光る石碑
変わらない新宮町の町並み、そんな町の一角にあたり前のように建っている、古い家があった。
その家の一室から寝息が聞こえる、夜遅くまで語り合い疲れ果てて寝ている2人の姿、達実と信長だった。
不意に信長が寝返りを打って、達実の手に信長の腕が触れたその時だった、二人の体が光りだした。
光は数秒の内に止み何事も無かったように元の静寂の空間に戻った、それはひとつの異変だったが、
二人は眠り続け異変に気づく事はなかった。
西園寺家の朝は本来は早い、しかし今日が日曜日である事と昨日夜遅くまで、会話をしていたので
二人が目が覚めたの頃にはお昼前になっていた。
「おはよう信長、もう昼前だよ」
達実は瞼をこすりながら信長を見ていた。信長もだるそうにしながらも体を起こし一つ欠伸を吐く、
「そうか、もうそんな時間なのか昨日は夜遅くまで達実と話したからなとりあえず
朝風呂でも浴びたいな、昨日は話しに夢中でそのまま寝てしまったからな」
朝風呂かそういえば僕も昨日お風呂に入っていないな、昨晩は信長と話しをする事で終わっちゃったからな。
「僕も後から入るよ、信長は先に入って使い方は昨日教えたからわかるよね?」
昨日お風呂の使い方を説明した時、信長は鉄の塊から水が出ていると驚いていたな、
その後お湯を出したら水が急にお湯になったと言って更に大騒ぎをしたんだよ
僕も使い方はわかるけど、細かく原理まで知っているわけじゃないから説明に苦労したよ。
鉄の塊の後ろでお湯を沸かしてくれる、からくり仕掛けが動いているといって、何とか追及をかわしたんだけどね。
「おう昨日説明して貰ったからな、大丈夫だ問題ないぞ」
信長は自信満々にこちらを見ていたが、達実は激しく不安だった、
「なんだ、その不安そうな目はそんなに心配なら達実も一緒に入ればいいだろう?」
信長は少し不満そうに言葉を返した、すると達実は慌てたように首を振った。
「信長の着替えを父さんの部屋から持ってくる分からなければ聞いてよ」
達実は足早に部屋から出て行った。
信長の身長では達実の服のサイズでは合わない為、父親の服を取りに行ったのだった。
その様子を見て信長は変な奴だなまさか男に興味があるのかと勘繰った。
いや昨日の話だと女の話で恥ずかしそうにしていたからな、まさかそんな事は無いだろうと、
信長は変な想像を打ち消し、昨日教えられた風呂場に足を向けた。
もちろん達実にそういう気持ちは無く、同姓とはいえ誰かと一緒にお風呂に入る事は恥ずかしいと言う感情である。
信長がお風呂に入っている間、達実は昨日信長が切ったTVの変わりに別のTVを持ってきて取り付け、食事の準備を始めた。
ただ残念な事に新しいTVを取り付けた事を、信長に説明し忘れていたのを少し後悔する事になる。
信長は特に問題なくお風呂に入り、30分ぐらいで出て来た着替えも大丈夫だったようで、父さんの服を着て居間に座り込んだ。
それからこの時代の風呂の素晴らしさを語りだした、体まで浸かれる風呂はすばらしいだの、俺の時代は毎日は入れなかったと言い上機嫌だ。
信長の話が終わる頃には食事の準備が一通り終わっていた。
「おお、昨日とはまた違う料理だな楽しみだぞ」
信長も興味心身の様子で料理を見ていた。
あまり時間が無かったので、レトルトのピラフを出しただけだったのだが。
スプーンの説明をしてさっそく食事をしようとした時だった、テーブルあったTVのリモコンが落ちた
するとTVの電源ボタンが入り魔物と戦う映像が映し出された。
その時間放送していたのが今巷で話題の「マジカル美女vsサタン」通称と言うアニメだった、
ストーリーは一風変わったファンタジー設定なのだが、女魔法使いとサタンとのおかしなやりとりや
戦闘シーンの描写で人気を博していた。
「化け物が出たぞ、おのれ斬ってやる」
信長が立ち上がり刀を手に持った、きちんと説明した筈なのに、2回もTVを壊されては叶わないので、信長に危険は無い事を説明しようとした。
「だから言ったでしょこれはTVだから、現実じゃないの昨日みたいにTVを真っ二つにしないでよ」
どうしてこんな事になったのだろう、TVの前で刀を抜く青年を見てため息を吐く。
「何だこれもTVという物なのか昨日と大きさも色も違っているので分からなかったぞ、
しかも今まで見た事のない圧倒される絵だったからなつい取り乱してしまった」
信長は刀を納め意外そうにこちらを見てそういった。
確かに昨日のは黒の32インチTVで、今日は白の42インチTVだけどその発想は無かったよ。
基本ギャグアニメって聞いてたけど、評判通り戦闘シーンも凄かったし仕方が無いか。
「ともかく信長は何があっても刀を抜くのをやめてよ、この時代は戦争もしていないし安全だよそんな物は必要ないから」
これが電化製品であれば、まだ弁償もできるけど不良等に喧嘩を売られた時に両断されては
即逮捕だ、達実の頭の中には「仕合を申し込まれたから斬った」と言う信長の回答がリアルに響いていた。
「わかった、達実の話しを聞いてると日本は戦争もなく平和のようだから
これからは刀は抜かん、もし抜く時は達実の許可を取るそれでいいだろう」
そう言って腰を下ろし、スプーンを持ちピラフを食べ始めた。
時折うまい、と言う言葉が聞こえてくるその様子を見て達美も安心して食事を始めた。
俺はこの世界ではやはり異端のようだな、複雑な気分だ天下泰平が
少なくとも日本では実現できている、俺の時代では人と人が殺しあってる
うまい食べ物や便利な道具があるこの時代の日本人がなんともうらやましい。
信長は食べながらこの時代に来れた事に改めて喜びを感じていた。
昨日の夜に達実と話した時、この日本は数十年戦争は無く平和であり、
戦国時代とは違うという事を聞かされた。
この時代が平和と言う事に信長はとても驚いていた、その際信長に関わる歴史を話すか達実は迷ったが、信長はそれを察して「俺に関わる事は言うな」と止めた。
その答えに対し不思議そうにする達実に対し信長は拳を突き出し笑いながらこう言った、
「まだ元の世界に戻れないと決まったわけではないだろ、その時俺が未来を分かっていてはつまらん、
俺の未来は俺自身の力で切り開く、誰にも渡さないぜそれがたとえお前であってもだ達実」
その答えを聞いた達実は言葉が出なかった、自分が同じ状況なら同じ言葉は言えない筈だ、
戻れるかも分からないこの世界に来ても自分を曲げない、真っ直ぐな道を進む一人の男を見た思いだった。
昼食が終わり二人は居間でくつろいでいた、すると達実が信長が呼び出された地下を調べたいと言って蔵に向かおうとした。
その様子を見て信長も俺も一緒に行くぞといい、達実は懐中電灯を用意して二人は蔵に向かった。
「相変わらず薄暗いな、懐中電灯を持って来てよかったよ」
そう言って照らしながら地下室に入っていく達実を見て信長は興味深そうにその道具を見ていた。
昨日の光を放つ機械にも驚いたが持ち運びできるのもあるのか昨日の夜にも町には明かりが満ちていてた、この技術が俺の時代にあれば戦闘に有利だろうな。
いやそれよりも俺の城下町に取り入れれば夜でも明かりが点り治安の改善や町の活性化に大いに役立つな。
そんな事を考えていたが目の前の達実が声を挙げる。
「あれおかしいな昨日の薄っすら光っている紋様なものが消えてる」
どうしてだろう昨日は光っていたのに確か信長を連れ出した時にも光ってたはず、
どこかにスイッチでもあるのかと更に辺りを見回した、すると部屋の奥に石碑のような物が立っており大きさは1m位だった。
近づいてみるが何もおきず、上から見下ろすと昨日見た紋様が描かれていた。
あの時は石造りの床が光っていて、全体像が掴めなかった今ならよく分かる、見た事ない紋様だ昔本で見た陰陽師の五芒星の形は似ている、しかし五芒星は点と点で線をつないでいるけどこの紋様は違う、よく分からない絵柄が5つつ彫られておりそれが線をつないでいる。中心には螺旋のような物が彫られていて、最後に全体を円で囲っている形だ。
家が旧家である事と先祖が占いを生業としていた事もあり、一般人よりはこういった物を見慣れている達実だったが、これがどういう意味を表すのかは答えが出せないでいた。
「なんだこれ、見た事のない紋様だな戦国の武将でもこんな紋を使っている奴はいないぞ」
特に警戒する様子も無く信長は石碑に手を置いてポンポンと叩く。
達実も警戒しつつ触れてはみるが特に反応を示さなかった。
石碑以外に何も無く空っぽの地下室であった為、仕掛けが無いのかと二人は部屋中を色々探してみたが無駄骨であった。
「おい達実これ以上は無駄じゃないのか、諦めてそろそろ出ようぜ」
信長は少し疲れ気味で達実に声をかけた。
う~ん確かにこれ以上無駄かもしれない、何かヒントでもあればいいんだけど、まてよ僕はここにどうやって入ったあの不思議な声が聞こえて、いやその前に指をこすって血が出たんだよそうしたら扉が開いた。
もしかして血を石碑に垂らしたら、何かが起こるかもしれない、痛いの嫌だけど試す価値はあるか。
「信長ここで少し待ってて、カッター持ってくるから」
そう言って達実は駆け出していった。
カッターって何だ、置いていかれた信長は虚を付かれた様な表情をしていたが、考えがあるんだろうと納得し待つことにした。
数分後達実が戻ってきた、お待たせと言い石碑の前で薄い鉄の刃を指に当てる。
「おい何をする気なんだ、カッターと言うのはその鉄の刃の事か見たところ切れ物だろ自分を斬るつもりなのか?」
よく分からないと言う感じで信長は僕に視線を向けてくる。
「昨日話をしたでしょ扉を開く前に、血が垂れて不思議な声がしたんだ、この石碑にも血を垂らしたら何か起こるかもしれないって思ったんだ」
「なるほどな、確かにその可能性はあるなだったら俺に言ってくれればいいだろ、この刀だったらそんな物を使わなくても血がだせるぜ」
信長は自慢するかの如く手に持っていた刀を突き出し僕に笑いかけてきた。
冗談じゃないよTVを一刀両断にする業物の刀に指を当てるなんて、少し力加減を間違えただけで指が切断されるよ。
「信長の刀が凄い事はよく分かっているから、切れすぎるから怖いんだよ」
大丈夫俺の腕を信じろと言う信長を、腕も凄いのは分かってると適当にあやしながら、カッターに指を当てて切った、痛みと共に指から血がこぼれる。
石碑に一滴血が垂れたその瞬間、石碑が光りだした。
達実と信長はその光景を呆然と見守っていた。