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11話 童顔

 豪と轟沢の決闘から、2週間の時間がたった。

2か月先輩であるソフィに、自分の指導者となるべき人を探してもらって入るが未だに望んだ応えは帰ってきていない。

豪も自分のことを他人に任せっきりではない。

学園内の図書室にて、過去のトーナメントの資料などを手当たり次第に探って入るが、現役世代はもちろんの事引退した元選手にも袖にされてしまっている。


 優秀な選手を育てるトレーナーなどは、自身のジムを経営していたりどこかの団体に所属していたりと、関わりのない豪の相手をしている余裕は当然ない。

それに、大抵そう言ったトレーナーの教え子は、この学園にも入学しているため教え子のライバルである豪が行き詰るのは、喜びこそすれ同情的に見る者はいない。


 何より、豪はこの2週間まともに資料に辿り着くことさえできないでいた。

今日も図書室に向かう豪の通信端末が、アラームを鳴らす。

「はぁ、またか・・・・・・」

端末を見ると、そこに映っているのは決闘の申し込みを告げる画面。

拒否を申請しようと、画面を食い入るように見つめるが申請ボタンが見当たらない。


 決闘と言うシステムは、学園内の治安維持の側面がある為基本的に拒否が考慮されていない。

要するに、学園の生徒は常時挑戦待ちをしている状態である。

特例は、病気や怪我などによる戦線離脱だけだ。

したがって、豪がいくら目を皿にして画面を見つめても拒否はできない。

申し込んだもの勝ちのこのシステムへの公式回答は、『仕様です』と言う人を馬鹿にした解答だけであった。

納得のいかない豪は、それでも決闘回避の方法を探ってはいるが先は長そうである。


「はぁ」

図書室は目の前ではあったが、仕方がなく今来た道を戻る豪。

一旦は諦めて、決闘場所に赴くのであった。


◇ ◇ ◇


 決闘場所には、やはり数多くのギャラリーが詰めかけていた。

映像記録を撮る目的のもの、賭けに興じるもの、純粋に決闘を楽しむもの、理由は様々ではあったが、皆豪の決闘を目的に集まっている。

矮躯の豪が、ファイター然とした生徒を打ち負かす様は学園の新しい娯楽になりつつあった。

「来たぞ! 『童顔(ベビーフェイス)』だ!!」

「おお! アイツが噂の『童顔(ベビーフェイス)』か・・・・・・男だよな?」

「そうらしいぜ? けど、今日の相手は『優速の剣士(ファストブレイド)』だからな、今日から『傷物(スカーフェイス)』になるかもな!」

「はぁ~、もったいない。そんな事ならお相手願いたかったな」

「お前! そっち系? ちょっと離れてくれる?」

「馬っ鹿! そういう意味じゃなくって俺が異名を潰したかったってことだよ! 有名になるしさ」

「ああ、だったら俺もお願いしたい」


 集まった生徒は、口々に豪のことを『童顔(ベビーフェイス)』と呼ぶ。

これまで豪は、10戦して無敗。しかも、有効打は一撃も貰っていない。

表情は一喜一憂しているが、豪はいつもリングから綺麗な顔のままで降りていく。

強者には見えないその顔つき。しかし、今まで誰も傷をつけたものがいないことを、誰ともなくそう言い始めた。


 対する『優速の剣士(ファストブレイド)』と呼ばれる生徒で、名を伊達光輝(だてこうき)という。

彼は、抜刀術を基本とする剣士。

その抜刀は決して学園最速ではないが、その巧みな試合運びに定評のある豪より一学年上の生徒だ。

有名ではあるが、残念ながら決してモテてはいない。

何故なら、この学園でのモテ基準は第一が強い事。

次いで、顔だ。


 ランキングは高い方ではあるが、如何せん席次を有している生徒に人気が集中してしまい影に埋もれている。

そういう意味では、豪の同士である。

因みに、轟沢も同士であるが理由は割愛する。


「決闘を受けてくれてありがとう。『童顔(ベビーフェイス)』君」

(受けてくれても何も、拒否できないんだけど? もはや無理やりなんだけど?)

豪は目の前に立つ生徒に向かって心の中で毒づく。

かと言って、その生徒も自分を売り込むために規則を有効活用しただけだ。

悪気はほぼ無い。

なので、彼を責めても仕方がない。

悪いのは、このシステムを改善しない学園側だ。


 開始を告げるアラームが鳴る。

相手が、腰だめに構えるとアームズ・デバイスを展開する。

豪もそれに倣いアームズ・デバイスを展開する。

辺りがシーンと静まり返る。

「はあ!」

短く気合の乗った発声の後に、キンッと短い金属音が響く。


 早く終わらせたい豪が、一歩踏み込んだ瞬間に伊達は2メートルを一気に詰めてきた。

豪は蹴りだそうとしていた矢を、咄嗟に自分と伊達の間に打ち上げ伊達の剣を防ぐ。

斬撃は防いだものの、その衝撃は防げず壁際に吹き飛ばされる。

後方に吹き飛ばされ、尻もちをついた豪の前に伊達が詰める。

連続して上から振り下ろされる刀を、右へ右へと回避していくとあっさりとコーナーに追い込まれる。


 コーナーに追い込まれながらも、体勢を立て直す豪。

コーナーからは出れないが、相手と対峙することのできたことに安堵する。

しかし、足元には自分の武器である矢が無い。

伊達もそれに気が付いているようで、ニヤリと笑みを浮かべる。

それを見て、豪も笑みを浮かべる。


 豪はつられて笑ったのではない。

勝ちを確信した伊達のすぐ後ろを、先ほど弾かれた矢が自分の方に飛んできているのを確認したからだ。

そのことに気が付いていない伊達は、刀を鞘に納め自らの最も信頼する技で幕を引こうと準備に入る。

完全に鞘に納める前に自分に影が落ちていることに気が付く。

何かと思い、そちらに気を取られる。

一瞬ではあるが、豪から目を離してしまった。


 豪は、高い位置にある矢に反転しながら足を延ばす。

オーバーヘッド・キックの体勢になり、真下に矢を撃ちだす。

バンドした矢が、伊達の顎を捉える。

下から跳ね上げられた伊達は、一回転してリングに落ちてくる。

予期せぬ一撃を喰らった伊達は、そのまま意識を手放して豪の勝ちが決まる。


「うおおおおおおおお!!!!!」

ギャラリーの一部。豪の勝ちを予想していた生徒が、真っ先に声を上げる。

つられて、ギャラリー全体が興奮に飲み込めれる。

こうして、豪は11戦目の勝利を手にした。


 リングから降りる豪に、ソフィが近寄ってくる。

ソフィの手にしている端末には、賭けの的中を告げる画面が映っているが豪もそれには何も言わない。

ソフィの顔は、賭けに勝った余韻はなく至って真面目な顔をしているからだ。


「豪、見つかったぞ」

そこまで言うと、ソフィは背を向けて歩き出す。

豪も意味を理解したようで、ソフィの後に続く。

(ようやく、探し人を見つけた)

希望を見つけ意気揚々と歩く豪の前を、ソフィは難しい表情で歩いていた。

次回投稿は二日後を予定しています。

では、次回投稿で。

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