第三十二姉嫁 ムラサキお姉ちゃん、運命に出会うの巻 そのはち
感想いただきました。ありがとうございます。
日曜の仕事、サラリーレス
これはどうみても・・・
「「プリンじゃん!」」
俺たちの前に姿を現した最強の人造魔物は、アホみたいなでかさのプリンだった。
「これぞ私の最高傑作! プリリンカイザー!」
自信満々のドヤ顔をしているノーラさん。
よくこれでドヤ顔できるな。すげぇわ。
俺ならもっと恥ずかしがりながら小声で紹介する。
「バケツプリンには夢があるけど、あそこまで大きいと逆にまずそうね。」
「何を言ってるっていう! 味もイナルファ王家納得の最高品質だっていう!」
「いやあれ戦いで使う戦力でしょ!? 味にこだわる必要ある!?」
無駄すぎだろ・・・
「まぁいいわ。しかしノラ子、悪いわね。一撃で決めさせてもらうわ!」
「アレを使うのか・・・」
「そう、渡辺先生よ! カムヒアー!」
さきねぇは魔法袋の中から巨大なハンマーを取り出す。
これがさきねぇの最強武器、渡辺先生こと【人造魔剣トールハンマー・レプリカ】。
色々あってドワーフ八大族長の一人、グランバルド・ディアス氏から気に入られたさきねぇが譲り受けた、人造にも関わらず魔剣と呼べるほどの性能を持つに至った強力な逸品だ。
強力な逸品なのだが、本物のトールハンマーと違って使用者が雷の魔力を流さないと電気を帯びないので、雷魔法が使える人間じゃないとただのでかくて重いだけの普通のハンマーというガッカリ武器である。
しかも、さきねぇの魔力量的に短時間しか使えず、全力で振れるのは一日三回程度という微妙な武器だ。
良くも悪くも、分の悪い賭けは嫌いじゃないさきねぇのために作られたといっても過言ではない。
ちなみに、本物のトールハンマーは大戦時に消滅してしまったため存在しない(byノエルさん)。
「すごいハンマーだっていう・・・でも、果たして通じるかなっていう?」
「見てなさい、あっという間に焼きプリンにしてやるわ!」
不敵に笑うノーラさんを置いてプリリンカイザーに突進するさきねぇ。
「くたばれぇぇぇぇぇ! ムラサキ流奥義!≪ムラサキお姉ちゃんの三秒クッキング、焼きプリンの作り方≫ぁぁぁぁぁ!」
どんな技名なの。
バチバチと激しい雷撃をまとったハンマーの一撃がプリリンカイザーに突き刺さる!
だが。
ぷるるるるるるん♪
「なん、だと・・・?」
プリリンカイザーが激しく揺れたが、それだけだ。
やつは焼きプリンになっていなかった。
不発か?と思っていると、上からカラメル(?)が零れてきてさきねぇの腕に降りかかる。
じゅわ~
「!? あっつい! ヒロやばい! お姉ちゃん解けちゃう! あっつい!」
「ふわっ!? すぐに回復を!」
さきねぇが渡辺先生をその場に放り出し、手を激しく揺らしながらこっちに戻ってくる。
俺も全力ダッシュで近づき、すぐに≪聖杯水≫をさきねぇの腕にかける。
「結局熱いのね・・・」
「こればっかりは我慢してちょ。」
「はーっはっはっはっは! プリリンカイザーのすごさを見たかっていう!」
仁王立ちで高笑いするノーラさん。
よくも俺のさきねぇに痛みを与えやがって・・・・・・殺すか。
「ヒロ、どうどう。落ち着いて落ち着いて。お姫様殺したらさすがにやばいっしょ。」
「え、こ、ころ・・・?」
俺の殺気に気付いたのか、めっちゃオロオロしだすノーラさん。
「説明してください。説明しだいでは生かしてあげます。」
「お、弟殿は実はおっかなかったっていう・・・姉弟揃って変人だったっていう・・・」
こほん、と咳払いをして説明を始めるノーラさん。
「えー、プリリンカイザーのボディは超柔軟なので、打撃属性の攻撃は完全無効だっていう。斬ったり突いたりも利きにくい上に再生能力もあるので、普通の物理攻撃では倒せないっていう!」
「あのカラメル?はなんなんですか? 酸?」
「めっちゃ熱い普通のカラメルだっていう。」
「普通のカラメルなのかよ! 何がしてーんだよお前は! 兵器なのかデザートなのかはっきりさせろ!」
「美味しい兵器を目指したっていう!」
意味がわからないよ・・・
「じゃあ魔法じゃないと倒せないってこと?」
「普通のプリリンならそうだっていう。しかし、やつはプリリンカイザー! 私の頭脳と持てる技術を結集して作り上げた傑作! 魔法防御も完璧だっていう! ぶっちゃけ弱点はないっていう! あっはっはっは!」
ノーラさんの得意顔とは裏腹に、さきねぇが珍しく困ったような顔をしている。
なんだ?
「ん~・・・ねぇノラ子。あれ、兵器だけど、一応魔物なのよね?」
「ん? まぁそうだっていう。」
「どうやっていうこと聞かせるの?」
「どうやってって・・・そりゃあ魔法でコントロールするに決まってるっていう。」
「魔法防御は完璧なのに?」
「・・・・・・・・・おお。」
悩んだ結果、手をポンと打ち納得したような顔を見せるノーラさん。
「なるほど! 魔法防御を完璧にしたら魔法でコントロールできないっていう! 盲点だったっていう!」
「もー、このウッカリ屋さんめ~!」
「しっかりしてくださいよノーラさ~ん。」
「「「あははははははははは!!」」」
三人で和やかに笑いあう。
そして、誰ともなく笑いが収まる。
・・・さて。
「「じゃ、そういうことで。」」
「待ってほしいっていう! 助けてくれっていう!」
そこまで責任もてるか!
「だって物理も魔法もきかないんでしょ? お手上げじゃない。私、勝つのは好きだけど負けるのはイヤー。」
「いや、さっきの雷バチバチハンマーの発想は良かったっていう! あれがハンマーじゃなくて剣だったらひょっとしたらイケるかもっていう! 他に魔剣は持ってないっていう?」
「他なー。ミカエルくんは打撃だし、ノブナガさまも斬るっていうか押し潰す打撃って感じだし・・・」
「打撃武器ばっかりっていう!? なんでそんなに打撃武器好きなんだっていう!?」
心配しないで下さい、偶然ですよ。
あとはマサムネさんあるけど、あれはミスリル100%の良い剣ではあるが、あくまで普通の剣だからな~。
魔剣と違ってさきねぇの化け物じみた魔力の全開放に耐えられるか考えると、正直厳しいと思う。
うーん、魔剣・・・それもさきねぇの魔力に耐えられるような・・・例えば、ノエルさんの月光剣のような・・・ん?
その時、俺の脳裏に稲妻が駆け巡る。
月光剣・・・イナルファ・・・魔剣・・・!
「なんとかしてくれっていう! いくら王女でもこの失態はまずいっていう! 税金つぎ込みまくってるから国民にめっちゃ叩かれまくるっていう!」
「いいじゃない、ドジっ子萌え王女とかの方向性で売れば? 『てへ☆やっちゃったっていう☆』とか言って。」
「23歳でそれは痛々し「あー! あるじゃん! さきねぇが使っても耐えられそうな魔剣!」
「「え?」」
突然の俺の叫びに驚く二人。
「さきねぇ! エクスカリバー! エクスカリバー3だよ! たしかイナルファ王国の宝物庫に保管されてるはず!」
「・・・おー! あれか、エドとかいうやつのガキがやらかしたやつか!」(あねおれ本編百六十姉参照)
俺たちの言葉に、目に見えてうろたえるノーラさん。
「どどどどどど、どうしてそれを・・・!?」
「エクスカリバーを叩き折った〝破軍炎剣〟ノエル・エルメリアは、私たちのおばあちゃんだから!」
「ノエルさんは俺たちの師匠的な人なので、そのへんの話は全部聞いてます。」
「バ、〝破軍炎剣〟の孫で弟子っていう!? そりゃ強いはずだっていう。」
感心したように俺たちを見つめるノーラさん。
〝破軍炎剣〟のネームバリューすげぇな。
名を貶めないように頑張らねば!
「でも、さすがに私個人の判断でエクスカリバーを持ち出すのは・・・」
「帰ろっかさきねぇ!」
「そうね!」
「わかったっていう! 今探して持ってくるから待っててくれっていう!」
「最初からそういやいいのよ。」
恨みがましい目でさきねぇを見つめたあと、はぁ・・・とためいきをついて奥のドアへトボトボ歩き出す。
「バッカモーン! 駆け足駆け足ー!」
「あーもうわかったっていう! 持ってくるけど、その代わり絶対プリリンカイザーをなんとかしてくれっていう! 約束っていう!」
「おいどんにまかせるでごわす!」
「ねぇ、さきねぇどこの人だっけ?」
「千葉県民です!」
『エクスカリバーの無断持ち出し・・・まぁ国民からフルボッコにされるよりかはまだマシっていう・・・』などとぶつぶつ呟きながら退室するノーラさんを見送る。
プリリンカイザーに目をやると、ぷるぷるしながらちょっとずつ動いているようだ。
まぁ動きはゆっくりだから、お茶でも飲んでエクスカリバー待ちしましょうかね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
今章のタイトルでピンときた方もいらっしゃるでしょうが、今回のお話はムラサキさんがエクスカリバーのリバ子を手に入れるまでのお話です。
以前読者さんが感想でエクスカリバーゲットのお話を読みたい!と仰ってくださったのを思い出して書いてみました。
まさかこんな長くなるとは思ってもみませんでしたが(笑)




