ヨーヨー堂
ここは新宮町にあるスーパー「ヨーヨー堂」地域の住人からは「ヨーヨー」と言われて馴染まれている。
店内は賑わいつつ、威勢の言い声が響いていた。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」
「今日は特別セールとして缶ジュース一本10円と
お安くなっておりますぜひご購入ください」
「ウインナーの試食販売をしておりますいかがでしょうか」
達実はここで食材と信長の生活品を購入するために足を運んでいた。
食材はあらかた入れたし後は歯磨き、髭剃り、整髪料・・・・・他にも思いつく物を篭にいれ様々なコーナーを巡って行く。
おっと、スナックも買わないとな昨日信長に「ブートポテト」を出したら喜んで食べてたんだよな、あのお菓子結構、味が濃くて僕は食べないんだけど、好きならしょうがないか、その他にも信長が好みそうなものを見繕って行こう。
そんな中、後ろから達実を呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、たっくん」
振り向くと千夏がそこにいた、千夏は僕の幼馴染で、一緒の高校に通っている、結構かわいいので男子からの評判も上々なのだが、僕が関与している時に限り、なぜか時々暴走をする事を除けばごく普通の一般人だ。
「あれ、千夏も買い物にきていたんだ」
買い物カートを押し千夏は笑顔でこちらにで近づいてきた。
「そうだよ、たっくんも買い物していたんだね、うわぁ結構買い込んでるけどこんなに食べるんだ」
たっくん、数日前に両親が海外出張しているから、一人暮らしの筈だよねそれでも結構食べるんだね、今度ご飯でも作って行ったら喜んでくれるかな。
「まぁ色々とね、そうだ千夏に話したい事があるんだけどいいかな」
信長のこと千夏に相談したら協力をして貰えそうだ、町を案内するにしても一人より二人で案内した方がいいし、千夏はよく家に来るから、事情を知らないで信長に会ったら大変だ。
「ごめんね、たっくん、実は母さんから家の手伝いを頼まれていて、急いで買い物を済ませて帰らないといけないの、夜に携帯に電話しようか?」
申し訳なさそうに千夏はこちらを見てくる、こっちはお願いする立場だから無理強いはできないし、それに携帯で話してもきちんと今の事情が、伝わるか分からない。
「いや予定があるんじゃ仕方ないよ、できれば携帯ではなく直接会って、二人きりで話したいんだけど」
千夏は少し驚いたような表情をしたが、少し考えて、
「じゃあ明日早めにたっくんの家に行くね、自宅の鍵は以前預かったのが、あるからそれを使うよ。」
自宅は信長がいるから問題があるかもと思い、千夏に別の場所が良いと言おうとしたが、間が悪いことに千夏の携帯が鳴る。
「あっ、お母さんからだ、たっくん明日早めに行くから話しはその時しよう、じゃあね」
そう言い千夏は携帯を見ながら足早に買い物カートを押して行く。
「うん、また明日」
達実はそう返すのが精一杯だった。
信長が一緒にいた方が納得する手間が省けると思うし、こんな話しを誰かに聞かれたくもない、自宅に来て貰う事が正解だろう。
そう考え直した達実は買い物の続きを始めた。
買い物を終えた達実は、買い物袋を両手に持ち、家路への道を歩いていたが、途中である事に気がついた。
父さんと、母さんにも、信長の事を説明しないといけないな、海外出張に行っているからとはいえ帰国する直前に言っても、多分怒るだろうし、家に帰って時間が空いた時に電話しよう。
しかし達実は、細かい事は考えない父親と、とっても甘い母親の性格を思い出し、気が重そうに、ため息を吐いた。
自宅に帰宅した達実は、靴箱の上に置かれていた、箱を見つけた。
何だこれ、包丁セットだよな、どうしてこんな物があるのだろう、 信長なら何か知っているかも知れない、聞いてみよう。
居間に戻ると信長がくつろいでいた。
「ただいま信長、靴箱に包丁セットが置かれたけど何かしらない?」
そういいつつ僕は台所に移動し買い物袋をテーブルに置いた。
「あれは、変な3人組の忘れ物だぞ」
その言葉を聞いた瞬間、家に帰る途中の光景を思い出した。
殺されるだの、極道の家だの、物騒な事を叫びながら僕の目の前を走り去っていった3人組である。
「まさかとは思うけど、その人達に何かしたの?」
慌てて、僕は居間に行き信長を問い詰めた。
「なんだよ、切れ味の悪い中古包丁を新品だと言うから証明して見せろ、できなければ切腹だ、そんな風に言ったらあいつら逃げ出して行ったんだ。」
当たって欲しくなかった、僕が見た3人組で間違いないだろう。
「だめだよ信長、そんな事を言ったら誰でも逃げ出すよ嘘をついた相手が悪いとは思うけど、今度からは切腹とかそういう物騒な言葉は使わないでよ」
信長は注意された事に嫌そうな顔もしつつも
「わかった、今度からはそんな言葉は使わない」といい約束をしてくれた。
まぁ俺も大人気なかったな、今度から気をつけるとするか。
それと腹が減ったぜ、今日の飯はなんだろうな昼はピラフとか言ったか中々旨かったし夕食が楽しみだ。
「なぁ飯にしようぜ俺は腹ペコだ」
うーん今日はカレーとサラダでも作ろうかな、信長も初めてみる料理だろうし喜ぶでしょ。
「調理を始めるから信長も手伝って、野菜の皮を剥いた上で、切って欲しいんだ。」
ニンジン、ジャガイモ、キャベツ、タマネギ、キュウリ等の様々な野菜を流し台に置いていき、まな板、皮むき器、包丁を用意した。
「任せろ、食わせて貰っているだけじゃ悪いからな俺も手伝うぜ」
並べた野菜と皮むき器を見比べた信長は、やる気満々の様子だ。
約1時間後にカレーとサラダは出来上がった、カレーからは香ばしい匂いが漂い、食欲をそそる。
「うまい、このカレーっていう料理はおいしいな飯がすすむぜ」
あっという間に一皿を平らげカレーのお代りをしていた、 驚きつつも、達実は食事を続けた。
うん、もっと時間をかけて作った方が美味しく出来上がるんだけど、これでも十分に美味しい、隠し味にコンソメの素や、鰹で取った出汁を入れて正解だったみたい。他の家庭ではリンゴとかチョコレートとか使うみたいだいだけど僕の家は少し変わっているんだよな。
「おい達実、なにをゆっくり食ってるんだ、早くしないと俺が全部食っちまうぞ」
三杯目に突入していた信長が僕を見ていた。
よく食べるなと思ったが、ついつい信長のペースに引き込まれていつもより多く食べてしまう。
少し騒がしいが、どこにでも見られる夕食の風景が、その場には映し出されていた。
達実は緊張の面持ちで電話の前に立っていた両親に信長の事と今までの経緯を説明するためだ。
教えられていた番号を押し電話のコール音が鳴り、電話口から声が聞こえた。
「Hello」
「もしもし、父さん達実だけど」
「何だ、達実かお前が電話をかけてくるなんて珍しいな、今回の出張はまだ数日しか経ってないぞ、一体どうした。」
「実は父さんに話したいことがあって」
達実は蔵の地下室で起こった事や信長の事を父親に話した。
「蔵の事は俺も知らん、母さんも知らないだろ、あそこは長い期間放って置かれていたからな、その信長と言う奴の事がよく分からないのだが、要するにお前は家に男を連れ込んで、一緒に住んでいると言う事でいいのか?」
言葉は当たっているはずなのになぜか素直に頷けない達実だったのだが。
「はっきりしないな、まぁともかくお前の行為でこんな事になったんだろ、男ならきちんと責任を取って面倒を見ろ、仕送りはいつもより多く送っておく、それから母さんには俺から言うから心配するな」
「うん、わかったまた何かあったら連絡するよ母さんには伝えておいてね、それじゃ、またね」
達実は釈然としないものを感じつつもとりあえず現状は伝えられたと思い電話を置いた。
一方達実との電話を終えた、達実の父、新庄 祐二は物思いにふけっていた。
やれやれ達実も変なことに巻き込まれているなさて、由紀子にはなんていったらいいかな達実には異常なほど甘いからな。
下手な事を言うと仕事を放り出して、帰国しそうだ。
そんな時、扉が開き達実の母 新庄 由紀子が書類を持って入ってきた。
「祐二さん、ここにいたんですか?書類を一緒に片付けて欲しいんですけど」
仕事の手伝いをお願いしてくる由紀子に対し達実から電話があった事を伝えた。
「達実ちゃんから電話があったのにどうして私に代わってくれないの声が聞きたかったのに」
いじける由紀子をなだめ大事に話があると言い由紀子の前に立つ
「冷静に聞けよ、まぁなんというか、そうだな、簡単に言えば、達実が家に男を連れ込んで、一緒に暮らしているらしい。」
その瞬間由紀子が持っていた書類がすべて床に落ちた
「えっ、祐二さん今なんて・・、男を連れ込んだ、達実ちゃんが?」
「いやまぁ、もちろん同意の上だぞ、達実もなぜこんな事になったかよく分かって無いみたいだが」
口を半開きにし、呆然としていた由紀子だったが、急に取り乱しはじめた。
「そんな達実ちゃんが、急にどうして、そうだきっと、私が出張に行って寂しくなったから、男を連れ込んだのよ、まってて達実ちゃん今すぐお母さんが戻るからね」
達実が聞けばそんな理由じゃないと、全力で否定をしたのだが、生憎この場にはおらず、遠く離れた日本にいるのだった。
やっぱりこうなったか、他の事は完璧にできるのに、達実に関しては異常に甘い、由紀子を見て、祐二は肩を落とす。
落とした書類を拾いつつも、なんとか由紀子を説き伏せようとする。
「そんな訳無いだろう、今まで何度か海外出張はあったが、達実はこんな事はしなかっただろう電話越しではあるが、変わった様子は無かったぞ馬鹿なことを言っていないで、仕事の続きだ書類を整理するぞ」
「きっと、遅い思春期が来たのよ、最近の中二病なのよ」
訳の分からない事を口走っており、これはでは埒が明かないと考え、由紀子を引きずりながら、仕事場に向かう祐二であった。
電話を終えた達実は今日もこの世界の事を聞きたいという、信長の要望に答え、色々な事を説明していた。
「パソコンと言うのは色々な事ができるんだな、まったく構造が理解できんが、凄いと言うのはわかるぞ」
僕は、パソコンを操作して、色々な写真を見せて、できるだけ分かり易くこの世界の事を説明していた。
明日は町を案内してする約束だからできるだけ問題が起きないように一般常識も伝えていた。
信長も写真を眺めこれは何だ、あれは何だ、と質問してくる暫らくやりとりが続いていき気がつけば眠気が襲う時間帯になっていた。
今日はこの辺にしようと信長に伝え寝る準備を始めた。
「忘れていたけど、信長の部屋も用意しないといけない広い家だけど部屋は余っているから、掃除を手伝って欲しいんだけど」
世話になる人間として当然な事だと考えた信長は問題ない様子で答える。
「もちろん手伝うぜ、何時始めるんだ」
「そうだね、明日にしようか?あっ、でも明日は町を案内する約束があるな」
信長は急に不満そうになり、ごねり始めた。
「明日は、やめようぜ、折角町を案内して貰うんだ、掃除は明後日にしよう」
今日は町に行くのを我慢して貰っているからな、明後日でもいいか。
「わかったよ、明後日部屋の掃除をしよう、それまでどの部屋がいいか決めておいてね」
そんな話をしながら二人は就寝した。
真宮町の一角、人通りも無く静かな場所で、可愛らしい声が響く。
「むぅ、紡ぎの間から変な気配がしたようじゃが、気のせいだっだかのう、まぁ良い今日はどんな相手がいるか楽しみじゃ」
黒い影は、新宮町の闇を駆けて行った。