第四姉嫁 外伝『遥か彼方の物語 そのに』
読者さんから感想とお便りいただきました。ありがとうございます。
そしてあねおれFDと同時にあねおれ本編のブクマも増えておりちょっとびっくりです。
「は、はい・・・その、マシロ、さんはどちらへ?」
「弟の加勢にいってきます。わたし、鬼ではないので。」
そしてマシロちゃんはニコリと天使のようなかわいらしい笑顔を見せ、優雅な足取りで乱戦状態の戦場へと足を向けたのだった。
「マシロさん、大変申し訳ありませんでした!」
「いえ、お気になさらず。森での戦いが不慣れであれば仕方ないですよ。それと、呼び方はマシロちゃんでけっこうですよ? カシムさんのほうが年上ですし。」
戦闘終了後、俺はマシロちゃんに思いっきり頭を下げていた。
俺が幾つか盛大な勘違いをしていたからだ。
まず一つ目。『コハクくんはあいつらを殲滅できるくらい強かった』。
マシロちゃんが加勢しにいかなくても、すぐに戦闘は終わっただろう。
コハクくんは頭にたんこぶができたくらいしか怪我していなかった。
それもマシロちゃんの回復魔法ですぐに治ったし。
つーかゴブリンファイターに棍棒で殴られてたんこぶだけとか頑丈すぎんだろ。
二つ目。『マシロちゃんは伏兵を予測していたため様子を見ていた』。
もし三人で前に向かっていたら、後ろからあのゴブリンハンターから奇襲を受けていただろう。
俺は今まで目の前の敵を倒すことしか考えてなかった・・・
そして三つ目。これが一番お笑い草だ。
マシロちゃんが俺にそばにいるように言ったのは、守ってほしかったんじゃない。
『この中で一番強いマシロちゃんがこの中で一番弱い俺を守ろうとしてくれていた』ということ。
それなのに勝手に怒って、俺ってやつは・・・はぁ。
「カシムさんは最近冒険者になられたんでしょうから仕方ありません。気を落とさないでください。」
「・・・君たちくらい強いとやっぱりわかる?」
「よく森でピンチになってる冒険者を助けるけど、だいたい新米冒険者なんだゾ!」
「そ、そう・・・」
こんな子供に新米扱い・・・わかってはいるけど、そんなに弱いのか俺・・・
落ち込んでいるとマシロちゃんからフォローが。
「あ、その、気にしないでください。ハクはちょっとアホの子なので。それに私たちは戦い慣れてますし。」
「た、戦い慣れてるって・・・君たちの年で?」
「ええ、私たち、七歳の頃から魔物と戦ってますから。」
「な、七歳!?」
「もう三年くらい前の話だナ。」
俺が知ってる中では十二歳の時にグミーと戦ったってやつがいたけど・・・それどころの話じゃないな。
「ご、ご両親は? あ、ごめん!嫌なこと聞いちゃったか 、な・・・?」
「別に生きてるんだナ? むしろ八歳の時なんかダンジョンに叩き込まれたんだゾ!」
「ダンジョン!? 八歳の子供をダンジョンに!? どんだけスパルタな両親なんだ・・・」
そう言うと、マシロちゃんの顔が笑顔からすごい怒り顔に変わる。
「違います!母の頭がおかしいだけで、お父様はすごい優しくて背が高くてかっこよくて強くって料理が上手くって(以下略)素敵な男性です!お父様ー!大好きー!きゃー言っちゃったー!!」
「・・・・・・」
両手を頬に添え、いやんいやんとくねくねするマシロちゃん。
すごいかわいいなこの子!
しかし、さっきまで大人びて見えたマシロちゃんがすごい子供っぽくなった。
ファザコンなのか・・・
「だってどう考えてもおかしくないですか? 母が『面白いところに連れて行ってあげる!パパとおばあちゃんにはナイショよ?』って言うからついて行ったらいきなり高速馬車に乗り出して、怪しいと思ってたらダンジョンに到着ですよ!? おかしくないですか!?」
「お、おかしいね・・・」
テンションが異常に高くてちょっと怖いよマシロちゃん。
「でしょう!? しかもダンジョンについたら棍棒を手渡して『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言われているわ!ならば私は我が子をダンジョンに突き落とす!』とか意味わかんないし!なんなのあの女!ちょーむかつく!」
マシロちゃんは言葉遣いまで子供っぽくなってきた。
もしかして、こっちが素なのか?
「でも、なんだかんだ言ってかーちゃん、ちゃんとついてきてくれたんだナ。」
「あ、そうなんだ。そりゃそうだよね。放置はしないよね。」
「ほんとにただついてきただけじゃない!何もしなかったでしょ!? ハクがレッドダンゴムシに体当たりされて転んで泣いてる時、あの人指差して爆笑してたのよ!?」
「・・・・・・」
すごい母親だな・・・そう考えると、この子たちが俺より強くても仕方がないのかもしれない。
戦いの年季がそもそも違うみたいだし。
「ほんと最悪なのあの人!私はお塩取ってっていったのにわざと『砂糖』って書いてある容器を渡してきたり、テストで100点取ったっていったら『私が小さい頃は130点以外取ったことなかったわ!』とか!なによ130点って!どんなテストよ!そもそも何点満点なのよそのテスト!他にも・・・!」
「まぁまぁしろねぇ。落ち着くんだナ。かーちゃんは昔っからそんなだから、今更どうこう言ってもしょうがないんだナ。オレは面白いし美人だし好きだナ?」
「・・・確かに美人なのは認めるわよ? しかも『不老の美魔女』とか『耳が短くて胸が大きい突然変異のエルフ』とか言われるくらい若く見えるし。でもそういう問題じゃ・・・!?」
マシロちゃんは台詞を言い切る前に素手で構えを取り、一歩前へ出る。
同様にコハクくんもハンマーを構えて前へ。
まるで、俺をかばうかのような立ち位置だ。
さっきのゴブリン軍団の時には見せなかったピリピリした緊張が伝わってくる。
なんだ、何かいるのか?
怪訝に思っていると、前方の草むらからのっそりとナニカが現れた。
それは・・・
「グルルルルルル・・・」
「ば、化け物!?」
全身を毛に覆われた巨大な獣だった。
「こんなに大きいのに、ここまで近づかれるまで気付かないなんて・・・さすがこの森最強の魔物、といったところかしら?」
「こ、この森最強!? マシロちゃん、こいつのこと知ってるの!?」
「多分だけど、キューティーベアーなんだナ。めったに出現しないレア魔物で、この森で唯一C級魔物と同じくらい強いってとーちゃんが言ってたんだナ。」
し、C級・・・?
嘘だろ・・・そんなの勝てるはずないじゃないか・・・
「しろねぇ、どうするんだナ? とーちゃんからは『クマに会ったらすぐ逃げろ』って言われてるナ?」
「そうね・・・でもわたしたちはともかく、カシムさんは逃げきれないだろうし。そして、お父様はこうも仰ってたわ。『義見てせざるは勇なきなり』って。」
「つまり・・・」
「ええ・・・」
その言葉とともに、二人はお互いの顔を見合った後、ニヤリと笑った。
そして。
「「この場でぶっ倒して、出会わなかったことにする!」」
言うや否や、正面から真っ直ぐキューティーベアーに向かって走り出すコハクくん。
「ちぇぇぇすとぉぉぉぉぉおおお!?」
そしてキューティーベアーの右前足で殴られ、森の奥に吹っ飛んでいくコハクくん。
「コ、コハクくぅぅぅん!?」
「はぁ・・・全くもぉ。『素直』と『単純』は別物よ? まぁそこもかわいいところではあるんだけど。・・・ハク!お姉ちゃんが時間を稼いであげるからさっさと復帰しなさい!」
今度はマシロちゃんがゆったりした足取りでキューティーベアーへ向かう。
キューティーベアーはさきほどと同じように右前足を振るう!
マシロちゃんは上に飛んでそれをかわした。
だが、キューティーベアーは左前足で飛んだマシロちゃんを狙う!
まずい、空中じゃ避けられないぞ!?
「フッ!」
すると、マシロちゃんは空中を蹴り、さらに前方へ飛んだ!
な、なんじゃそりゃ!?
「ハァ!」
「ギャウ!」
そのままキューティーベアーの脳天にかかとを落とした。
そして先ほどと同じように空中を蹴り、後方へ飛び着地する。
「ガルルルルル!」
「え、今の喰らっても全然効いてないの? 何こいつウザい。」
キューティーベアーは今の一撃で怒りに目を真っ赤に染めている。
あわわわわ・・・!
「・・・しろねぇ!待たせたんだナ!」
その時、吹っ飛ばされてたコハクくんが無傷で戻ってきた。
コハクくんの頑丈さといいマシロちゃんのさっきの跳躍力といい、この姉弟はどうなってんだ。
「さて、と。このままじゃジリ貧な気がするわね。たまには後先考えずに全力でやってみる?」
「でも、全力でやったらすぐ魔力切れになっちゃうんだナ?」
「魔力が切れる前に倒せばいいのよ?」
「!? さすがしろねぇ!頭いいんだナ!」
二人はそう言うと腰につけている袋に手を突っ込む。
コハクくんが袋の中から取り出したのは高級そうな一本の剣、マシロちゃんが取り出したものは真っ黒なグローブだった。
アレ、魔法袋だったんだ。ということはハンマーも棍棒もあの中にしまってあったのか。
「魔物相手にコレを試すのは初めてね!」
「オレもわくわくするんだゾ!」
二人の体から強力な魔力が吹き荒れる。
そして。
「りんぴょーとーしゃーかいじんれつざいぜん!来るんだナ!≪火炎王蛇≫!」
コハクくんが空中に指で何かを描きながら叫ぶと、目の前にコハクくんよりも大きな炎の蛇が現れたのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
マシロちゃんとコハクの母親とは一体誰なのか?なぜコハクはS級冒険者の固有魔法≪火炎王蛇≫を使えるのか?
謎は深まるばかり・・・待て、次号!
作者の好きな展開その2
・続編のキャラが前作のキャラの技や魔法を扱う