第十四姉嫁 ノエルのある日の過ごし方の巻
感想いっぱいもらえて嬉しい。ありがとうございます。
今回はヒロくんとムラサキさんがD級冒険者になってすぐくらいのお話です。
『外伝』以外は本編の時間軸とお考えください。
思いついた話を適当に書いてるせいでほんとに時間軸バラバラで読みにくいですね。すいません。
ノエル・エルメリアの朝は早い。
なぜなら三人分の朝食を作らなくてはいけないからだ。
老人のごとく規則正しく早起きをするヒイロがムラサキを起こしてリビングに来る前に料理を作らなければならないという難解なミッションなのだ。
それも、ほぼ毎日。
ノエルは何を思って早起きをして料理を作っているのか。めんどくさくはないのか。
その点をノエル氏に聞いてみた。
「この程度、苦労のうちに入らんよ。誰かと一緒に食事をするというものはいいものだ。それに、放っておくとヒイロが勝手に食事を作り始めるからな。ある意味戦争なんだ。」
食事を作ることが戦争・・・さすが大戦の英雄ノエル氏である。言うことが違う。
「では、精霊王様へお祈りを・・・」
ノエルとヒイロとムラサキの三人は目を閉じる。
精霊王へ祈りを捧げている、とみせかけてそんなことは無かった。
ノエルは今日の夕飯の事を、ヒイロは今日の予定のことを、ムラサキはお腹すいたな~ヒロにあーんでご飯食べさせてほしいな~でもエルエルがうるさいしな~と考えていた。
「よしじゃあ食べようか。いただきます。」
「「いただきます!」」
いただきますをして朝食を食べ始める三人。
異世界にはいただきますの習慣はないが、ヒイロとムラサキが食事前に必ずするためにノエルも覚えてしまったようだ。
今では一人で食事するときでもいただきますをしてしまうノエルだった。
「今日も美味しかったですノエルさん。いつもありがとうございます。」
「さすがエルエル、年の功ってやつね。」
「ふふ、気にするな。あと年の功言うな。」
気にするなとはいいつつも満面の笑顔のノエル。
ヒイロやムラサキのこの一言のために毎朝朝食を作っているといっても過言ではなかった。
そしてお茶を飲みながらヒイロから今日の予定を聞く。
この時、ノエルはウンウンと頷きながら普通に聞いているように見えるが、実は違う。
一言一句聞き逃さないように全神経を集中して聞いているのだ。
「ではいってきます。」「いってきまーす。」
「ああ、いってらっしゃい。気をつけるんだぞー。」
笑顔で手を振り、今日のクエストに出る二人を見送るノエル。
・・・すると数分後、ノエルは何やらローブを着込んで外出するようだ。
なぜかうさみみヘアバンドをつけているところを見ると、仮装大会でもあるのかもしれない。
そしてノエルは足早に外へと向かった。
「あ、ヒロ見て。ちょうちょが飛んでるわ。うふふ。」
「なんだろ、普通のセリフなのにさきねぇのセリフだと思うと恐怖を感じる。」
「おい。」
ヒイロとムラサキから離れること数十メートル。
そこにノエルはいた。
一体何をしているのだろうか。
「こんなクソみたいなアイテム誰が使うんだと思っていたが、まさかこの私が使うことになるとは。しかし実際に使ってみるとすごいな。それなりに距離が離れているのにちゃんと声が拾える。」
やだ、ストーカー!
ノエルは気配を遮断する超レア装備である絶影のローブと、遠くまで音が拾える超レア装備であるハイパーウサミミバンドEXを使って義弟妹のストーキングをしていた。
この二つの装備を所有するものは大陸でも数人しかいないが、もし所有者が増えれば通報→逮捕は確実であろう。
法律の整備が急がれる。
アルゼンにつくと遠回りをしつつ、急いでギルドへ向かう。
もちろん二人に先回りするためだ。
「ヒイロの予定は完璧だが、ムラサキの突発的行動はどうなるかわからないからな。先回りしてどのクエストを受けるかを確認しなければいけないのがめんどうだ。」
盗人猛々しいとはこのことである。
ギルドに入ると、ノエルは早速ギルド職員を説得してカウンターの奥に隠れる。
「こんにちわー。なんかいいクエストありますー?」
ヒイロの声が聞こえると、ノエルは全力で気配を殺す。
ムラサキは獣なみの気配察知能力をもつため、油断はできない。
「きょ、今日は森クエなんていいと思いますよ受けますか受けますよねさすが鈍器姉弟かっこいいそれぽぉーん!」
「ちょ、勝手に依頼票取り出して勝手に受諾印押さないでくださいよ!」
「なになに、『ホブゴブリン討伐クエスト』? つおいの?」
ムラサキが依頼票を覗き込む。
「D級魔物ではありますね。最近森で姿がチラホラ確認されてまして、ここはもうアルゼン一の冒険者と噂される鈍器姉弟にしか頼めないと思ってとっておいたんですよ!」
「なら仕方ないわね! 私たちがホブゴブをゴブッとやっつけてあげましょう!」
「ひゅー! さすがムラサキさん!」
上機嫌になったムラサキとヒイロが鼻歌交じりでギルドを出て行く。
すると隠れていたノエルもノソッとカウンター奥から姿を現す。
「あの、と、というわけでお二人は森にいかれました。」
「けっこう。ではな。」
颯爽とギルドを後にするノエル。
ギルドにいた冒険者たちから『過保護すぎねぇか?』『ほら、ノエル様ももう御年だから』『おばあちゃんなんてどこもあんなもんだよ』などと言われているとは露とも知らず。
「ヒロ、久しぶりにアレやってよアレ。」
「アレ?心当たりが多すぎて逆にわからないんだが・・・」
「何をさせようというんだ?」
森の中なのでウサミミバンドをつけて尾行するノエル。
ノエルの森と違い、魔物や野生の獣もいるためムラサキに気付かれる心配も少ない。
多少の心の余裕があるので、ノエルはついつい二人の会話に口を挟んでしまう。
つまり独り言だけど、年だから仕方ない。
「もぅ~もったいぶって~。アレよアレ!ヒロの十八番の『明智光秀の物まね』!」
「あ、明智光秀!?」
「アケチミツヒデ? 異世界の人間なんだろうが・・・どんな人物なんだ?」
ヒイロはかなり頭を悩ませているようだ。
まぁ会ったこともない人物だから当然ではあるが。
「どきどき、わくわく♪」
「・・・・て、敵は本能寺にありぃ~! つーか俺のほうが年上なんだから敬えやボケ!」
「あ、エルエルそれおいしそー! ちょっとちょうだい?」
「!?」
ノエルは『しまった、気付かれた!?』と思った。
しかし、様子がおかしい。
「お願い聞いて! 俺けっこう頑張ってたと思うの! つーかノエルさんこんな森の中にいねぇよ妖精か!」
「まぁお姉ちゃんの頑張ったで賞をあげましょう。ちゅー。」
「・・・ならよし。」
どうやら勘違いだったようだ。
しかし魔物の出る森の中でずいぶんいちゃつくものだ。
見ているこっちがちょっと恥ずかしい。
「・・・ふむ。」
しかし、ノエルは感心する。
ムラサキにではない。ヒイロにだ。
この二人の実力で言えば、この森ではキューティーベアー以外に負けることは絶対にない。
そして、そのキューティーベアーも数年に一度くらいしか目撃例のない例外中の例外といえるだろう。
にも関わらず、ヒイロは油断していない。
D級冒険者になりたての者は大抵油断から痛い目を見る。
それから力不足を恥じて一層努力するか、何も変わらないかでその冒険者の質というものがわかる。
であるが、ヒイロは普段どおりに見えて、その実警戒を一切怠っていないのだ。
この森で負けることはまずないにも関わらず、だ。
「・・・なんとも切ない話だ。」
ヒイロはわかってるのだ。
才能という面で、どうあがいてもムラサキに追いつけないということに。
そして、冒険者としてそれは致命的だということに。
その差を少しでも埋めるために、ムラサキに足りない部分を全て補おうとしているのだろう。
結果、慢心せずに常に努力する、いや、常に努力しないと生きていけない今のヒイロが出来上がったのだろう。
その努力が報われることを願わずにはいられないノエルだった。
「ホブゴブあんまりいないじゃないね。」
「まぁたまにはこんな日もあるさ。」
森を数時間ほど徘徊したヒイロとムラサキではあるが、倒したホブゴブリンは数匹であった。
元々この森のホブゴブリンは数が少ないのだ。
「なんか気分乗らないわねぇ・・・今日は帰る?」
「まぁ期限はまだまだあるしね。うち帰ってお昼ごはんでも食べますかね。」
「!?」
「そうね。エルエル何作ってるかしら。今日はハンバーグとか食べたいわねぇ。」
「ハンバーグ・・・材料あったか?」
ノエルはばれないように、かつ風のような速さで自宅へ帰るのだった。
「ただいま帰りましたー!」「ただーまー! お腹すいたー!」
「おお、お帰り二人とも。今日はハンバーグだぞ?」
「おお! さすがエルエル! 今日はハンバーグの気分だったのよ!」
「さきねぇ、森でもずっとハンバーグハンバーグ言ってて困ってましたけど、さすがノエルさんですね!」
「これぞまさに以心伝心というやつだな! はっはっは!」
全国の以心伝心に謝れ。
「さて、今日はどんなことがあったんだ?」
「今日はね~・・・」
そんな会話をしながら、ノエルの一日はこうして過ぎていくのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
一応言っときますが、別にノエルさんはいつも二人をストーキングしているわけではありません(笑)
少ないときは週に一回、多いときは週に三回くらいで平均すると週二回くらいです。
あとはギルドに顔を出したり、各国の使者と連絡を取り合ったり、アメリアさんとお茶を飲んだりしてます。
今月の更新はこれで終了です。
最初の更新でそれを書かなかったのは、今話を書き終わったのが9日の深夜だったからです(笑)間に合ってよかった。




