第六十二姉嫁 外伝『ヒイロとコハクのそれなりに長い一日』
まだ待ってくださっていた方はいらっしゃるでしょうか?
皆様お久しぶりです、藤原ロングウェイなんだぞっっっっっ!
まさか一年と四ヶ月ぶりに続きが投稿されるとは・・・泣けるぜ。
バレンタインデーですがバレンタイン要素は……?なお話です(笑)
時系列的には外伝の遥か彼方の物語の少し前な感じです。
ヒロパパとコハクの仲良し親子の一日。
本日はバレンタインデーのパクリであるアプルデーである。
妻と娘とお祖母ちゃんの三人が自宅でアプル料理を作るため、俺と息子は『特に理由はないけど天気がいいからたまには二人で外に遊んできなさい(ニッコリ)』と言われ追い出されたのだった。
ちなみに三人仲良く料理をしている・・・わけではなく、さきねぇとマシロは『いつ偶然を装って相手の料理に塩をぶちまけるか』『自分が気付かないうちに料理に塩をぶちまけられていないか』を気にして目をギラギラさせながら料理を作っていた。
仲が良いのか悪いのか・・・
というわけで息子と二人でアルゼンを歩いております。
「しかし・・・」
先程から何人もの女の子からアプル関連の品物を渡されているコハク。
渡してくる女の子も年上年下、花屋の娘さんに冒険者にと色んな娘がやってくる。
うちの息子モテすぎだろ。さすがさきねぇの子だけある。
俺の遺伝子はあまり受け継がれてないようで安心半分寂しさ半分といったところだが。
「お前、めっちゃモテんのな。アプルもらいまくりやん。わかってはいたけど改めて父さんビックリだわ。」
「ん? そうかナ? これくらい普通っていうか、去年から考えたらこれからまだまだ増えると思うんだゾ。」
「おいコハク。迂闊な発言は慎め。ここが戦場なら、お前は今死んでいた。」
「オレ今とーちゃんとアプルデーの話してただけなんだナ!?」
『戦場は怖いんだナー』とか緊張感ゼロで言ってる息子。アホかわいい。
「さて、母さん達から出禁を食らったわけだが、どうする? 何かしたいこととかあるか?」
「んーそうだなー・・・あ! 森に行きたいんだゾ!」
「森?」
「保護者同伴ならいってもいいってとーちゃんいってたナ?」
・・・森か。まぁあそこならどんなモンスターが出て来ても倒せるしいいか。
「よーし、じゃあ今日は男二人で森に遊びにいくか!」
「わっしょい!」
さきねぇみたいな返事をするコハク。さすが俺たちの息子。
「だナだナーだナー!」
「・・・ズン! チャ! ズッズンズチャ!」
「だナ! だナ! だナナナナ!!」
「イェ! イェ! ビダルサスーン! イン! リン! オブジョイトイ!」
二人でアホみたいな歌を歌いながら歩く俺とコハクの仲良し親子だった。
周囲からは生暖かい目で見られていたが気にしないのが初月流さ!
「ここが森の入口です。」
「知ってるんだゾ。」
「ご覧ください、一面を木が覆いつくし、昼間にもかかわらず薄暗い雰囲気です。」
「空、めっちゃ晴れてるナ?」
「この先には、一体何があるのでしょうか・・・」
「遺跡とかハーブとかあるゾ。」
「そのとき、探検隊が目撃したものとは!?」
「・・・うちはとーちゃんもかーちゃんも変人で困るんだゾ。」
「おい待てコハク。さきねぇと一緒にするな。失礼だろ俺に。謝りなさい。」
「とーちゃん、かーちゃんのこと大好きだけど、たまにすごい厳しいナ?」
人には譲れない一線というものが存在するのだよ・・・
「さて、では先に進みます。周囲の警戒を怠らないように!」
「イエス、サーなんだゾ!」
そう言うと魔法袋からミカエルくんを取り出し肩に担ぐコハク。
10歳でミカエルくん持てるとかすごいよね。
俺なんかこの世界に来た時は両手持ちでなんとかって感じだったし。
「コハクよ、お前、それ、重くないの?」
「んーちょっと重いんだゾ。でもかーちゃんが筋トレに最適って言ってたんだゾ。あとばーちゃんも刃物じゃないから危なくなくていいって。」
「あー・・・」
さきねぇが言われたことをそのまま言われてるわけね。
うちのお祖母様は心配性だかんなー。
「ゴブゴブ!」
お、茂みからゴブリンが一匹現れた。どうする?
「突撃ー!」
「あ、おい!」
ハンマーを担いだまま突撃するコハク。
なんかちっちゃくてかわいい肉弾戦なハンマー使いっだけでブラウンを思い出すぜ。
「めっさつ!」
「ゴブゥ!?」
コハクの攻撃を喰らって吹っ飛び、木に叩きつけられるゴブリン。
そしてキラキラ輝いて消える。
「とーちゃん、どうだナ!?」
「やるやんけ。」
「「うぇーい!」」
嬉しそうなコハクとハイタッチを交わす俺。
つーか普通に強いなうちの子。
マシロが母親と同じく才能ガチ勢だからコハクは俺に似たらどうしようかと思ったが、それなりには才能を受け継いでいるようだ。
そのまま森の中を歩いていくが、でかいダンゴムシとかイモムシとかも笑いながらハンマーでガンガン吹っ飛ばしていくコハク。
危なそうなら手助けしようと思ったが、やることねぇな俺。
「そういえば、とーちゃんは初めて森に来たときはどんな感じだっただナ?」
「お、聞きたいか?」
「聞きたいゾ!」
「ふふふ、いいだろう・・・あれは、日差しがサンサンと降り注ぐ、暑い夏の日のことだった・・・」
「あ、そういうのはいいんだナ?」
「ですよね。」
さすが我が息子。やりおるわい。
「俺とさきねぇの初めての依頼でなー。みどポの原料のグリーンハーブを集めるために森に入ったわけさ。」
「ハーブ集め? かーちゃんにしてはずいぶん地味な依頼ナ?」
「最初はゴブリンの巣殲滅にいきたいってダダこねたんだけど、俺が泣き落とした。」
「うーん、森の主退治とかじゃない分まだかーちゃんも大人しい感じだったんだナ。」
大人しいか・・・?
どういう基準なんだ。
「まぁもちろんそれで終わりにはならなかったんだ。森の中を歩いていると、突然背後から大きな影が襲ってきたわけよ。」
「お、それが噂のクマなんだナ!」
「そう、この森最強のキューティーベアーだ。俺は言った。『さきねぇ、俺の後ろに! さぁ来い化け物! 俺が相手だ!』とな。」
「おお!」
目をキラキラ輝かせるコハク。アホかわいい。
「そしてクマと刃を交える俺! キンキンキンキン! しかし、少しずつ劣勢を強いられる。そこでクマの隙を突いて戦略的撤退を選んだのだ。帰ろう、帰ればまた来られるから、と。」
「おぉ・・・」
「それからなんとかやつを振り切った俺たちは打倒クマを心に誓ったのだった!」
「おー、かっこいいんだゾ!」
「はっはっは。そうだろうそうだろう。」
しかしコハクの目がキラキラした感じから何か言いたそうな感じにチェンジした。
「どうした?」
「・・・とーちゃん、それで、実際はどうだったんだナ?」
「・・・クマに出会った瞬間『ギャァァァ!』って悲鳴を上げて全速力で逃げたよね。ちょう怖かった。二度と会いたくないと思った。」
「「・・・・・・わっはっはっは!」」
コハクと二人で笑う。仲良し親子!
「リベンジしたのかナ?」
「もちのろんさ。クマ鍋にして食ってやったわ。」
「ワイルドなんだゾ!」
まぁ俺もさきねぇもかなり強くなってからの再戦だったからな。
俺のしたことといえばクマをボコボコにしてるさきねぇに『おねぇさまがんばえー』って応援することくらいだったが。
「ちなみに、その時の勝利を記念として形に残したものが我が家においてある木彫りの熊だ。」
「あー、あの魚咥えてるやつナー。」
デザイン元はもちろん北海道土産でよくあるアレですけどね。
「でもあれだぞ、俺とかさきねぇの話だけ聞いてるとクマが雑魚っぽく聞こえるかもしれんが、この森で唯一C級魔物とタメはる強さだからな。気をつけろよ。」
「ふーん・・・ところでとーちゃん、C級魔物ってどれくらい強いんだナ?」
ああそっか、このへんではC級魔物なんて出ないからわかんねーか。
どう説明すれば恐ろしさが伝わるか・・・
「そうだな・・・んー・・・さきねぇに鼻フックされてマジギレした時のマシロがC級上位魔物くらいかな。」
「めっちゃ怖いんだナ!?」
「だろう? もし俺とかさきねぇとかノエルさんがいない時に遭遇したら絶対戦うなよ。すぐ逃げろ。」
「了解なんだゾ!」
「まぁめったに出現しないレア魔物だから大丈夫だとは思うんだが・・・お前たちはあのさきねぇの子供だからなぁ。」
あの姉、良くも悪くも特別なイベントを引き寄せる体質だからその血を継ぐこの子らも怪しいんだよなぁ・・・
なので何かあっても対処できるように色々考えながら頑張って子育てしてますよ。
「あ、めっちゃ良いこと考えたんだゾ!」
「お、なになに? 聞こうじゃん?」
「とーちゃん、たしか森の奥にアプルっぽい果実があるナ?」
「あー、あった気がする。」
市場にいけば普通に売ってるからあんま気にしたことはなかったけど。
「それを取ってきてばーちゃんとかーちゃんとしろねぇにプレゼントするっていうのはどうかナ!?」
「おー! ええやんけ! 男が女の子にアプル送ってもいいじゃない的な!?」
「的ナ!」
確かに市販品より頑張って取ってきたヤツのほうがいい感じがするな!
そこに気付くとは、やはり天才か・・・
「うぇーい!」
「うぇーい!」
俺とコハクはハイタッチをし、森の奥地へ進んでいくのだった。
その後、アホなコハクが昔のアホな俺と同様に落とし穴に落ち、十数年ぶりにアルゼンの森地下遺跡脱出ツアーが再開催されることになるのだが。
そのお話はまた別の機会に。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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