第六天魔王降臨
「化け物が出たぞ、おのれ斬ってやる」
「だから言ったでしょこれはTVだから、現実じゃないの昨日みたいにTVを真っ二つにしないでよ」
どうしてこんな事になったのだろう、
TVの前で刀を抜く青年を見てため息を吐く。
僕の名前は 新庄 達実 家が旧家である事と、無駄に広い家と蔵があるのを除けばごく普通の高校生だ。
先祖は占いを生業とした一族であるとの事だったが、そんな事は今の僕には関係なく平凡な庶民生活を謳歌している。
いや正確に言えば、昨日までは平凡な生活だったというのが正しい、 そうあれは自宅の蔵の片づけをしていた時だ。
「ふう散らかっているな家の蔵は」
達実の両親は達実に蔵の掃除を任せて、海外出張に行っていた。
「おっと、なんだこれ」
足を取られてつまづいた、床を見ると扉の取ってのような物がそこにはあった。
「これ扉だよね家の小屋に地下室なんて物があったの?」
そんなこと聞いた事もないがとりあえず調べてみるか、扉はさび付いており、とても古い物だと感じた。
錆び付いた取ってに、手をかけて引っ張ってみたが、開く気配が無い。
「どうやって開けるのかな?」
気合を入れて再度力強く引っ張ってみたが開かず、しかも力を入れすぎたため思わず、ひっくり返ってしまった。
手を見るとひっくり返った時の摩擦で指からうっすらと血が出ていた。
「痛いな、う~ん開けるのは諦めようかな」
指を擦りながらそう呟いていたが、不意に指から流れた血の一滴が扉に落ちたその時だった、扉から眩い光が溢れ声が聞こえた。
「系譜に連なる者の血を認識いたしました、契約に従い封印を解除します」
扉は自動的に開きその先には階段が見える、今までまったく開かなかったのが嘘のようだ。
「封印?一体何の事だろ」
色々と疑問がつきないけど、とりあえず入ってみるかと気を取り直して階段を下りてみた、中は薄暗く周りが良く見えない状態だけど、部屋の中心がぼんやりと光っている。
「なんで、この部分だけ光っているんだ」
光っている部分はまるで何かを描いているように見えた、よく見ようと中心に向かって歩き出し、光っている部分に足が触れた瞬間だった。
「転移陣起動します、座標・空間軸未設定、転移失敗しましたこれにより召還陣起動、対象者との接続確認・・・・召還します」
余りの驚きで言葉が出なかった、そう目の前には刀を差しいかにも時代劇に出てきそうなチンピラ風な青年が立っていた。
目の前の男は不思議そうに辺りを見回して僕に聞いてきた。
「うん、何だお前ここは何処だ」
正直何がなんだかわからないがとりあえず答えを返した。
「えっとここは家の蔵ですけど、自分は新庄 達実といいます」
目の前の男は不思議そうに首をひねった。
「新庄 達実?変わった名だな、俺の名前は織田 信長、屋敷に帰る途中だったのだがいつの間にかここに立っていた、それでここはお前の蔵という事だが城下町のどの辺りだ?」
目の前の人は何を言っているんだろう、織田 信長というのはあの戦国武将で有名な人物だったはず、今から400年以上昔の人だ、そんな事ありえない。
でも目の前にいる人は確かに織田 信長と名乗ったけど、
いやきっと何かの間違いだ。
「あの、お名前は織田 信長と名乗られましたけど何かの間違いですか、それとその衣装何かのコスプレとかですよね。」
「なんだと、俺は正真正銘 織田 信長だ、無礼な奴だなまぁ俺は心が広いから許してやる、町民の分際でそのような事を言うとは中々肝が据わっているな、それとコスプレとは何だ?衣装といったがコスプレという服があるのか?」
期待を裏切るような言葉が返ってきて思わず天を仰いだ、もちろん空は無くただの天井だけが達美の目には映ったが。
この織田 信長を名乗る人を見る限りとても嘘を言っているようには見えない、仮に嘘を言っていたら後できちんと怒ればいいだけだ、それに今までの出来事が自分でも良くわかっていない、ここは時間をかけてゆっくりと状況を整理するべきだ。
とりあえず自称織田 信長さんときちんと話し合い、今後のことを考えよう。
「自分も良くわかっていませんがここであった事をできる限り説明しますここではくつろげませんのでとりあえず居間でお話をしませんか?」
目の前にいる達実という男から事情を説明するといってきたがそうだな俺も急にこんな所に立っているに事に疑問だし、それにこの男の服装にも興味がある、今まで見たことの無い服だ、なにやら面白い予感がしてきた。
信長はこちらの様子を少し怖そうに伺っている達美を目にしてそんな事を考えていた。
「詳しい話を聞かせろ、それとお前の服にも興味がある一体どこで手に入れたか教えろよ」
服に興味があるのか、確かに戦国時代には無い服だからな。
わかりました、まずは蔵から出ましょう僕の後についてきてください」
僕は蔵から出るため階段に向かって歩き出した、信長さんも後に続く蔵から出たところで信長さんが大きな声で驚きの声を上げた。
「なんだここはあの長い棒は何だ、それに遠くに見えるあの大きな建物は城か?
俺の城下町にこんな大きな建造物は無かったぞ、しかも見た事の無い形だ」
信長さんは驚きながら僕にまくし立ててきた
「あの長い棒は電柱ですよ、大きな建物は住井ビルですね」
電柱とは何だ、ビルとは何だ、とまくし立ててくるのをあやしながら居間へと信長さんを案内していた。
達美は気づいていなかった信長を何とか居間へ案内するのに夢中で、2人を見つめる者の姿があった事を。
「やれやれ、久々に目が覚めてみたらなんとも奇妙な事になっておるようじゃ、しばらくは様子を見ようぞ、それまでは外の世界を楽しとするかのう」
可愛らしい少女の声だが、物言いは少女とは思えない言葉を発し、声の主は気配を消した。
「つまりこの世界が400年後の世界で、俺は戦国武将として過去の人物だと言うのか、お前本気で言っているのか?」
1時間をかけてこちらが言っている内容を理解してはもらったが、納得はしてもらえないそりゃそうだ、自分でもこんな事を言われたら頭がおかしいと思われる。
同時にやっぱりこの人は織田 信長なんだと納得してしまっていた、信長さんの話を聞くと授業や、本で読んだ内容とほぼ一致しているし、嘘ならこんな長い時間問答が続く訳が無い。
「急に言われて信じられないとは思うんですが、他に言いようがないのです」
何度も信長に説明をするが、やはり納得する様子が無い、達実はここが戦国時代で無いと証明する事ができないかと考えをめぐらせていた。
信長も達実が一体何を言っているのか理解できずにいた。
ここはあなたが住んでいる世界から400年後の世界ですといわれてそうだったのかと納得すると思っているのか、尾張の事を聞いても曖昧な返事しか返ってこないぞどうなっているんだ。
「そうだ、信長さんこれを見てください」
達実が思い立ったように板のような物に手を伸ばしたその瞬間、目の前の黒い置物が光を放ち目の前に化け物が現れた。
このままだとやられる、信長は瞬時にそう判断した。
「おのれ化け物、覚悟しろ」
腰に挿した刀を抜き一刀両断するため身を乗り出し飛び上がった。
「ちょ、ちょっと、待ってよ」
その様子を見て達美も声を出したが時遅く32インチのTVは、一刀両断されてしまった、素晴らしい切れ味である。
そんな酷いよ、あのTV高かったのにポカレンジャーの怪物が、TVに映っただけで切りかかるなんて、無茶苦茶すぎるよ。
「落ち着いてください信長さん、あれはTVといって危険な物じゃないんです」
「なに、しかし化け物がいたぞ」
信長さんは疑うような視線でこちらを見る。
「TVは遠くの物を映す機械で信長さんの時代には無かった物です化け物も人が衣装をかぶって演じていただけです」
達実が必死になって危険は無いと訴えてきているのを見て、嘘を言っている者の態度ではないと信長は納得した、今までも多くの人物を見てきたのだ、信用を置ける人間かどうかは話せば大体わかる。
もっとも達美の方はこれ以上家の物を一刀両断されては
堪らないという事情があったのだが。
長かった、携帯写真を見てもらい、冷蔵庫を開け、水道や、トイレを見てもらい
戦国時代には無いと思われる物の説明をした、気がつけば日が暮れていた。
「なるほど、これだけの物を見せ付けられては納得するしかないな」
信長さんはようやくそういって頷いてくれた。
「はっはっは 考えようによってはこれは愉快だ、400年後の世界は
これほど進んでいるのか、それを俺はつぶさに見る事ができる俺は運がいいぞ」
達美はあっけに取られたようにこっちを見ていたが、俺は笑わずには入られなかった。なぜ俺がこの世界に呼ばれたのか達美が言う召還陣や、不思議な声の事はいまいちわからなかったが、
そんな事はどうでもいいそんな気分だったのだ、今はこの世界を見てみたいと強く思った。
信長さんが笑い終わった後、腹が減ったといい、僕は夕食の準備を始めた適当な食材で野菜炒めを作り一緒に食べた。
その時の信長さんはこれは変わった食べ物だと興味深く食べていた。野菜炒めでこの反応なら、カレーやインスタントラーメン等を出したら、どんな反応を示すのか少し興味がわいた。
そんな事を考えていたのだが、急に信長さんがこちらを向いた。
「達実お前はなんかよそよそしいな、俺はこれからこの家に世話になるんだから別に敬語を使わなくてもいいぞ、それから今日から俺はお前と友達だよろしく頼むぜ」
そんな事いわれても失礼な事をしたら打ち首とかしないよね、そんな視線を向けると、
「おい、おまえ良くない事を考えているだろ、変な事を入ったら打ち首されるとか」
「何でわかったの」と思わず声に出てしまった。
「そんな事するか、俺のことを何だと思っている慈悲深い信長様だぞ」
慈悲深い・・・なんか想像していた信長のイメージと違う、
比叡山焼き討ちや一揆の皆殺し、後は第六天魔王とかさ。
達実の中では慈悲深いとは程遠いイメージである。
「うんわかりました、いやわかったよこれからは敬語抜きで喋るからね」
言葉を返すと信長は上機嫌になった。
「よしいいぞ、俺は達実の事が気に入っているんだ何なら義兄弟の契りでも交わすか」
義兄弟!!信長と、正直実感がまったく湧かない。
「いや待って、友達になったばかりなんだから、まずはゆっくり相手のことを知っていこうよ」
なんか恋人に言うようなセリフだなと思いつつ、信長に義兄弟の事を思いとどませる。
「そうだな、まぁこれから仲良くやろうぜ。」
信長はそう答えつつ達実に不思議な親近感を感じていたなんか初めて会った気がしないんだよな、あぁ雰囲気が似てるな。
同じ年代で俺の家臣の中でもひ弱だけど、いつも俺の後ろを付いてくるあいつにだ。
名前は・・・思い出せねぇぞ、忘れてしまったのか。
「どうしたの急に喋らなくなったけど」
不意に達実の声が聞こえ、心配そうにこちらを見ていた。
「いやなんでもないちょっと考え事をしていただけだ、それより今日は夜遅くまで付き合ってもらうぜ、この世界の事色々聞かせてくれよ」
「わかった、だけど信長の世界の事も色々教えてよね」
これを機会に色々な事を聞いて仲良くなろう、でも考えてみればすごいなあの織田 信長と夜更かしなんて。
「そうだな先に俺から話そうか、しかし俺の時代の事なんて達実も良く知ってるんじゃないのか?」
そう言って信長はつまらなそうに聞いてくる。
「うーんそうかもしれないけど一人だけ喋ってるのは結構つかれるんだよ」
「そうか、だったら男だけの話でもするか」
そういって信長が笑いながらこちらを見る、なんか嫌な予感がした。
「お前付き合っている女はいるのか」
達実が顔を赤めたのを見て、その様子だと居ないなと信長は判断した。
まぁ予想通りだな、今までの達実の反応を見ていると、とても自分からアプローチをするような奴には見えないからな。
「その様子だと居ないのか、おいおい男なら一人や二人女と付き合っているのは、当たり前だぞ情けない奴だな」
「そういう信長はどうなんだよ、付き合っている人はいるの」
思わず反論してしまったがその言葉を待っていたように信長は笑いながら達実に言葉を返した。
「俺はすでに結婚しているぞ、お濃というんだけど結構美人だぜ、お前も早くいい人見つけろ毎日が天国になるぞ」
戦国と今じゃ時代が違うんだよ、高校生でも付き合っている人はたくさん居るけど結婚まで入っている人は少ないよ、しかも信長は領主なんだから政略結婚とかでしょ、それにしても天国って。
達実は思わず想像をしてしまったが、その途端「たっくん不潔だよ」と幼馴染の声が頭の中で響いた。
「うわごめん 千夏」
思わず声に出してしまい、とても恥ずかしかった。
その様子を見て信長はなんだ女がいるのかと、詳しく聞いてきたがただの幼馴染だよと言うと、何で幼馴染に謝るんだと呆れた顔をされた。
「はいこの話はおしまい今の時代の事を、信長にわかりやすく教えるからきちんと聞いていてよ」
僕は話を蒸し返されないように早口で喋りだした、その様子を見て信長も慌ててもっとゆっくり喋れと注文を付けた、会話の途中で二人は達実の部屋に移動し夜遅くまで話は盛り上がった。
話し疲れて眠りに付く頃、辺りの動物達が騒ぐ声が聞こえたが、
二人は気にすることなく眠りに付いた。