第七十三姉嫁 外伝『ヒイロの幸せなためいき そのよん』
「はぁ・・・おば様は相変わらずですね。」
「ボクは面白くてマリーシアおばさま好きなのですよ?」
「まぁ面白いといえば面白いですけどね。」
子どもたちにまで『近所の面白おばさん』扱いされてるマリーシアさん。哀れなり。
「あ! ここまできたのですから、せっかくだしギルドの訓練場でお手合わせしたいのです!」
「えぇ・・・ギルドでですか?」
「はいなのです! ムラサキ流格闘術を広めるためにも人がいっぱいいるところでやった方がいいのです!」
説明しよう!
『ムラサキ流格闘術とは、あまりの強さ・凄まじさのため歴史の闇に葬られた伝説の格闘術であり、その奥義は一撃必殺! ムラサキ流格闘術を極めれば筋肉はムキムキだしテストは100点だし背は伸びるし彼女はできるし人生ウハウハなのである!』
と、さきねぇが世間に吹聴して回っている怪しげな戦闘術のことである。
ただし、最初はそれなりにいた門下生も現在はクリスの娘のリィナちゃんとヴォルフの娘の二人だけではあるが。
まぁ訓練内容が『崖の上から岩を落とすからそれを壊して攻撃力あっぷ!』だの『坂道の上から丸太を転がすからそれを避けて体力と回避力あっぷ!』だのだったからね、危険すぎます姉さん。
というわけで真白は早い時点で『こんなのやってられるか!』と離脱。
琥珀はノエルさんが『こんな危ないことを琥珀にやらせられるか!』と強制脱退させられた。
「いや、あの、リナさん。絶対騙されてるから早く辞めたほうがいいですよ?」
「そんなことないのです! ムラサキ流格闘術は素晴らしいのです! ボクは絶対ムラサキ流格闘術を極めて免許皆伝の称号をお義母さまにいただくのです! あとでお義姉さまがほしいと言ってもあげないのです!」
「安心してください、絶対いらないです。」
「またまたぁー! ほんとはほしいのに、素直じゃないのです♪」
「いらないです。」
ニヤニヤ顔のリィナちゃんとは対照的に真顔の真白。
ムラサキ流格闘術の極意は【風火】、『疾きこと風のごとく、侵略すること火の如し』である。
簡単にいうと『シュバババーー!と突っ込んで右ストレートでぶっ飛ばす。躱されたらアキラメロン』。これだけ。お手軽!
いや、どこの薩摩流剣法ですかね。
しかし、その単純明快さが見た目美少女魔法使い、中身脳筋のリィナちゃんには相性ぴったりだったらしく喜び勇んでさきねぇから習っている。
ちなみに他の風林火山メンバーの林くんと山さんはハブられている模様。
さきねぇ曰く『静かだったら目立たないでしょ?』『動かなかったらつまらないでしょ?』とのこと。
勝つことより楽しむことが優先の健全少年バスケチームかよ。
「まぁまぁ真白。せっかくだしいいじゃない。」
「お父様がそう言われるのでしたら・・・」
「ではさっそくギルドに向かうのです!」
「こんちゃーす。」
「あ、ヒイロさん! いらっしゃい!」
ギルドにつくと俺の後輩であり、冒険者ギルドアルゼン支部の副支部長でもあるスレイの奥さんであるリムルちゃんが出迎えてくれた。
立場には何の役職もない単なる『副支部長の奥さん』なのだが、面倒見の良い肝っ玉母ちゃん的な気質のためにアルゼン支部は彼女にほぼ掌握されている。
ほとんどの冒険者がここの副支部長はスレイとリムルちゃんの二名だと思っているからな・・・
「やぁリムルちゃん。こんにちわ。」
「こんにちわ! 真白ちゃんと・・・えっと、リィナちゃん、でよかったわよね? こんにちわ。」
「こんにちわリムルおば様。」「はいなのです! こんにちわなのです!」
とりあえず本題を切り出す。
「リムルちゃん、今訓練場空いてる? うちの子たちが手合わせで少し使いたいんだけども。」
「あー今日はそれなりに空いてますから平気ですよ。というかむしろ定期的に使ってくれた方が新人や若手にもいい刺激になるんで、どんどん使ってください!」
「ありがとねー助かるよ。今度うちのパンもってくから。」
「ほんとですか!? ありがとうございます! ヒイロさんの作るパン美味しくて何個でも食べられちゃいますよー!」
パンを褒められニッコニコの俺。
俺たちがそんな世間話をしていると一人の冒険者がこちらを指差した。
「あ、マシロ様だ!!」
その言葉を皮切りに『なにぃ、マシロ様だと!?』『おお、姫様!』『マシロ姫がいらっしゃったぞ!』などと言いながらわらわらと冒険者達が集まってきて、一列に整列する。
そしてその中から一人の男がズイッと前に出てきて大きな声と共に頭を下げる。
「マシロ様、このような小汚いところへお越し下さり、ありがとうございます!」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
「ははは・・・」
乾いた笑いしか出ない真白。
こいつらは真白様親衛隊、通称MIGのメンバーである。
真白はさきねぇそっくりのすんばらしい可愛らしさに加え清く正しく美しい振る舞い、どんな人間にも別け隔てなく優しく接する慈悲深さ、さらには俺とともに冒険者ギルドや協会で治療なども手伝っているため【アルゼンの聖女】とも呼ばれ、齢10歳にしてすでにファンクラブが結成されている。
一昔前はMFC (ムラサキファンクラブ)の一強で、少し離れてCKO(カチュアちゃんの恋を応援する会)、さらに離れてノエル様ふぁん倶楽部の順であった。
しかし、現在はMFCとMIGの二大勢力が覇を競い合っていて、さらにその下にも大小様々なファンクラブが存在しており、今やアルゼンはアイドル戦国時代に突入しているといっても過言ではない。
ちなみに俺はMFC名誉会長であると同時にMIG名誉総帥となっており、多くの会員から尊敬と羨望の眼差しを受けている。
ついでに一部の会員からは死ぬほど嫌われているが、気持ちはわかるので甘んじて受け入れている。
今度は別の方向から女性冒険者が近づいてきた。
「あ、リィナちゃんだー! リィナちゃーん! やっほー!」
「やっほーなのですー!」
「キャー! かわいー!」
リィナちゃんが両手で手を振り返すと黄色い声を上げる女性冒険者。
リィナちゃんは見ようによってはかわいらしい美少年にも見える美少女なのでお姉さま方にも人気があるね。
今度はオドオドした感じの気弱そうな若い冒険者が近づいてきた。
「り、リィナちゃーん。こ、こっちにもお願いしまーす・・・」
「はいなのです! やっほーなのです!」
「うわぁ・・・やばい、ちょう嬉しい・・・!」
顔を真っ赤にして喜ぶ若者冒険者。おまわりさんこいつです!
しかし、リィナちゃんもなかなかの人気だな。
リィナちゃんはアルゼン在住ではないため今のところはファンクラブは存在しないが、魔法学校を卒業し本格的にアルゼンで暮らすようになればすぐに結成されるだろう。
まぁ『明るく元気で人懐っこい妹系ボクっ子天才美少女魔法使い』とか人気が出ないわけがないよね。
「なんか騒ぎになりそうだし、さっさと訓練場にいっちゃいますか。」
「そうしてもらえると助かります・・・あ、あとそこのお前。さっきギルドが小汚いとかいったやつ。お前ら全員今日はギルド内の清掃な。」
「「「「「えぇ!?」」」」」
「あぁ? 文句あんの?」
「「「「「・・・ないです。」」」」」
「よろしい。」
リムルちゃんに威圧され、トボトボと清掃用具を取りに行く冒険者たち。
うーん、肝っ玉母ちゃんやわー。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
次回、謎の新キャラが登場します。
一体誰なんでしょうね・・・?




