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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏本番、霊も万全、だってお盆だもん!(霊なんて、いらない!その3)

怖い話を目指したんですが、どこかコメディになっている。

ど、努力は認めていただきたいっ!

こんにちわ、藤原 晴花です。

この間、期末試験が終わりました。結果は聞かないでください。

楓太兄ちゃんにも、まだ結果は出てないと行ってありますから!


今日は、テスト明け、ということで友達と鎌倉に来ました。

夏休み前のプチ旅行としては、いいんじゃない? なんて言っていたんですが・・・。


「晴花さんや・・・」

「なんでしょお、典子さん・・・」

まだ昼前だというのに、観光地のカフェでぐったりとしている私たちって。

そう、朝っぱらから霊に出会い、必死で逃げてきたから。



「なんで、真昼間っから落ち武者に会わなきゃいけないのぉっ!!」

「典ちゃん、あの人『落ち』てない鎌倉武者だから。そんなこと言うとまた来ちゃうよぉ」


朝の爽やかな鎌倉を散策の最中、典ちゃんは、スニーカーの靴紐がほどけている事に気がついた。道の端により、せっせと靴紐を直していた その時、遠くからガシャ、ガシャと、重いものが擦れる音がした。

それは、だんだんと近くに寄ってきて、目の前に止まった。

目の前に見えるのは、普段にみる靴ではなかった。足袋?いや、草鞋っぽい?

ガシャリと、鳴ったこれは、まさか鎧か?


『そこの者よ、我に何用じゃ』


はぃ? いや、用はないです。てかワタクシ聞こえませんよ、知りませんよ~。

必死で知らない振りをしながら、靴紐を結ぼうとするが、緊張で手が動かない。

ヤバイ、どうやって逃げよう・・・と悩んでいたら、

「典ちゃん、そっとそのまま小さく3歩後ろへ!」

晴花の言葉に従って、ズリズリと後ろへ下がる。


「一気に逃げるよ、御免!」

頭を下げた後に、一気に後ろへ駆け出した。


「振り返らないで!そのまま、あの角を曲がるまで走りきって!」

「わ、わかったっ!!」

道の角にあるお地蔵さままで必死に走った。さらにお地蔵さまにお願い(丸投げとも言う)して、なんとか撒けたらしい。


休みに浮かれて忘れていたが、霊感の強い人間にとって、一番ツライ季節。

そう、お盆がやってきたのだ。

お盆月間ともなれば、霊人口は通常の数倍に跳ね上がる。

当分の間、史跡巡りなんてしたら、人より霊を見る率が高くても驚かないだろう。

いやだけどね。


「典ちゃんは、見ちゃったの? 武者さん」

「見たよぅ…足だけだけどね。晴花は、見えたの?」

がっくりしながら典ちゃんはアイスティーを飲む。 私はアイスココアにした。甘いもので癒されたいんだよ!

「私は、ちゃんと見えるわけじゃないからね、目の端で捉えるレベルだもん。

でも、お盆になっちゃったからねぇ。当分気をつけないと」

はぁ、とため息が出る。


繰り返すが、お盆シーズンには、霊が多い。

で、中途半端に見える私なんかだと、普通の人との見分けが付かないんだな、これが…。

おかげで、挨拶した人が霊で、見える側の人なんだとその後付き纏われたり

(霊ストーカーってアリ?)

街中で、ぶつかった!と思った人が霊で、にやりと笑われたり…

(悪かったわね、ボケてて)

とにかく、このシーズンは、行き場がないんだわ。


「ああ、八月の中日までは、おとなしく家で宿題でもやってようかなあ」

花の女子高校生の夏休みが、それでいいのか?

でも、下手に怨霊を拾ってきて、楓太兄ちゃんに怒られるよりは、いいかぁ。うん。


「晴花、この馬鹿娘!、だーから、お守り位もって行けって言っただろう~!」

「泰樹、来てくれたの! ありがとおっ!! あれ、柊ちゃんまで?」

レイバンのサングラスをかけ、上は黒のタンクトップ、下は迷彩柄のダブダブパンツに、編み上げブーツ。どこからどう見ても僧侶見習いには見えない従兄の泰樹が、ズカズカとカフェに入ってきた。

アナタ、どこの戦場に行く気ですか。

白のシャツに、綿のざっくりした白ジャケットにダメージジーンズ姿の柊一郎は、私たちの幼馴染。

サラサラの栗色の髪に、バサバサの睫に縁どられたアーモンド型の目。ある意味、女子の敵とも言うくらいに色白の彼は、無駄に顔がいいが愛想がない。

高校では「王子様認定」されているらしい。うん、無駄美形だね…、柊ちゃん。

生ぬるい視線で見ていたら、頭をこづかれた。 なぜ、考えている事がわかるのかっ!


「柊は、つきあわせた。車で来るのに一人だとつまんないだろ?」

「…男二人で、鎌倉まで来るほうが、珍しくないか?」

どうやら、泰樹も人ごみが嫌で車移動にしたらしい。よかった、帰りは車で送って貰おう!


朝っぱらから、霊とおっかけっこをしてしまった私は、暇な大学生の泰樹に泣きついたのだ。

「お札でも、お守りでもいいから、持ってきて! 」と。


我侭なのは自覚していますが、下手に我慢して悪霊や怨霊を持って帰ったりしたら、余計に始末が悪いじゃない? 

怖いのよ、ウチのお兄ちゃん「何でも拾ってくるんじゃないっ!」って。

はい? 何か違いますか。でも、ウチではこうなんです!


「でも、なんで武者になんか会うんだよ。位階が違うだろうが、お前たちとは」

と、アイスコーヒーをがぶ飲みしながら、泰樹が聞いてくる。

「よくわからないけど、典ちゃんの靴紐が解けたんで、道の端で結び直していただけだよ?」

武者なんかって、言われてもさぁ、会いたくて会ったワケでは決してナイのよ。


「・・・彼らの通り道に、礼をとって畏まっていれば、それは向こうも見つけるだろうよ」

普通の事のように柊ちゃんが言う。


礼をとって畏まる? 「地べたに土下座して、頭を下げてたって事」言っているのか!

つまり、武者さんは、こっちが用事があって、武者さんを待っていたと思っていたと?

「そんなぁー! 偶然なのにっ!!」

武者むこうにそんな事解るワケないだろう。せいぜいが自分の従者でも来たと思ったんじゃないか?」

ニヤニヤしながら、泰樹が言う。コイツ、今度楓太兄さんに、怒られていても絶対にかばってやらないっ!


「まあ、それなら大丈夫だろう。『条件付きの顕現』なら、条件から外れれば追っては来ないからね」

柊ちゃんが言うには、時間や、場所があった場合に、出会う霊があるんだって。これから外れると会う事はないそうだ。

我が幼馴染は、楓太兄ちゃんや、泰樹と一緒にいるうちに、怪しげな知識だけは身についてしまったと嘆いていた。でも、私はおかげで助かってますよ。

うん、覚えておこう。あそこでは、XXの方向に頭を下げて跪かないっ!


「あー、俺、鶴岡さんに行きたい! 今キティちゃんの夏バージョン出てるだろ?

猫ちゃんに、あげたいんだよねー!」

鶴岡八幡宮では、季節の「キテイちゃん健康守り」がある。今の季節は夏の浴衣姿キティちゃんのお守りが人気である。・・・が、このデカイ男が買うのは、心の底から似合わない!


「猫ちゃんって、お泰樹の友達だよね、なんで健康守り?」

「あー、なんかさぁ、この間寝込んだらしいんだよね、夏風邪かなぁ」

あさっての方向を見ながら、泰樹が答える。こういう時は、後ろめたい時だ。

「何しでかしたのよ、泰樹!」

「う、いや、キャンプとかで“夏に使える怖い話”が聞きたいって言うから、

ウチの“頭を持つときの注意事項”の話をしたんだ。その後、調子悪いって言うからさぁ」

もそもそと言い訳をする泰樹を、柊ちゃんが残念そうな目で見ている。


「・・・よりによって、何故その話なんだよ、泰樹」

「いやまぁ、ノリで?」

へらっと泰樹が笑う。この阿呆っ!!


「“頭を持つときの注意事項”の話って何ですか?」

と、不思議そうに聞く典ちゃん。ああ、ダメだってその話させちゃっ!

嬉々として泰樹は、説明を始めた。ううう、私まで友達を無くしたらどうするっ!


10分後、微妙な雰囲気の漂う店内の重い雰囲気に耐え切れず、お会計をして逃げるように店を出た。鶴岡八幡宮で、キティ守りは、被害にあったお友達と、典ちゃん、私の分を買わせた!当然、全部、泰樹持ちだっ!!


当たり前だよねぇっ!!




※※ 泰樹がしたお話 ※※ 


お盆と正月には、駅の乗務員たちは交代で遊びを兼ねて厄払いに出かける。

これは大体が、仲のいい同士だったり、まだ右も左もわからない新人を連れた先輩だったりするが、お参りが終わったら、そのまま飲み会に突入する。その時中堅以上の先輩が居たときに出るお約束ネタ話があるそうだ。


「なぜ、乗務室の隅に、新聞の束があるのか、わかるか?」

と、新人は聞かれる。

戸惑いながらも、車内が汚れた時に使うとか、と答える。

すると、先輩はニヤリと笑って、ある事件の話をするんだ。


カラン・・・カラン・・・カラン・・・

何かが車輪に挟まって音がする。あってはいけない音だ。

先頭車両は騒然となり、電車はもちろん緊急停止した。飛び込み自殺らしかった。


昔は、都心から少し離れれば線路は生垣を境にしているようなところも多く、かなり簡単に線路内に侵入できた。

つまり、自殺を考えた連中には、とても都合がよかったんだ。


だが、乗務員たちにとっては不幸だ。

一番最初に、その姿を見なくてはならない。その上、その体を集めなくてはならない。

轢死の場合、車体の下に死体が入ってしまえば、見つけるのに苦労はないが、跳ね飛ばされた時、彼らがそれを見つけ、除去し、安全確認をするまで電車は走る事ができない。

つまり、彼らは、死体を全パーツ集めなくてはならないのだ。自力で。


人を轢いてしまったショックから立ち直るまもなく、追われるように死体を改める。

残念ながら、今回は、体が飛ばされてしまったようだ。みんなで手分けをして探し始める。

そんな時、全員が小脇に抱えて走っていくのが乗務室の片隅に積まれている「新聞紙」。


「これにくるんで、持って帰って来い」、と言う事らしい。

「そんな、無理です!」と言う奴もいるが、

「じゃあ、素手で持ってくるか?」と聞かれば答えられない。

しぶしぶ先輩の指示に従って探し出す。


その日、彼は不幸だった。

初めての車掌乗務で、飛び込み自殺があり運転手は茫然自失。

後処理は、研修に同乗してくれた先輩と走り回らなくてはならなかった。先輩居てくれたおかげで、指示が仰げたし、駅との連絡もすぐについて後は、ご遺体さえ、ちゃんと確保できれば、と思いながら生い茂る草の中を探していた。


そして、彼は見つけた。亡くなった彼の頭部を。


「よりによって、何故、頭を見つけてしまったんだ!」と嘆いたがどうにもならない。

脇に抱えてきた新聞紙を広げ、包むことにした。


その時、彼は、なぜ新聞紙が「積まれる」程あるのか理解できていなかった。

先輩たちは、脇に2~3冊の新聞紙を抱えている。これは持ち上げた時に、感触が伝わらないように、ゴワゴワにしてたくさんの新聞紙を使って覆うからだ。

でないと、その感触だけで持ち上げる事を躊躇してしまうに違いない。


彼が持ってきた新聞紙は一冊。馬鹿正直に広げて使ったもので、掴もうとするとダイレクトにその感触が伝わってくる。

「う、うわぁぁぁ・・・」

人だったものの感触は、想像よりもずっと恐ろしかった。


その嫌悪感のせいで、彼は一番やってはいけない行動をとってしまった。

顔を背けながら、腰が引けた状態で、頭部を持ち上げようとしたのだ。

頭というのは、体の中では比較的小さいパーツであるが、実は重さはかなりのものだ。それを無理な体制で持ち上げようとすると・・・


「ぐきっ!」


と体中に不吉な音が走った。身動きができない。足も、手も動かすことができない!

彼は、ぎっくり腰になってしまったのだ。

脂汗ばかりが出る。その上、新聞紙がずれて、中にある頭部と目があった気がする。


「う・・・・あぁぁっぁ・・・た、たすけ、たすけ、て・・・」

か細い声しか出ない。ひたすら、助けてとしか言えなかった。

助けてと言っているのが、自分なのか、新聞紙の中の彼なのか、もうわからない。


何時間もそんなことをしていたように思うのに、実際には、数分後。心配した先輩が探しに来てくれたことで、その恐ろしい体験は終わった。


この話を聞いた新人は、必ず乗務の前には、新聞紙を抱えてくるそうだ。


終わり



これは昭和の頃から伝わる話で、幾つかのお話を繋げているが実話。

今は、乗務員が死体を集めるような事は、殆どないようですが、血まみれの車体を見なければならないのは、変わらないそうです。


『頭を持つ時は、どんなに怖くてちゃんと見て抱き上げるように持つこと。

 変な姿勢で無理に持ち上げようとすると、高確率で腰を悪くする』が、

教訓だそうです。・・・やな教訓だなぁ。

 

お盆には、乗務のみんなでお参りに行くそうです。

これは、今でも続く習慣だそうです。

事故はないに限ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ミリタリースキーの猫又には泰樹さんのような彼氏もウエルカム!!です!!!! [気になる点] 楓太お兄様が出てない……(T_T) [一言] ばらばら死体かぁ、怖いですね~。 腰がぐぎっとなる…
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