第二十四姉嫁 外伝『二度あることは三度ある? そのさん』
今回は萌えキャラ出ます!おっさんばかりじゃないです!
「ラ~ウ~ル~さ~ん?」
「嘘! 嘘です! きれいな奥さんもらえてスレイは幸せ者だなーおい! 」
「全くもう・・・」
そして四人で昔話に花を咲かせるのだった。
「あーこりゃまずいね。」
「ちょっとまずいっすね。」
二日後の早朝。
アルゼン荒野の向こうにスケルトンの集団が見える。
予定ではいても三百体程度だろーと高をくくっていたのだが・・・
「あれさ、いっぱいはいっぱいだけど、いっぱいすぎね?」
「百体二百体で済むレベルじゃないっすね。」
「目算だけど千はいそうだな。」
「さすがに多すぎっすね。」
冒険者たちも顔が青くなっているやつがほとんどだ。
まぁ千を超える魔物の軍勢なんて、昔の大戦以降ほとんどないからな。
いくら雑魚のスケルトンとはいえ、びびるのもしょうがない。
「しかもただのスケルトンだけじゃなくてヘビースケルトンもいるっぽくね?」
「あのちょっと大きくて黒っぽいやつ、やっぱそうっすよね。」
ヘビースケルトンはD級魔物だ。
ハイスケルトンみたいに自動再生するわけじゃないけど、スケルトンより手ごわいのは確かだ。
「どうしましょうか?」
「どうしましょうかって、俺がどうにかするしかないんだろ?」
「まぁ強力な魔法使いなんてこの場にはヒイロさんしかいないっすからね。ぱぱっとお願いします。」
「あいよー。」
「・・・みんなよく聞け! 今からヒイロさんが強力な魔法でスケルトンたちに攻勢をかける! 敵の数が減ったら全員抜刀して突撃するぞ! わかったな! 」
戸惑いながらも返事をする冒険者たち。
さて、久しぶりにヒイロさんと戦えると考えると、なんか嬉しくなるな。
ヒイロさんが前に出て詠唱を始める。
「朝焼けよりも眩きもの、空の青より蒼きもの・・・」
ヒイロさんを中心に魔力の渦が形成され、頭上に巨大な水の塊が現れる。
すごい大きさだな・・・
「聖言を告げる偉大なる汝の名において、弟、ここに姉に誓わん・・・」
頭上の水の塊が分裂する。
一つから二つ、二つから四つ、四つから八つ・・・どんどん増える。
「我らの前に立ちふさがりし、全ての姉の敵どもに・・・」
そして、数え切れないほどの水の塊全てが短剣の形をとる。
「我と汝が力もて、等しく絶望を与えんことを・・・!」
水でできた短剣全てがどんどん固まり氷の短剣と化す。
「≪聖氷槍雨≫512メガバイト!」
ヒイロさんの力強い言葉と共に、周囲を埋め尽くすほどの大量の氷の短剣が一斉にスケルトンの軍勢に殺到する。
あれだけいたスケルトンたちは正確に額の魔石を貫かれ、ほんの数瞬で半分ほどまで数を減らしていた。
「さすがヒイロさん、相変わらず凄まじい精度っすね。」
「まぁな。俺みたいな凡人はこういう細かいとこで点数稼がなきゃいけないから大変だよ。」
ヒイロさんはB級冒険者以上の魔法使いや上級魔法使いと比べて、魔法力が高いわけでも魔法量が多いわけでもない。むしろどちらも低いほうだろう。
それでもヒイロさんが一目置かれる理由の一つがこの魔法精度にある。
ヒイロさんの攻撃魔法は派手なわけではない。威力があるわけでもない。
しかし、狙った箇所は絶対にはずさない。
あのノエル様ですら『創造力と魔法精度、この二点に関してだけは自分ですら勝てない』と仰るほどなのだ。
見渡すと、魔法に合わせて突撃するはずだった冒険者たちが呆然とヒイロさんを見ている。
「・・・クククク。」
「え?」
「ハァーハッハッハッハッハ! やばい! テンションあがってきたぁー! ひゃっはー! かもーんジュニア!」
ヒイロさんが爆笑しながら何かを振り回している。
何この人怖い。
すると、ヒイロさんの影から得体の知れない何かが飛び出した!
「ヒイロ殿、お久しぶりです、何かありましたか?」
「おーっす久しぶりジュニア! 相変わらずかわいいな!」
そこには、真っ白い毛に覆われた大きな虎がいた。
人語をしゃべってるってことは、もしかして霊獣?
「ヒ、ヒイロさん? それはなんなんすか?」
「ん? ああ、この子はミニ白虎のジュニアくんだ。俺の朋友の息子みたいなもんだ。」
「分身ですので息子と言うわけでは・・・」
「まぁ似たようなもんじゃん?」
仲良さげに霊獣と会話するヒイロさん。
いきなり霊獣を呼び出すとか、この人もムラサキさんと同じくほんとに突拍子も無いな。
「ほらジュニア。むこうに骨がいっぱいあるぞー? かじっていいぞー?」
「それじゃ犬じゃないですか! 私はねこ、いや違った猫じゃない! 虎! 虎です! 虎!」
口を大きく開けて威嚇する虎を横目に、その虎の首元に抱きついてもふもふしだすヒイロさん。
この人マインド強いな。
多分A級魔物と同等かそれ以上の強さだぞこの霊獣。
少なくとも俺も含めたここにいる冒険者全員より強いことは確かだ。
「よっし。とりあえず、あそこにいるあれ、全部敵だからさ。やっちまおうぜ。」
「・・・了解ですヒイロ殿。」
ヒイロさんは巨大な白い虎の背に跨り、魔法袋から棍棒を取り出した。
「ちゃーちゃーちゃちゃちゃちゃーちゃー! ヒイロはタイガーマージナイトにクラスチェンジした! いくぞジュニア! ヒイロ中尉、突貫します! ラァァァァァァァァァァイ!」
「ガオォォォォォォォォン!」
雄たけびを上げながら敵陣に突っ込んでいくヒイロさんと霊獣。
なんだろう、ノエル一家にはスケルトンの大軍を見たら何かに乗って突っ込まなきゃいけない家訓でもあるんだろうか。
しかし早いな。もうスケルトンたちのど真ん中に突っ込んだぞ。
スケルトンたちが風に巻き上げられた枯葉のように吹き飛んでる。
もうヒイロさんだけで勝てるんじゃ、あ! ヒイロさんがすごい勢いで落馬した! めっちゃゴロゴロ転がってる!
あんな速い霊獣に轡もつけないで乗るから・・・
あ、ヒイロさんの落下地点にスケルトンが集まってきた。
ここからじゃよく見えないけど、タコ殴りにされてるっぽいな。
大丈夫かな。多分大丈夫だよな。
「ぶるぁぁぁぁぁぁ!」
あ、やっぱ無事だった。
ヒイロさんが棍棒を振り回すだけで周囲のスケルトンたちが灰になっていく。
そういやヒイロさんのエクスカリボーってアンデッドに特攻だったな。
普段から『この駄棒が!』とか言われてるから忘れてたけど、あれも一応魔剣だもんな。
ふと気付くと、冒険者たちが俺を見ていた。
『どうすればいいんですかこれ』って感じだ。
まったく・・・
「・・・何をやってる! 引退したヒイロさんが突撃してるのに現役のお前たちが棒立ちで突っ立ってんな! お前たちもヒイロさんを見習って戦ってこい! 全軍突撃ぃ!!」
俺の怒声でやっと動き出す冒険者たち。
まぁほっといてもヒイロさんが全滅させちゃいそうだけど、一応こいつらにも経験積ませないといかんしな。
俺は・・・携帯ポットのお茶でも飲むか。
「それでヒイロさん。何か言いたいことはありますか。」
「えー、テンションがあがってしまった。今は反省している。後悔はしていない。」
あの後。
結局ヒイロさんがスケルトンの大半を始末してしまったので予想以上に早期終結してしまった。
『老兵は去るべし!』とか『現役の新人たちに経験を~』とか言ってた本人がこれだもんなぁ。
「一応特別クエストではあったんで参加報酬以外に特別報酬もお渡しするっす。」
「いらねぇよ別に。俺とお前の友情、プライスレス。」
「そう言ってくれるのはすごい嬉しいっすけど、これも規則っすから。」
「・・・じゃあ受け取るわ。リムルちゃん、これで今回の特別クエスト参加したやつら全員に酒でも振舞ってやって。」
「了解です!」
ヒイロさんは俺が渡した報酬の入った袋をそのままリムルに渡す。
リムルは部屋を出てギルドロビーに向かった。
「相変わらず人がいいというか欲が無いというか、なんというか。」
「ん~? 別に欲がないわけじゃねぇよ。ただ俺にとっては家族以外のことはあんまり重要じゃないってだけ。」
「しかしあれっすね、今回の戦いで『アルゼンにヒイロ・ウイヅキあり!』って示せましたね!」
「スケルトンの集団程度じゃそんななんねーべ。」
それでもヒイロさんの≪聖氷槍雨≫だったり、虎の霊獣を召喚したりと新米どもにはいい刺激になったろう。
「さて、と。じゃあ俺は店戻るわ。明日の仕込みの準備もしないといけないしな。」
「ヒイロさん、ありがとうございました!」
「俺とお前の仲でしょうが。気にすんな気にすんな。」
部屋から出て行こうとするヒイロさん。
相変わらずかっこいいぜ!
・・・と思っていたらヒイロさんがこっちに戻ってくる。
なんだ?
「真白と琥珀が帰ってきたら、さりげなく俺の活躍を伝えておくように。さりげなく。あくまでさりげなくな。世間話の延長で『あ、そういえば~』みたいな感じで。」
「・・・・・・了解っす。」
「じゃあ今度こそ、ほなさいなら~。」
手を振りながら今度こそ部屋を出て行くヒイロさん。
出て行ったのを確認した後、俺は机から手帳を取り出す。
「『アルゼンを襲った千を越えるスケルトンの大軍。しかし、ヒイロさんの活躍によってスケルトンたちは全滅。彼のおかげで今日も街の平和は守られたのであった』、と。」
こうして、俺が昔から書いている日記『ウイヅキ姉弟物語』に新たな一ページが加えられたのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
今回の更新はこれで終了です。白虎さん萌え。
あねおれなのに姉が出ないとかなめてるの?って読者さんも多いと思います。
でもたまにはヒロくんアゲ回があってもいいじゃない!
次の更新は・・・来月?カモ?




