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第二十一姉嫁 番外編『ある日の冒険者ギルド総本部』

今回の番外編は時系列的にはあねおれ本編完結から四、五年ほど経ったお話です。

 冒険者ギルド総本部。

 今日はここに、ギルド役員のほとんどが顔を出していた。

 C級からB級への昇格を認定する会議があるからだ。


「こちらがB級昇格予定者の名簿になります。皆様ご確認ください。」


 役員たちは秘書官により配られたリストに目を通す。

 このリストにはB級への昇格が予定されている冒険者がリストアップされていた。

 だが、このリストの全員がB級に昇格できるわけではない。

 実技・筆記・面談からなる昇格試験の成績や、冒険者としての実績、本人の素行や人柄なども加味される。


「ではまず一枚目、クレイン・エンデバーですが・・・」


 秘書官が一名ずつ名前を読み上げ、試験の成績や冒険者としての実績などを挙げる。

『こいつは使える』『これは裏で怪しいことやってるから保留』『ワシ、こいつ嫌い』など、様々な意見が交わされる。

 そして最後の一枚、昇格予定者の名前が告げられた。


「次が最後になります。ヒイロ・ウイヅキです。」


 その名前が挙がると、役員の何人かが反応を示す。


「ウイヅキと言うと、あの・・ムラサキ・ウイヅキの弟か?」

「はい。将来的にA級昇格がほぼ確定している〝紫電旋風テンペスト〟の弟ですね。」

「ふむ、期待と恐怖が半々といったところだが、冒険者としての実績は・・・なんだこれ?」


 資料のページをめくった役員が疑問を露にする。

 だが、それも当然だった。

 そこには『姉がベヒモスを倒す際に援護をする』『姉がはぐれワイバーンを倒す際に援護をする』『姉がゴブリンジェネラルを倒す際に援護をする』等々、様々な戦績が書かれていたが、全て『姉の援護をする』で埋まっていた。


「・・・こいつ、姉の援護しかしてないが。」

「ムラサキ嬢の強さは異常だからな。その後ろにくっついていれば確かに安全に戦績も稼げるだろうな。」

「弱いんじゃないのか? こんなやつをB級に上げるわけにはいかんでしょ。」


 役員から多数の反対意見があがる。


「ですが、昇格試験の実技ではそれなりの評価は出ています。筆記に関しては他の試験者と比べて抜きん出ており、面談もかなりの高評価を得ています。」

「実技の試験官は?」

「セイグラム殿です。」

「セイグラムか・・・なら贔屓や賄賂はないな。」


 セイグラムは実力としてはB級上位程度だが、真面目で公正公平な人間としてギルドからは信頼されている。

 そのセイグラムがヒイロをB級として活動できると判断したということは、ヒイロは決して弱くはないということだ。


「だが・・・この実績は冒険者としてはどうなんだ? 誰がこのふざけた実績を報告してるんだ?」

「それが、本人の自己申告のようでして・・・」

「・・・はぁ?」


 冒険者は基本的に自分の戦績を求める自己主張が激しい連中ばかりである。

 もちろんそのほうが金や知名度の面で有利になるのだからそれは仕方ない。

 仕方ないのだが、だからこそこの報告書は異常であった。

 まるで姉の戦績を輝かせるために書かれたような違和感があった。


「よくわからん男だな・・・しかし、この戦績では・・・」

「お待ちください。彼の実績には続きがあります。次のページをご覧ください。」


 秘書官に促されページをめくる役員たち。

 ページをめくった次の瞬間、全員が硬直した。

 入ってきた文字は『大森林の第二結界内にてエルフの長の一人と会談。エルフの里に立ち入ることを許可されエルフとの個人交易を認められる』だった。


「おいおいおいおい、冗談だろ?」

「いえ、冗談ではなく本当のようです。」

「そんなバカな。事実確認は行ったのか。」


 役員たちが驚くのも無理はなかった。

 エルフは超排他的であり、引きこもりでもある。

 エルフの里は過去の破軍炎剣襲撃事件から結界を三重にした。

 大森林の大半を囲う第一結界、エルフの里周辺を囲う第二結界、長老たち重要人物を囲う第三結界である。

 人間の国から正式に認められた御用商人ですら第一結界内にしか入れないし、エルフの長老の代理としか会うことは許されていない。

 にも関わらず、三十にも満たない若造が第二結界まで入り長老と面会したという。

 まず誤報を疑うのが当然であった。

 しかし。


「私が確認した。間違いない。」

「ガイゼル殿・・・ならばこれは本当なのか。」

「嘘でも冗談でもなく、事実だ。」

「いったいどうやったらそんなことが・・・」


 ガイゼルと呼ばれた役員の言葉に声を詰まらせる他の役員たち。

 このガイゼルは役員会の中でも上位の実力者であり、冒険者ギルドの中でも情報収集を任されている立場でもあった。

 そのガイゼルが事実確認を行い、間違いないと判断したのだ。


「えー、まだ続きがありますが、こちらもガイゼル殿に確認していただいた情報です。」


 資料には他にも『トポリス王国の王子や王女と親交を持つ』『ドワーフ八大族長の一人、グランバルト・ディアス氏の領内にてどわぁふ焼きを発案・販売し、新名物となる』『狼人族と虎人族との対立を緩和させ、友好を交わす』と書かれていた。


「え、彼はなんなの。外交官かなんかなの?」

「いえ、単なる一冒険者、のはずですが・・・」

「それにしてもひどすぎるだろこれ。なんなの。もう立派な重要人物じゃん。」

「はぁ・・・」


 秘書官も実際にヒイロと知り合いではないため、何も答えられない。


「・・・こいつさ。怪しくね?」

「確かにいくらなんでもこれは出来すぎというか、なんというか。」

「なんでこんなことが出来るんだ? そもそも、ウイヅキ姉弟はなんなんだ? どこで生まれてどこで育ったんだ?」

「いえ、何も情報はあがっておりません。」

「調べるべきではないのか?」


 その場にいる全員がガイゼルに注目する。

 彼は情報収集のプロであり、ギルドの情報機関のトップなのだ。

 彼が知らないはずがない。

 その彼にしては珍しく沈痛な面持ちで語り始めた。


「・・・実はな。そのヒイロ・ウイヅキはノエル様の直弟子だ。」

「そんな噂があるのは知っていたが・・・ムラサキ嬢のことではないのか?」

「ムラサキもそうだが、ヒイロもそうだ。むしろ、ノエル様が直接魔法の手ほどきをしている分、ムラサキよりもヒイロのほうが弟子に近いだろう。」

「しかし、水魔法使いだろう彼は。ノエル様が教えられることなどあまりないと思うが。」

「・・・いや、正確には弟子ではない。」


 先ほど直弟子と発言した人物が突然言葉を翻したことに役員たちは眉を顰めた。


「どういうことだガイゼル殿。はっきり言ってもらわなければわからん。」

「そうだ。ギルド全体に関わるかもしれんのだぞ!」

「・・・・・・ウイヅキ姉弟はノエル様の弟子ではなく、孫だ。」

「・・・・・・はぁ?」


 誰もが疑問符でいっぱいだ。

 当然だろう。ノエルには子供はおろか伴侶もいない。孫などできるはずもない。


「なんというか・・・初孫が出来た祖母と言うか、子猫を飼い始めた婚期を逃した女性冒険者というか。そんな感じなのだ。猫っかわいがりだ。」

「・・・ガイゼル殿は誰の話をされているのだ?」

「ノエル・エルメリア様に決まっている。」

「ノエル様が、あのノエル様だぞ? そんな甘優しいわけがあるまい。」


 ここにいる役員のほとんどがノエルに一度、もしくは数度殺されかけた経験がある。

 大体が『誰に向かってどんな口を聞いている小僧!』という感じなのだが。

 ギルド役員昇格とノエルの怒りの洗礼は切っても切れない縁なのだ。


「そして、そのノエル様から伝言を預かっている。」

「何?」

「もしギルドがウイヅキ姉弟になにかしらのちょっかいをかけようとしたら伝えろと言われている。ちょうど今がその時だろう。心して聞けよ。」


 誰かの喉がゴクリとなる。

 そしてガイゼルが立ち上がり口を開いた。


「『ヒイロ・ウイヅキならびにムラサキ・ウイヅキは私の家族である。二人に手を出すと言うことは、即ち私に剣を向けることと同義である。知らなかった、部下が勝手にやったことだなどという言い訳は通じない。敵は殺す。例えそれが王族だろうが冒険者ギルドだろうが国そのものだろうが関係ない。恐怖と後悔と絶望の炎で身を焦がし、泣き叫びながら塵一つ残さず滅べ』。以上だ。」


 ガイゼルはふぅー、と息をつきながら椅子に座る。

 まるで肩の荷が下りたかのような清清しい顔だった。


「・・・まぁ生まれとか育ちとか、ね。冒険者には関係ないしね。」

「そうそう。ギルドの役に立ってくれればそれで十分よ。」

「冒険者の活躍は広義的に見ればギルドの手柄みたいなもんだしな。」

「ヒイロくん、だっけ? いいじゃない。水魔法使いは貴重だし。B級にしちゃおう。」


 それらの反応に各所から『異議なし!』という声が上がる。

 当然だ。

 ここにいる全員、ノエル・エルメリアはやると決めたらやるエルフだと知っているからだ。

 誰も地獄の業火で焼かれたいとは思わない。

 それにヒイロの冒険者本来の仕事は微妙でも、冒険者の管轄外の仕事は偉業とも言える働きだった。

 無能を推すのならばともかく、有能を推すのであれば文句はないし、無駄に命を賭ける必要はない。


「・・・さて、ではこれで役員会を終了とする。」


 その言葉により役員全員が冒険者ギルドの大本を作った初代ギルド長の肖像画に敬礼をする。

 そのまま会議場を出るかと思いきや、全員が椅子に座りなおす。

 そして。


「・・・ところで、そのヒイロくんはノエル様の弟子と言うことだが、具体的にはどういった関係なのだ?」

「・・・一つ屋根の下でノエル様と一緒に暮らしている。」

「「「「「!?」」」」」


ガイゼルの言葉にその場の全員が衝撃を受ける。


「いや、俺のノエル様と一緒に暮らしてるとかないわ。ヒイロだっけ? ちょっとそいつにS級クエスト受けさせるわ。」

「は? S級クエストには賛成だけど、お前のノエル様じゃないし。俺のだし。」

「ワシのノエル様を『俺の』発言とか何言ってるかわかってる? 戦争じゃよ? ワシは一向に構わんが?」


 B級昇格会議などとは比べ物にならない混沌の会議が、いま正に始まろうとしていた。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。


ギルド役員にはノエル様ファンクラブのメンバーがけっこういますので大荒れです。

ガイゼルさんはこうなるのがわかってたので、あえて初月姉弟の情報を制限してきました。

ちなみに、覚えている人はいないと思いますが、ガイゼルさんはあねおれ本編の七十五姉でチラッと名前が出た人です。


テンペストの意味は『暴風雨』や『大騒ぎ』なのでムラサキさんの二つ名にぴったりです。

名付けたの自分ですけど。


次回の更新はネタが出来次第というか、自分でもちょっとわからないです。申し訳ありません。

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