第五十二姉嫁 どきどき!あねおれ学園!の巻 そのに
「無理があるだろ!!」
「何が!?」
学ランを着た獣人のヴォルフとさきねぇと同じピンク色のセーラー服を着たカチュアさんがいた。
はい夢オチ決定!
「おい、緋色はどうしたんだよ。」
「なんか朝から変なのよ。『うちにノエルさんがいる!』とか『なんで俺はここにいるの?』とか。」
「なんだそりゃ。」
ヴォルフが困惑の声をあげる。
まぁそうだよな。普通に考えればなんだそりゃだわ。
「他にも『あなたは神を信じますか?』とか『このパソコンにプリンターをおつけして、お値段なんと29800円!』とか。」
「はぁ?」「えぇ!?」
「言ってねぇわ。」
そこまでいったら余裕で病院いき確定だろ。
「あと『力が暴走する・・・!』とか言って右腕を抑えたり『第三の目が開眼する・・・!』とか言って目を抑えたり『I have a stomachache・・・』とか言ってお腹を抑えたり。」
「うわぁ・・・」「えっと・・・」
「やってねぇわ。」
つーかその俺は体のどっかを抑えすぎだろ。
あと英語でも『お腹が痛い・・・』って言ってるんなら学校休ませてやれや。
「まぁアレじゃね? 思春期なんだろ。」
「やっぱそう思う? 姉としてどう接してあげればいいのかしら。『ピーポーピーポー、あなたの頭の中に救急車が走っています』とか言えばいいのかしら?」
懐かすぎるだろ! しかもいじめに近いぞその反応は!
「まぁほら、そんな日もあるじゃん?」
「ないわね。」「ねぇよ。」「ないです。」
三人からつっこみが入る。
孤立無援・・・!
そんな感じで歩いていると校門が見えてきた。
表札には『千葉県立アルゼン高等学校』と書かれている。
こんな名前の公立高校あるわけねぇだろ。千葉県なめんな。
でも誰も気にしていないようなのでそのまま黙って校舎へ向かう。
「あ、緋色先輩!」
声の方向を見ると学ランを着た金髪の美少年がこっちに向かって走ってきているところだった。
「おはようございます緋色先輩!」
目の前で敬礼しているのは当然のようにクリスだった。
美少年すなぁ。こりゃモテるわちくしょう。
「クリボー、私への挨拶は?」
「姉君もおはようございます。あ、ところで緋色先輩! 昨日のテレビ見ました? すごかったですよねあの絶景! 今度一緒にいってみませんか!」
「お、おう。時間があったらな。」
「はい!」
さきねぇへの挨拶はおざなりに、俺へと笑顔で話しかけるクリス。
でもなんか周りの女生徒からジロジロ見られてるんだけど。
あれか、世界観的にクリスきゅん親衛隊とかかもしれんな。
「ねぇねぇ、あの二人、仲良すぎない?」
「ちょっと怪しいよね~?」
女生徒たちのひそひそ声が聞こえる。
女の子っていうのはなんでこういう友情を下世話な話に結びつけるのが好きなのかね。
まぁ勝手に言ってろって話です。いちいち怒ったりしませんよ。
「え、あれって女の子に男の子の制服着せて楽しむプレイなんじゃないの?」
「えー何それ超マニアックじゃーん! キモーい!」
「おいちょっと待てやそこの女ぁ!」
俺がキレると一目散に逃げ出す女生徒たち。
どんなプレイやねん。
クリスはハテナ顔だ。いいの、お前は汚れるな。
とりあえず昇降口にいきクリスとカチュアさんと別れる。
教室がわからないのでさりげなくさきねぇについていく。
そして2-Fと書かれた教室に入る。
二年生設定か。まぁ妥当だな。主人公が二年生だとヒロインに先輩も後輩も出せるからな。
「ちょりーっす。」「うぃっす。」
「むーちゃんおはよー!「あ、紫さんはよーっす!」
さきねぇが声をかけると多くのクラスメイトから声が上がる。
まさしくさきねぇが高校の時と同じだな。
「ついでに緋色もうっす。」「シスコンさんチィーッス!」「よう義弟!」
「最後のヤツ、あとで校舎裏来いや。」
俺に関してはこんな感じ。いつものことです。
さきねぇが教室の一番左後ろの席に座るので、その隣に座る。
幼稚園のころからなぜかさきねぇの隣が俺の席だったからこの世界でもこれが正解だろう。
キーンコーンカーンコーン!
チャイムが鳴り周囲の人間も席に着く。
なんかすごいドキドキする。
朝ノエルさんが学校に出勤したってことは、ノエルさん先生ってことだよな。
流れからいったら担任だろうきっと。
どきどき、わくわく!
するとドアがガラッと開く。
入ってきたのは・・・
「皆さんおはよーございまーす。」
「お前かよ!!」
「ご、ごめんなさい!?」
そこにいたのはマリーシアさんだった。
お前担任かよ・・・俺のどきどきわくわく感返してほしい。
「えっと、緋色くん、先生何かしたかしら・・・?」
「あー、いえ、気にしないでください。残念だっただけなので。」
「ざ、残念!? 何が!? 先生の何が残念なの!?」
「はい!」
さきねぇが元気よく手をあげて立ち上がる。
「胸とか性格とか貯金とかだと思います! ついでに家事壊滅なとことか酒乱なとことか彼氏いない暦=年齢なとことかだと思います!」
「私を構成するほぼ全部! でも顔だけは除外されたのがちょっと嬉しい!」
さきねぇの容赦ないフルボッコにショックを受けつつ、でもちょっと喜ぶという難度の高い技を披露するマリーシアさん。というかマリーシア先生。
「全く。緋色くんは先生にひどいことをいったので放課後職員室に、いや、美術室・・・むしろ体育倉庫にきてください!」
「なんで?」
マリーシアさんが腰に手を当てて怒ってる風に意味不明なことを言い出す。
するとさきねぇがスマホを握って立ち上がる。
「マリーシア先生。今の会話は録音されています。もし校長に『マリーシア先生が生徒にいかがわしい行為を強要していた』とバラされたくなければクラス全員にジュースを奢ってください。」
「ぜ、全員にジュース!? 3000円近くかかるじゃないですか!? 給料日前なのにそれは・・・」
「3000円なんて安いもんでしょ。飲み代を一回抑えればいいだけの話よ。」
「それはそうですけど、それが一番つらいっていうか・・・ん? 紫さん、あなたなんで飲み代がいくらかなんて知ってるんです? 学生ですよね?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
シーンとなる教室。
「うるせー! はよ授業はじめろや! 教室のガラス割るわよ!」
「ひぃ!? 私のクラスで学級崩壊は勘弁してください!」
結局さきねぇの力押しでうやむやになったとさ。
キーンコーンカーンコーン♪
なんやかんやあってお昼休みになった。
なんかこうやって授業受けるのも久しぶりだったな。
授業ガン無視でパラパラ漫画を書くことに情熱を傾けるさきねぇとか、授業中にも関わらず何十通も送られてくるさきねぇのメール爆撃とか、女子の体育はダンスなのになぜか男子に混ざってサッカーしてるさきねぇとか。
何もかもが懐かしい・・・
「緋色ー! 紫さーん! 俺ら昼食わないでサッカーやるけど、お前らどうするー!」
「いや、俺は飯食うわ。誘ってくれてさんきゅー。」
「じゃあ私も。」
「ういういー。」
去っていく男子生徒たち。
なんというか、若さだな。昼飯食わないでサッカーとか俺にはもうできる気がしない。
「さて、じゃあいきましょうか。」
「ん? あぁ、そうだね。」
さきねぇに連れられて教室を出る。
なんだ、どこにいくんだ? アルゼン高等学校は公立にも関わらず学食がある設定なのか?
ついた先は・・・
「生徒指導室?」
「・・・あら、ちょっと面白いことになってるわね。」
さきねぇはゆっくりドアを少しだけ開けて中を覗く。
俺もそーっと中を覗くと、そこには・・・
「ねぇ、あなたはバカなんですか?」
「バ、バカじゃないです・・・」
足を組んでイスに座っているノエルさんと、震えながら床に正座しているマリーシアさんの姿があった。
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