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君と歩む世界  作者: 沙由梨
Chapter5
44/44

涙と決断、別れ

部屋を飛び出した。その後の事が思い出せない。


次に目を覚ました時はどこかの病室で寝ていたのだ。


皆に心配されているにも関わらず、私はどうしても透が気になって仕方がなかった。


『透はどこ?』


そう問うと、皆気まずそうにしながらも、最後は逢歌が小さな声でこう答えた。


『実乃里を庇って事故にあった』


それを聞いた瞬間に、ある光景が私の脳裏をよぎった。


私を引っ張って安全な所に避難させ、そのまま原理に逆らえずにトラックの前に飛び出た透。


華奢な体は宙を浮き、そして赤い液体と共に地面に打ち付けられる。


それを呆然と見ていた私に、透は――――




『無事で、よかった』




――――笑いながら、そう言ったんだ。




全てを思い出した私は、涙を流して嗚咽まじりに叫び散らした。


『透はどこ!? ねえ、透は!?』


暴れまわる私を押さえつけながら、真愛さんが消えてしまいそうな声で言った。


『それが、かなりの重傷で……まだ、目を覚ましてないの……。それに体だって……』


それを聞いて、私は真愛さんの胸ぐらを掴んでさらに問い詰めた。


嫌な予感がしたのだ。目を覚まさない、たったそれだけじゃないような気がして。


当たってほしくなかった。でも、当たってしまったんだ。




『それが、かなりの重傷で……どんな手術しても、外国に行かない限り、ずっと車椅子になるって……』




私のせいだ。そう、思った。


確かに私を庇ったのは透の意思だ。でも、元を辿れば私が透の言うことを聞いて、止まっていればよかったのだ。


そうすれば、透は事故に遭わなかった。それにもしかしたら、話し合いで解決してたかもしれなかったのに。


もう何もかもが混乱してしまった私は、ただその場で泣きじゃくることしかできなかった。


でも、だからこそ、思ったんだ。


私は、透のような人の側にいちゃいけない人なんだ。


だから私は――――




「※※※※しようか」




――――そう、伝えるから。



 *


「…………透」


私は1人、透が寝ている病室にいた。


今の透には包帯がたくさん巻かれていて、こっちがそんな思いをしているかと思ってしまうくらい、痛々しかった。


私はお見舞いとして持ってきた花束を花瓶に飾り、椅子に座って透を見た。


「……ごめんね、透」


私は出てきそうな涙を必死に堪え、ベッドの上に肘を立てた。


(それじゃあ、始めようかな)


私はそう思い、透を見ながら口を開いた。


「ねえ透、覚えてるかな? 私達が出会った時のこと。あの時は意地を張っちゃったけど、透の言った通り迷子になってたんだ」


よく考えると、透はあの時から既に勘が鋭かったのかもしれない。

それもそうか。昔に、あんな教えをされていたなら。


私はそう思ってクスリと笑うと、再び語り始めた。


「今だから言えることだけど……屋上で見せてくれた透の笑顔、すっごく眩しくて……とても綺麗だったよ。もう女の子なんじゃって思っちゃうくらい。それに――――」


私は時々笑いを含みながら、透との出来事を次々と語った。


頬だとしても、最初にキスをしたのは私からだったこと。だけどその後、すごく恥ずかしくなっちゃったこと。


デートをしたことがばれて透が誤解を解くために私のクラスへ来たけど、その時に逢歌に抱きつかれたこと。


小雪ちゃんと不動院君の痴話喧嘩に巻き込まれた時、無意識に子犬のような目で私達に助けを求めてきたこと。


トリプルデートの時に教えてくれた過去のせいで、透が数日間不登校になってしまったこと。


透のお父さんの『犯罪者』という言葉のせいで、透が幼児退行して8歳になってしまったこと。


成り行きで参加することになってしまった告白大会のおかげで透が元に戻り、付き合うことになったこと。


「――――本当に、色々とあったよね」


そう呟いたのと同時に、私の頬に涙が流れた。


私はその涙をなるべく溢さないようにしながら、鞄から1枚の手紙を取り出した。


(本当に、これで最後なんだ……)


その手紙を皺がつかないように強く握り、そっと花瓶の横に置いた。




「※よ※※、透――……ううん、小鳥遊君(・・・・)




そう言って、私は静かに病室を出た。そして無言で廊下を駆ける。


「っう……うあっ、ふっ……」


私は抑えきれない嗚咽を洩らしながら、いつ止まるかわからない涙を流し続けた――――。


 *


 ピーッ……


俺は手を伸ばし、近くにあったナースコールを押した。


「…………ごめんな、黙ってて……」


『怖い』なんて言って、抱え込むべきではなかった。


抱え込んだだけで壊れてしまうとわかっていたなら、こんなことせずに皆に話したのに。


(でも、もう……遅いんだ……)


壊れた絆は戻ることなどない。たとえ戻せたとしても、昔のようにうまくいかないだろう。


俺は花瓶に入っているアスターの花を見た後、横に置いてある手紙を一瞥し、静かに涙を流した。




「※よ※ら、だな。神崎(・・)




アスターの花言葉は――――



 *


「透、もう行くのか?」


「ああ、そのつもりだ。行くなら早い方がいいしな」


「……神崎は、いいのか?」


「……ああ……」







「実乃里、行かなくてええの?」


「聞いた話だと、もうそろそろ飛行機が来ていてもおかしくない時間だけど……」


「うん、大丈夫。もう決めたことだから」






「「さよなら」」






アスターの花言葉は――――さようなら




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