第七十四姉嫁 外伝『ヒイロの幸せなためいき そのご』
「あぁ? 文句あんの?」
「「「「「・・・ないです。」」」」」
「よろしい。」
リムルちゃんに威圧され、トボトボと清掃用具を取りに行く冒険者たち。
うーん、肝っ玉母ちゃんやわー。
訓練場のスペースを空けてもらい、そこの真ん中で対峙する二人。
「ムラサキ流、リィナ・ウル・クリフレッド! 推して参る、なのです!」
「・・・では、ウイヅキ流、マシロ・ウイヅキ。参ります。」
特注の真っ白い飛竜のローブを身にまとう真白と、真っ赤なマントを翻すリィナちゃん。
何も知らない人が見れば、どう見てもこれから魔法対決が始まると思うだろう。
しかし。
「アチョ、アチョ、ホアター!」
「・・・フッ!」
「ならば! アタタタタタター!」
「甘いです!」
超肉弾戦。
高速で近づき蹴る殴るの攻撃を繰り出すリィナちゃんに対し、涼しい顔で受け流す真白。
見学している冒険者からは『おお!』という声と『えぇ・・・』という若干引いてる声が漏れる。
まぁ冒険者ランクすらない子供同士の試合ではないよね。
リィナちゃんがザッと距離を取る。
「ふっふっふっふ。さすがはお姉さまなのです。ではでは、次は全力でいくのです!」
「受けて立ちましょう。」
リィナちゃんが『ハァァァ!』といいながら気合をためると、右手がバチバチと激しい音を立てる。
「貫く、止めてみせるのです! ムラサキ流奥義! 一撃必殺! おーか、ぜつめいしょー!」
説明しよう!
ムラサキ流奥義≪一撃必殺!桜花絶命掌!≫とは、手に雷の魔力を集め敵に高速で突進し、心臓を貫く大技である!
わかりやすく言うとナ○トのアレを丸パクリしたものである!
もちろんリィナちゃんには写○眼がないため、カウンターにはめっぽう弱い博打技でもある!
つーか人の娘になんて技を放つんですかねこの子は。
対する真白は・・・
「ウイヅキ流奥義・・・≪渦潮≫!」
説明しよう!
ウイヅキ流奥義≪渦潮≫とは、敵の攻撃を受け流した上で自分の力を上乗せして返すカウンター技である!
俺がノエルさんと共に開発した、敵の攻撃を受け流す≪渦巻≫という技を真白が独自に進化させたもので、攻防を同時にこなす優れた技でもある!
もちろん凡人の俺には使えないのである!
真白の渦潮を喰らい遠くに吹っ飛ぶリィナちゃんだったが、ザザザァー!と音を立てて地面を滑りながらも無事着地する。
「びっくりしたのです! お義母様直伝の一撃必殺!おーかぜつめいしょー!でかすり傷一つつけられないとは思いもしなかったのです!」
「それはこっちのセリフです。反撃するどころか、受け流すだけで精一杯でした。やりますねリナさん。」
「そっちこそなのです! 楽しくなってきたのですよー!」
「ふふふ、私もです・・・!」
バトル漫画レベルでめっちゃ盛り上がっとる。
真白は普段は『頼れるお姉ちゃん』で『穏やかで優しい娘』だけど、やはり根っこの部分ではさきねぇの気性を色濃く継いでおりますなぁ。
うんうんと頷きながら、邪魔しちゃ悪いので後ろに下がる俺。
「ヒーイーロさーん!」
「おっと。」
すると突然後ろから抱きつかれる。
この声は・・・
「やぁマルちゃん。こんにちわ。」
「ヒイロさんお久しぶりです! お元気でしたか!? 私はヒイロさんに会えなくてすっごく寂しかったですよぉー!」
「ついさっき全く同じセリフを君のお母さんから聞いたわ。」
俺に抱きついてきたそれなりにはかわいいけれど、そこまでかわいいわけでもないモブ顔の女の子こそ、噂のマルちゃんことマリーシア二世、マルティナちゃんである。
子供の頃から母親に似てお調子者で雑な扱いに定評があるのだが、マリーシアさんそっくりなため幼い頃からさきねぇとともに可愛がった結果、ずいぶん懐かれた。
ちなみに俺と違いさきねぇの可愛がり方は相撲方式であったため、さきねぇにはあまり懐いていない。
「ゲッ!? うちのババァ、ママに会ったんですか?」
嫌そうな顔をするマルちゃん。今ババアって言いかけなかった?
この親子ちょいちょい口悪いのはなんなの?
「会ったよー。そして私、伝言を預かってます。」
「うわぁ・・・き、聞きたくないなぁ・・・」
「『殺しはしない、大人しく投降しろ』とのことです。」
「やっぱり聞きたくなかったぁぁぁぁぁ!」
絶叫を上げながら頭を抱えて蹲るマルちゃん。
うーん、この悲壮感、やはりマリーシアさんそっくりだな。
「まぁ母親のツケで飯食っちゃそりゃ怒られるよ。しっかり謝ろう?」
「ち、違うんです違うんです! これには深い、ふかぁぁぁいわけが!」
「・・・一応聞いとくけど、どんなワケかな?」
「ある日、私が草原で小遣い稼ぎをしてると幸運にも黒うさぎを二匹もゲットしたんです。」
「ほう、黒うさぎを二匹。強運だね。」
黒うさぎ。
串焼きでおなじみのホーンラビットの亜種で正式名称はダークネスホーンラビットだが、やや長いため大体見た目どおりに黒うさぎと呼ばれる。
ホーンラビットよりちょっと強い程度だが、個体数が少ない上にすぐ逃げ出すためなかなか倒せないことで有名である。
そしてそのお肉の美味しさははホーンラビットの比ではないと言われており、その買取価格もホーンラビットの数十倍にもなるレア魔物なのだ。
「思わぬ大金が手に入った私は祭りだワッショイ!と食べまくって飲みまくって奢りまくった結果、お金が足りなくなってしまったのです・・・」
「・・・」
「そして私は三秒という長い時間をかけて悩んだ末に、ママにツケるしかないと判断したんです!」
「・・・・・・」
「で、でもちょっとですよ!? 足りなかった分をママ名義でほんのちょびっとだけツケただけなんです!」
「・・・・・・いくら?」
「え?」
「いくらツケたの?」
「ちょ、ちょっとですって! ほんとーにちょびっと! これっくらいです!」
親指と人差指を使ってほんのちょっとっぷりを示すマルちゃん。
「いや、そういうのいいから。具体的な数字。」
「・・・もうやめましょうこんな犯人探しみたいなこと! 誰も幸せになりませんよ! きっと犯人も反省してます! 許すべきですよ! 私達人間にはそれが出来るんです!」
「・・・・・・はぁ。」
逆ギレするマルちゃん。
絶対ちょっとじゃないぞこれ。
「判決・・・有罪。情状酌量の余地なし。死刑台へどうぞ。」
「お願いします! せめて、せめて一緒にうちについてきてください! それだけでいいんです! でも口添えしてもらえるとすごい嬉しいです! あとお腹すいたのでうちに行く前にご飯奢ってもらえるとさらに嬉しいです!」
厚かましいことこの上なし!
全然それだけじゃねぇじゃねぇか。
「わかりました! そこまで言うなら体で! 体で払いましょう! 人が来ない部屋いきますか!? なんならここでしますか!?」
服を半脱ぎで鼻息の荒いマルちゃん。
しねぇよ変態かよ。怖いわ。
残念なところまで母親に似なくても良かったんだけど。はぁ。
・・・あ。
「志村ー、うしろうしろー。」
「ん? シムラ? なんのこあばばばばばばば!!」
突然スパークするマルちゃん。
ピカピカとフラッシュしながらたまに骨が見えてるのがギャグっぽくてイイネ!
さすがはマリーシアさんの娘・・・やはり天才か。
「マル姉さん、私のお父様に何をしてるんですか?」
そこにゆらりと立っていたのは真白。目にハイライトがなく混沌としている。
そして手にはバチバチと電気を纏っていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
ついにマルちゃん登場。
子供の頃からしょっちゅう悪戯したりして周囲の大人に怒られる中、常にヒロくんだけは味方になって庇ってくれていたので未だにヒロくんにべったりです。
真白の魔法属性は水+風で、上位の氷・雷も少しだけならすでに使えます。
控えめに言って天才です。




