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第四十九姉嫁 とびだせ、えるふの森!の巻 そのご

感想いただきました。ありがとうございます。

「バスターとは違うんだよー! あ、すいません。ではまた後ほど。」

「・・・・・・」


 笑顔で手を振る長老に別れを告げ、外へと向かうのだった。




「酒だー! 酒を持ってこーい!」

「野菜が足りんぞー! シーザーサラダ持ってこーい!」

「あとおつまみー!」


 エルフの里見学ツアーは一時間程度で終了した。

 だってエルフの里マジで何もないんだもの。

 織物とかワインとか造ってるらしいんだけど、どこの建物もドアに鍵がかかってて見学どころではなかった。

 結局ブラブラ散歩したりハンモックに横になってみたりして時間をつぶし、今は長老の家でごちそうになっている。

 そして好き放題にワインを飲みまくるさきねぇとサラダを食べまくるノエルさん。

 暴食を司る悪魔が二匹現れた!って感じ。

 そのため、俺はさっきからワインも飲まずに全方位土下座状態で平謝りだ。

 そのおかげか『あなたも大変ですね』といった感じでこそっと話しかけてくれるエルフさんがちょこちょこ出てきたのだが。

 人間だけじゃなくエルフにすら同情されるレベルなのか俺は。

 今の生活めっちゃ気に入ってるんだけど・・・


「ちょっといいかの。」


 厨房に料理を取りにいくと、長老に話しかけられる。


「あ、長老様。どうされました?」

「二人で少し話でもせんか?」

「? ええ、構いませんが。」


 二人でってことはノエルさんのことかな? 近況報告とかか?

 ノエルさんの様子じゃ話してくれなさそうだもんな。

 長老についていき勝手口から外に出る。

 ちょうど建物の裏手、誰もこないような場所までつれてこられる。

 なんだろう?と思ったその時。


「ありがとう。」

「・・・え?」


 俺の前には深々と俺に向かって頭を下げる長老の姿があった。


「えっと、何に対してお礼を言われてるのかがちょっとわからないんですが・・・」

「ふふふふ。ノエルのことじゃよ。」

「? はぁ・・・」


 いや、やっぱ意味わかんないです。


「いや、実はな。今回ノエルに手紙を出した理由はちゃんとあるんじゃよ。」

「ああ、やっぱり。多分そうなんじゃないかとは思ってましたが。」

「だが、今のノエルと坊やたちを見て理由はなくなった。」


 はぁ? 意味がわからんのだが。

 楽しそうに笑っている長老に困惑の俺氏。


「実はな、ノエルに隠居をすすめようかと思って呼んだんじゃよ。」

「隠居、ですか?」

「・・・何百年も生きてるとな。森の外に憧れて飛び出すエルフっちゅうのはたまにいるんじゃよ。」

「まぁそうでしょうね。」

「そして、100年もすると森に帰ってくる。抜け殻のような状態でな。」

「はい? 抜け殻?」

「そう。抜け殻じゃよ。そのままの意味でな。」


 遠い目をする長老。

 まるで懐かしいものを見るような目を。


「外の世界でエルフとは違う様々な者たちと出会う。それに喜びを見出すエルフはいる。だが、結末はどれも一緒じゃ。」

「結末というのは、つまり・・・」

「そう。寿命による別れじゃ。親しいものたちが次々に死んでいなくなっていく。自分を置いて、な。その孤独と絶望で、外に出たエルフは例外なく心を病み、抜け殻のようになる。」


 ふーっとため息をつき、目を閉じる長老。


「ワシはそんなエルフを何人も見てきた。そしてつい先日ノエルが森に一人で篭っていると聞いて思ったんじゃ。ついにノエルにもその時が来た、とな。」

「・・・・・・」

「だが、杞憂だったようじゃな。久しぶりに会ったノエルは昔と同じ、いや、昔以上に輝いていた。きっと坊やたちのおかげじゃろう。」

「そうなんでしょうか? よくわかりませんが・・・」


 レイリアさんもそんなこと言ってたけど、ノエルさんは出会った頃からこんな感じだったから実感がわかないんだよね。


「わからないならわからないでいいんじゃよ。これからもノエルと仲良くしてやっておくれ。ただ・・・」

「ただ?」

「坊やたちがいなくなったら、ノエルはもう無理じゃろうな。アレが坊やたちを心から愛しているのは見てるだけでわかる。だからこそ、君らがいなくなったら・・・」

「ん~・・・多分大丈夫ですよ。」

「なぜ、そう言いきれる?」


 鋭い目つきで俺を睨む長老。

 さすがはエルフの里の長老にしてノエルさんの先生だ。

 ずいぶんな御歳のようだがプレッシャーが半端ない。

 それでも、俺はちゃんと答える。


「私たちに子供が生まれたらノエルさんにも一緒に子育てを手伝ってもらうつもりでいますから。」

「・・・ノエルにか?」

「ええ。」


 目をまんまるにしてポカーンとした顔の長老。


「私たちが教わったみたいに、剣とか魔法とかだけじゃなくて、料理とか掃除とか勉強とか色んなものを教えてもらって。んで、子供たちの子供が産まれたらその子もノエルさんに面倒見てもらいます。もちろんその子の子供も。ノエルさんが『もう勘弁してくれー!』って言うまで。」


 笑いながら話す俺の言葉を聞き終えた長老が、ゆっくり目を閉じる。

 それから少し経ってから目を開ける。


「なぜ、ノエルのためにそこまで?」

「だって、家族ですから。」

「・・・・・・・・・そう、か。それが家族か。エルフにはない考え方じゃな。なら、ノエルは森の外で家族に囲まれて、笑いながら息を引き取る初めてのエルフになりそうじゃな。 わっはっはっは!」

「あっはっはっは!」


 何がおかしいのかわからないが、なぜか大笑いする俺たち。


「いや、今日は君と話せて良かった。楽しかったぞ人間の坊や、いや、ヒイロくん。」

「こちらこそ・・・あ、そろそろ戻らないと二人が暴れだすかもしれませんね。」

「そりゃいかんな。すぐ戻るかの。」

「「あはははは!」」


 そうして広間に戻った俺と長老は、結局さきねぇとノエルさんと四人で深夜まで盛り上がるのだった。




 次の日の朝。


「さて、ではしみったれたこの里から出るとするか。」

「いやーいっぱいワインもらっちゃって悪いわねおじーちゃん!」

「あれだけ頂戴頂戴言われたらさすがにのう・・・」


 長老、苦笑い。


「・・・ノエルや。」

「ん? なんだ?」

「もし辛くなったらいつでも戻っておいで。」

「・・・ふん。誰が戻るか、子供じゃあるまいし。ほら、いくぞ二人とも!」

「おじーちゃんじゃ~ね~!」

「では失礼します。お元気で。」

「またいつでも遊びに来なさい。」


 手を振って長老に別れを告げる。

 ・・・あ、忘れてた。


「長老様、すいません。いまさらですがお渡しするものが。」

「ん? なんじゃ?」

「これをどうぞ。」

「これは・・・?」

「これはそばがらの枕で、これは耳が痛くなりにくいイヤーパッドで、こっちは光を通しにくいアイマスクです。快適安眠セットになります。使ってください。」


 長老に俺お手製の安眠セットを手渡す。

 ひきこもりのぐーたら好きなエルフには喜ばれるんじゃないかと思って頑張って作ったのだ。

 異世界こっちの枕、枕とは名ばかりでかてーんだもん。無反発枕かっつーの。

 なのでそばがら(っぽいもの)を使って作ったノエル一家愛用の枕をプレゼント。

 耳栓は存在するらしいけどすぐ耳が痛くなるらしいので、外側は音を吸収するどっかの魔物の皮を、内側はふわふわの毛を使った快適イヤーパッドを用意。

 アイマスクは存在すらしてなかったのでそれっぽいものを自作した。

 全てオーダーメイドです。メイドインヒイロ。


「こりゃあいい! 大事に使わせてもらおうかの!」


 すると遠巻きに見ていた他のエルフたちが近寄ってきた。


「快適安眠セットと聞いて。」

「これ、枕? あ、いい感じ! よく眠れそう!」

「この耳当ていいわ。ずっとつけてられそう。」

「何これ? アイマスク? あ、すごい! 眩しくない! これは昼寝が捗る!」

「ちょ、待てお主ら! これはワシがもらったんじゃ! 離せ!」

「「「「「長老ずるーい!」」」」」


 俺の作ったお土産が争奪戦になってる。ちょっと嬉しい。

 すると、おずおずとエルフの男性が俺に話しかけてきた。


「あの、人間の人。これはどこで売ってるんだい?」

「あ、それは私の手作りなので売ってないんですよ。」

「手作りか! じゃあもう一セット持ってないかな? あったらほしいんだけど。」

「あ、ずるい!」

「抜け駆けすんな!」

「もう一セットあるならぜひ僕に!」

「私!」

「いや俺だ!」


 いつのまにか俺の周りには数十人のエルフが集まっていた。

 エルフ引きこもりなんじゃなかったのかよ!?

 ぐーたら引きこもるための情熱すごいな!


「こいつら・・・」

「さすが私の愛しいヒロ。ヒロは私が育てた!」


 呆れ顔のノエルさんに、俺が作ったものが大人気なので笑顔のさきねぇ。


「あーすいません、お土産用にそのワンセットしか作ってないんですよ。」

「「「「「えぇ~!」」」」」


 えぇ~!って言われても。


「じゃあ今度来るときにいくつか作って持ってきます。」

「いつくる?」

「さ、さぁ・・・それはちょっとわかんないです。」

「「「「「えぇ~!!」」」」」


 だからえぇ~!!って言われても!

 見かねたノエルさんから援護射撃が。


「そもそもヒイロはエルフとの交易許可は出ていない。販売なんぞせんぞ。」

「「「「「長老!」」」」」

「わかったわかった。ヒイロくん、君にこれを。」


 長老からなんかの模様が入った腕輪を渡される。


「これは?」

「これはエルフの腕輪といってな。エルフに信頼された者しか持つことを許されないものじゃ。これがあれば第二レベルまでエルフの詩を中和できるから、エルメリアの里までなら君だけでも入ってこれる。」

「え、そんなすごいものもらってもいいんですか?!」


 つーかエルフに信頼って、俺ただ快適安眠グッズ持ってきただけですけど!?


「複製はできんし、ここ百年じゃ君にしか渡してないから特に問題ないじゃろ。」

「激レアじゃないですか! そんな大事なものを・・・?」

「よいよい。またおいで。次はもっと素晴らしい快適安眠グッズを持ってきてくれると嬉しいの。」

「は、はぁ・・・」

「ヒイロ! そいつらに付き合っていたらそのうち今すぐ人数分作れとか言われるぞ!」

「それは無理。ズラかるわよヒロ!」

「あ、アラホラサッサー!」


 こうして、俺たちは逃げるようにエルフの里を後にするのだった。


「・・・ねぇ、この腕輪もらえるならエルフの詩突破訓練って意味なかったわね。」

「言わないで! 俺も思ったけど!」




 後に、ノエルさんがギルドのお偉いさんであるガイゼルさんに今回の件を大雑把に説明して自慢した結果、冒険者ギルド本部で俺が『エルフと太いパイプを持つ謎の男』として知らぬ間に有名になっていたのだが。

 今の俺は知る由もなかった。

 どっとはらい。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。


これにてノエルさん、実家に帰る編の終了です。ちょっと良い話で締めてみました。

作中でヒロくんが言っていた通り、ノエルさんは後に育児にハマり、コハクとマシロにメロメロになります(笑)


実は今回のお話はエクスカリバーのリバ子の時と同じく、読者さんから『ヒロくんとエルフの交易話が読みたい!』という感想があったため、ちょっと考えてみるかーと思ったら意外とサクサク書けたという流れでした(笑)


次回更新はいつものようにネタを思いついた時になります。

不定期亀更新で申し訳ないです。

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