第二十三姉嫁 外伝『二度あることは三度ある? そのに』
8月20日20時30分、ムラサキさんの二つ名について少しだけ加筆修正しました。
「そういやラムサスさんは? 指揮だけならあの人でも十分だろ。」
「腰が痛いって温泉にいってます。」
「・・・かの高名な〝風影剣〟も年には勝てないかぁ。切ねぇな。」
「しょうがないっす。なんだかんだいってもうおじいちゃんっすからね。」
そんな世間話をしながらギルドへと向かうのだった。
ギルドにつくと、すでに多くの冒険者がロビーに待機していた。
リムルがでかい声で職員や冒険者たちに指示を出している。
「アルゼン荒野にいった新人たちを見つけたらすぐに戻るように伝えなさい!」
「姐さん、次の偵察チームの編成整いました!」
「お疲れ様!すぐに向かわせて!」
「姐さん、ラウルさんがさぼってます!」
「ぶっ殺すぞじじい!忙しいんだから働け!」
昔から口は悪かったけど、さらに磨きがかかったな・・・
もうちょっと落ち着いて欲しい。
するとリムルと目が合う。
「スレイ! ヒイ、ロさんいたみたいね! よかったぁー!」
「おっすリムルちゃん。相変わらずかわいいね。」
「あ、ありがとうございます! えへへ。」
はねっかえりのリムルもヒイロさんにはお世話になりまくってるので素直である。
普段からこの素直さをもっと俺にも出してくれれば・・・
「あ? 何?」
「なんでもないよ。指示ありがとな。」
「スレイにできることが私にできないはずないじゃない! 任せなさいよ!」
自信満々のリムルの笑顔。
ムラサキさんとも仲がいいからちょっと似てきた。困る。
「ムラサキさんたちが旅行にでかけるって話は聞いてたからヒイロさんかノエル様のどっちかは残ってくれてると思ってましたけど、ヒイロさんでよかった~。」
「え、そう? ノエルさんの方がよっぽど頼りになると思うけど。」
「戦闘力的にはそうかもしれませんけど、でも私たちじゃ恐れ多くてノエル様にスケルトン退治手伝ってください、なんて言えないですよぉ。燃やされちゃいますもん。」
「人のおばあちゃんをなんだと思ってるの。」
いや、ノエル様なら絶対『その程度自分たちでどうにかしろ!』って怒られて終わりだと思うっす。
ヒイロさんが甘やかされてるだけっす。
「っと、そろそろ話さないとまずいっすね。ヒイロさん、ちょっとあっちの奥で待機して貰ってていいっすか? 呼んだら来てください。」
「・・・はい、みんなちゅうもーく! 副支部長より連絡事項があります! 静粛に!」
リムルの声を聞いて静まる冒険者たち。
こいつ、俺より冒険者の心を把握してないか?
なんか悔しい。
おっと、そんなこと考えてる場合じゃなかったな。
「えー、よく聞いてください。実はスケルトンの大軍がこの街に迫っています。数はまだわかりませんが、少なくとも百体以上はいると思います。」
俺のその報告にざわつく冒険者たち。
しかし、その大半が余裕そうな顔をしている。
アルゼンにはノエル様やムラサキさんがいるからって安心しきってんなこいつらは。
冷や水をぶっかけてやるか。
「ちなみに、〝破軍炎剣〟ノエル様と〝破竜輝剣〟ムラサキさんは今この街にいません。」
その一言で一瞬静まり返り、すぐにざわめきが大きくなる。
ふふふ、びびってるびびってる。
まぁスケルトンはE級魔物とはいえ、数百体もいるとなればびびるよな。俺も昔はそうだったし。
『つーか〝破竜輝剣〟って誰?』
『あれだよ、〝絶対姉姫〟の人。すげー美人の。』
『あーあの人か!あの人〝絶対姉姫〟とか〝紫電旋風〟とか〝暴竜皇女とか〟二つ名多すぎて〝絶対姉姫〟って言われないとわかんねぇよ・・・』
色々なひそひそ話がされる中、一人の冒険者が手を上げて発言する。
「副支部長! では、我々だけでスケルトンの大軍に立ち向かうのですか!?」
「もちろん、と言いたいところだが。何かあったら大変だからね。強力な助っ人を呼んでおいた。入ってくれ。」
通路の奥からヒイロさんが出てくる。
完璧な演出だ! これで新米どももヒイロさんのすごさがわかるだろう。
と思っていたんだが・・・
「どぉも~!」
手を叩きながらみんなの前に出てくるヒイロさん。
小者臭がすごい・・・
「みなさんこんにちわ!人呼んで『千葉県の砂漠の虎』こと、ヒイロ・ウイヅキでーす!じゃん!じゃじゃじゃん!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
すごいすべってる。
俺の演出した『強力な助っ人』感がほぼゼロになってしまった・・・
「・・・・・・えー、こほん。こちらが助っ人のヒイロ・ウイヅキ殿です。」
「す、助っ人のヒイロです・・・」
顔を赤くして縮こまるヒイロさん。
そんなに顔真っ赤にするくらいなら最初からやらなきゃいいのに・・・
もう一度ギルド内を見渡すと、アルゼン在住で冒険者暦数年以上のやつらはほっとした顔をしている。
逆に新米やアルゼンの外からやってきたやつらは困惑顔だし、中には『あいつ誰?』って顔をしてるやつもいるな。
「こちらのヒイロさんはベーカリーウイヅキの店主として知ってる人も多いだろうが、実はA級冒険者です。」
俺の発言に顔を見合わせる冒険者たち。
『マジで?』
『全然すごそうに見えないんだが』
『あ、でもこの前街長があの人に向かって頭下げてた』
『そういやなんかトポリス王旗がついてる馬車がパン屋の前に留まってたな』
『元A級だからか・・・全然見えないけど』
「いやいや、俺、B級だから。しかも半隠居だから。」
「まぁ正確にはギルド本部からのA級昇格の打診を蹴ったギルド史の中でも数少ない人物だ。B級ではあるが実力はA級相当だと思っていい。」
「あのーハードル上げないでくださーい。聞いてますかー。」
ヒイロさんが何かいっているが無視。
無理やりにでも表舞台に引きずり出してやる。
ヒイロさんのすごさを新人どもに教え込むいい機会だし、俺が副支部長として頑張ってるときにヒイロさんがのほほんとパンを焼いてるなんて許さないよ。
一緒に苦労しましょうヒイロさん!
「さらには水の上級魔法使いとして〝該博深淵〟の二つ名を持つ方です。このヒイロさんに助っ人として入って貰います。ではヒイロさん、一言お願いします。」
「うぇ~い。えー、まぁ俺はほぼ引退した身なんでね、活躍は現役の皆さんにお譲りします。回復魔法が得意で大体の怪我は治せるんでね。死なない限りは。なのでみなさん思い切ってスケルトンと戦ってください!あと死なないでね!ガンバ!」
ヒイロさんの言葉に『嘘だろ、すげぇ適当なんだけど・・・』って顔してる冒険者たち。
そんな楽させませんよヒイロさん。
「・・・あー、こういってはいるがヒイロさんには前線で敵をひきつけてもらう予定なので安心してくれ。」
「え、マジで? そういう感じなの? じゃあお前、じゃなかった副支部長も一緒にいきましょう。」
「え、いやっすよ。自分は指揮をとるっす。」
「そんなもんリムルちゃんに任せれば大丈夫だよ。ねぇリムルちゃん。」
「はい! 任せてください!」
ヒイロさんに敬礼で返す俺の妻。
クッ、リムルめ。裏切りやがった。
「とりあえず副支部長も最前線な。」
「マジっすか・・・」
まぁ仕方ないか。
それにスケルトンの百体や二百体、ヒイロさん一人で余裕だし、戦闘が始まったらまる投げちゃえばいいか。
「あー、これは特別クエストなので参加すればボーナスが出るし、成果によっては知名度もあがるから悪い話じゃない、どころか良いことずくめのクエストです。頑張ってください。早ければ明日、遅くとも二、三日の間でスケルトン軍と戦うことになる。準備を怠らないように!解散!」
俺の言葉に冒険者たちがギルドを出て行く。
「・・・よし。スレイ、英気を養う為にも久しぶりに旧アルゼン冒険者チームで飲もうぜ。ラウルさんも一緒に一杯やりましょう。」
「お、いいねぇ。これがおごりならなおさらいいんだがねぇ。」
「後輩にたかんないでくださいよラウルさん! 割り勘です!」
腰に手を当てたリムルがぷりぷりしてる。
「副支部長の奥さんはケチで困るわ~」
「ラ~ウ~ル~さ~ん?」
「嘘! 嘘です! きれいな奥さんもらえてスレイは幸せ者だなーおい!」
「全くもう・・・」
そして四人で昔話に花を咲かせるのだった。
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