらせているのにも訳がある。
豪は、ファイターとしては心が弱い。どんな武術、格闘技においても精神鍛錬と言うのは必要になる。窮地に陥ったときでも自分の身に着けた技術に迷わない、そういった心構えは一切学んできてはいない。
そのため神木は、豪には同じ作業を延々とさせていた。
そして、今日は延々と避ける技術の指導だ。最少の動きで避ける、理想ではあるが、それが出来るファイターはそう多くは無い。ギフトという恩恵のある現代のファイターは、先手必勝と考える風潮がある。
生身では到底出せるわけのない攻撃力でも、ギフトであれば可能になる。どれだけアウト・レンジでも攻撃できるそれが、ギフトである。
(来る日も来る日も、防御ばかり。間に合うのかな?)
豪の中で不安が募る。確かに基礎をと希望したのは自分である。
しかし、近づいている大会に勝てるのか? そんな疑念が生まれないわけがない。
(でも、この人を信じようとしたのは、自分だしな)
藁にも縋るつもりで、自分から希望したことを他人のせいにするほど豪は、弱くはないようだ。
「よーし! 今日はこれまで!」
「あ、ありがとう・・・・・・ございました」
足腰だけではなく、全身に広がる疲労。これまでは感じることのなかった疲労感にどこか満足感を感じる豪がいた。
「豪よ、そろそろお前のアームズ・デバイスの調整も行いたい。少し時間をくれるか?」
「はい、いいですけど?」
アームズ・デバイスは、長くトーナメントで使用されてきた道具であり、世代によってアップデートされてはいるが、個人による調整というのは聞いたことが無い。豪は怪訝そうな表情だ。
実際、使用する形状を決めるだけで、その後はあまり整備も行われないのが一般的である。
元々戦う為に作られた道具だけあり、衝撃にも強い。そして、形状が変化するという昔では考えつかないような技術が使用されているのが、アームズ・デバイスである。
「不思議か? お前のような学生では、やるやつは多くは無いがな。トッププロの連中なら当たり前にやっていることだぞ?」
「へー」
豪は意外だと思った。
神木と出会ってから、意外と時間に都合がつくようになり、神木の経歴に付いて少しだけ調べた。
しかし、神木の名前が過去の学園、そしてトーナメントに載っていることは無かった。そんな神木がトッププロの世界を、さも知り尽くしているかのように話すことがとても意外に聞こえた。
(そう言えば、先生の流派も知らないや。・・・・・・後でソフィに聞いてみるか)
何となく、豪は目の前の人物についての疑問を本人に聞くのが憚られていた。
教授と呼ばれ、自らを博士と称するこの人物に本格的に興味がわいてきた瞬間でもあった。
「何してる? さっさと来ないか」
「はい、先生」
「うむ」
何時かの部屋に通され、計測器のような物を繋げられてベッドに寝かされる。因みに、上半身は裸で下半身はトランクスのみ。
所謂パン一の状態で寝かされている。
(ここで脱ぐの二回目だな)
そう考えながら横になっている豪。
「寝ててもいいが、あまり動くなよ?」
そう言うと、計測器の方を熱心にのぞき込む神木。
(寝ててもいいって・・・・・・)
指導を受けているとはいえ、良く知らない人物、しかも女性の前で半裸になって眠れるほど豪の心はピュアでもなかった。
目を閉じていれば、神木の方から衣擦れの音が気になり、目を開いていても怪しげな機械が目に入り落ち着かない。
「おい! 動くな、計測結果に誤差が生じるだろうが」
「・・・・・・はい」
動くなと言われれば、どうしても落ち着かなくなるが人間というものだ。そして、動けば動いただけ拘束時間が増えるのもこういった計測にはありがちだろう。
神木は、早々に終わらせるつもりであった。何故なら、この後来客を予定していたからだ。
流石に、その人物に今の豪の姿を見せるのは刺激が強いだろう。
そう考えていたが、思う様に計測結果が出ない。
「ふぅ、やっと結果が出たか。豪、服着て良いぞ」
「はぁ、わかりました」
そう、豪が答え神木が時間を確認する。神木の目には約束の時間に見える。
ドアがガチャリと音を立てて、開く。
「教授ー? マスクのこと――」
「お嬢、今は――」
扉を開いた人物、ソフィが目の前の豪の姿に視線が釘付けになる。二度目の豪の半裸。
初めての光景ではないとは言え、ソフィには予想していない光景がそこに有った。
しかも、自分の声に反応し豪の目線が自分に向いている。
「あちゃー」
初めに反応したのは、この状況を作った神木。
「なっ!」
そして、次は声に詰まったソフィ。
「きゃあーーーーーーー!!!!」
最後は悲鳴を上げる豪だった。
悲鳴に怒ったソフィが、マスクを豪にぶつける数秒前の出来事だ。
次回投稿は二日後を予定しています。
では、次回投稿で。




