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12話 教授か博士かその他か

 学園の誰も踏み込まないうっそうとした林の中を、男女二人が連れ立って歩いていた。

豪とソフィである。人目につかない場所に二人きりと言うシチュエーションではあるが、二人がここにいるのは、そう言った色っぽい理由ではない。

 豪が切望していた自分を鍛え上げてくれるであろう人物。

その人が、この林にいるらしい。


 人目につかない所に入り浸る人物、行き来の利便性や人との交流を全く考慮していない所を拠点としている時点で、その人物は大層な変わり者だろう。

 もしくは、精神的に幼い・・・・・・はるか昔から人口の数パーセントに発症すると言われている奇病、厨二病患者に違いない。

 この病気の有効な治療手段は、幾時を重ねたこの時代にも確立していない、不治の病だ。

実際死ぬことはないが、社会的に、もしくは社会性が死ぬことはある。

 いずれにしても、完解はあり得ない。自分又は、他者からの暴露によりかなり高確率で、患者の社会生活が脅かされる。恐ろしい病気である。

 前身が世界保健機構である団体も、近年この奇病に対して警告する文書を作成したとかしないとか。文書を書いた人物が南極に飛ばされたとかクビになったとか、恐ろしい病気であることには違いがない。


 そんな残念な人物が、豪の指導者に相応しいとソフィは推挙してきた。

この少女の心根は意外と黒いのかもしれない。

(こんな所に人がいるのか? いや、ソフィを信じよう)

豪は辺りを見回しながら、不安が募るのを感じていた。

 ただ、自分が依頼しておきながら、ソフィを疑うのも気が引けている。

今は、この仮面少女を信じることにしたようだ。


 豪はここに来るまでに、その人物についてソフィに質問している。

『腕は確かだ、現役なら間違いなく世界ランカーだ。そこだけは信じてくれていい』

そう答えていた。

 腕だけは確か。その言葉には人となりについては言及してはいない。

 総合して考えれば、間違いなく性格が悪いか厨二病だろう。

この病気は――割愛。


「着いたぞ、ここだ」

 表情が硬いソフィは、道中初めて豪の顔を見て話した。

 ソフィにも葛藤のようなものが有ったのかもしれない。

 この人物に、豪を引き合わせてもいいのかという不安が。

 そして二人が訪れた建物、壁には一面苔と蔓がまとわりついていて、まともに掃除もされていないことが良く分かるように、窓も砂ぼこりで汚れている。

 こんなところで修行したら、窓ふきを修行の名目でやらされることだろう。

 きっとその時の掛け声は『ライトサークル、レフトサークル、アップ、ダウンね、ダ○エルさん』に違いない。


 ソフィはゆっくりと扉を開けて中に入っていく。

 豪も、恐る恐る建物の中に入っていく。

 建物の中は暗く外の光も届かず、照明も焚かれてはいない。

「教授! 居られるかー!」

 暗い中ソフィの声が響く、その音頼りに豪はゆっくりとソフィの後を追う。

 奥まった所の扉から、光が漏れているのを見つけると、ソフィは小走りに扉に向かう。

 豪もつられて、小走りになる。


「きゃっ!」

 短い悲鳴と同時に、目の前を走っていたソフィの影が消える。

 豪は咄嗟の判断で、避けようと行動するが間に合わず、柔らかい何かにつまずく。

 暗く視界が不良でも視界が回転する感覚を感じながら、手を伸ばすという防御反応が起きる。

 回転が終わった豪の手に、柔らかな感触が伝わる。

(まさか! またか・・・・・・)

 

 手に残る感触から、間違いなくソフィの身体に触れてしまったことを自覚した豪。

 最悪また病床生活になるだろう。

「あっ!」

 短いソフィの声。その声の距離は胸にしては遠く感じる。

 よくよく確かめてみれば、前回の様に柔らかいだけの感触ではない。

 どこか筋肉の固さを感じる柔らかさだ。

(よかったー! 足か)


 いくらソフィでも、足に触れたぐらいで病床生活にはしないだろうという安堵が生まれる。

(しかし、足にしては随分と丸い・・・・・・!!!!)

 一つの可能性に気が付き、豪は咄嗟に手を離す。自分の体勢も考慮せずに。

 手を離した豪の上半身は、その支えである片足が厨二、では無く宙に浮いているため豪自身では支えることが出来ず、重力に逆らえず下に落ちる。

 今まで手で支えていた場所に。


「ひゃん!」

 先ほどとは違う様子の悲鳴が聞こえる。

 下でもがくソフィを感じながら、豪は思うのであった。

(今回は死ぬかも)

 顔は柔らかさを感じながら熱を持つものの、頭の中ではこれを幸運とは理解せず、死刑宣告と認識したようだ。


 それから数十秒の後、乾いた音が響き光の漏れる扉が開かれる。

「教授、居られるか?」

 ソフィの声が若干上ずっている。

「お嬢、教授と呼ぶなと言っただろう」

 気だるげな、若い女性の声が返ってくる。

 白い髭を蓄えた老人ではない、真逆の存在のようだ。


「教授も私のことをお嬢と呼ぶだろう? お互い様だ」

 軽口を叩く相手との接触のお陰で、先ほどのソフィの緊張も和らいだようだ。

「まったく。で? そこの紅葉を付けた少年は誰だね?」

「ああ、先日話した宇院豪だ。豪、こちらは神木結衣(かみきゆい)教授だ」

 豪は神木結衣と紹介された女性が、教授と呼ばれるには若いと感じられた。

 15歳の豪にとっては年上の女性は、あまり触れ合うことのない存在であり、歳を読み取るなんて高度な洞察力もないため自身はないが、どう見ても彼女は20歳前半に見える。

「・・・・・教授?」

 頭を下げながら、疑問を口にする。

 

「ああ、気にしなくてもいいよ。ソフィが勝手に言ってるだけだからね」

 そう説明する表情は、日常的に見ているソフィのやや高慢な表情とは違い余裕のある大人の表情だと感じた。

「神木結衣だ、私のことはドクと呼んでくれたまえ」

 そう言いながら、手にしていたやたらと分厚い本を近くの机に置き、握手を求める結衣。

 白衣を着用し、使いもしないメガネが頭に載っている。

 ドク、博士をイメージしたらそんな格好になったという、典型的な格好にも思える。

 しかし自己紹介で、その呼び方を推奨するのは社会的に悪手ではなかろうか? 

「はあ」

 結衣に対して何かを察した豪は、一時思考を停止させる。


 差し出されるまま、初対面の女性の手を握る豪。

「宇院豪です。よろしくお願いいたします」

「よろしく、君が『童顔(ベビーフェイス)』君か。それにしてもお嬢がこんな時の人と懇意とは驚いた」

「別に有名人だから懇意と言う訳では・・・・・・」

「個人的にかね?」

「その言い方にも語弊があるというか・・・・・・」

「お嬢が言い淀むとは・・・・・・まさか!」

「違う! そうでは無いんだ」


 何やら突如始まってしまったガールズトークらしきものに、居た堪れない気分になる豪。

 豪は、何やらあらぬ方向に進んでいる話が切れるのをただじっと待っているしかなかった。

 そして、豪は初めて女性同士の会話というのが、切れ目なく変遷していくことを知るのであった。

次回投稿は二日後を予定しています。

では、次回投稿で。

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