PAST STORY
今回は過去編です!
この1話で纏めてしまったので、簡潔になっているかもしれません。
※残酷な描写があります。苦手な方は見ないことをオススメします。
場所は移動して大広間。そこには燐と小雪、そして真帆と悠を除く全員がいた。
何故4人はこの場にいないのか。それは先程、真愛が言った言葉と関係している。
『たとえ死んだとしても聞く覚悟がある人しか聞かない方がいいですよ?』
それを聞いた燐と小雪は、いざと言う時のためにあえて聞かずに精神を安定させておくという理由で断り、過去を多少は知っている真帆と悠は「2回も聞きたくないから」と言って断った。
そのような経緯があり、今は4人を除いた全員が大広間に集まっている。
「さて……それでは、始めましょうか」
「よろしく、お願いします」
「ふふっ、よろしくお願いします」
真愛はそう言ってフワリと微笑むと、目を閉じてゆっくりと語り始めた。
――――始まりは、透と煉馬が生まれた時まで遡る――――
*
「生まれましたよ! 双子の男の子です!」
「やった……! 瑠璃、よく頑張ったな……!」
「あ、なた……やっと、生まれ、たの……?」
「ああっ! 双子の男の子だそうだ!」
――――場所は病院。そしてこの瞬間、2つの命が地上に姿を見せた。
その2つの命を秘めていた女性――小鳥遊瑠璃とその夫――小鳥遊遠矢は、子供ができたことにとても喜んでいた。
するとそこに、遠矢の母親――小鳥遊世羅が現れた。
「んむ? どうやら生まれたようじゃのう」
「あ、母上!」
「お母様……! 双子の男の子が、生まれましたの……!」
「…………ほう……? 双子、じゃったか……」
「はいっ!」
そう言って笑いあう2人は、気づくことができなかった。
世羅が微笑む表情で隠している冷めた目を、双子の傍らに向けていたことに。
世羅は『双子』という言葉に、思いきり反応していたことに。
「今すぐに捨ててくるのじゃ」
世羅が退院できた瑠璃に発した一言は、とても簡潔だった。
それを聞いた時は、世羅が何を言っているのか理解できなかった。いや、したくなかった。
「お母様……? 何を、言って……」
「じゃから、今すぐに捨ててこいと言ったのじゃ。あ、勿論片方だけじゃぞ」
「は、母上!? どうしてですか!?」
呆然としている瑠璃の代わりに、遠矢が世羅に問いかけた。
それを聞いた世羅は振り返って顔をしかめ、何を言っているのかわからないという目で2人を見た。
「小鳥遊家にほしいのは、継ぐことができる男1人だけじゃ。それ以外はたとえ男でもいらぬ。じゃから、えーと……弟の方は捨ててくるのじゃ」
「「――っ!」」
2人は絶望した。双子の弟という理由だけで、双子の弟――煉馬を捨てなければならないということに。
本当は逆らいたかった。だけど、もし逆らったら兄――透の命が危険に晒されるのは目に見えていた。
「っ、うぅ……っ、ごめんなさい、煉馬……っ!」
「…………本当に、すまない……!」
煉馬を助けられない、そう悟った2人は膝から崩れ落ち、瑠璃は子供のように泣き続け、遠矢は頭を抱え込んで謝罪の言葉を口にした。
そして、2人はせめてもの救いとして教会の前に置き去りにした。『煉馬という名前です』という手紙を煉馬に持たせた状態で。
それから6年経ち、透は小鳥遊家の次期当主として、色々な知識を詰め込まれていた。
世羅はそんな透に厳しく、だけどたまに優しく接した。どうやら透に気に入ってもらおうと努力しているらしい。
それを見ている2人はどんどん怒りを募らせ、よく物を破壊するようになっていた。
そんなある日のこと、瑠璃は世羅に話しかけられた。
「……どうかしましたか?」
「うむ。ちょっと聞きたいことがあってのう」
世羅はそう言ってケタケタ笑うと、衝撃的な一言を口にした。
「どうすれば、透をワシの婿にできるかのう?」
――――ふざけるな。
気がついたら、瑠璃は近くにあったカッターで世羅のことを刺していた。そしてそのまま勢い任せに引き抜く。
「なっ……ごぼっ……! あああああああああああっ!!」
世羅は突然の痛みによって叫び狂い、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「あ、ああ……」
「ぐア……だ、ズげ……いだイ……ヴアア……!」
「いやあああああああっ!!」
瑠璃は恐怖心に駆られ、そのまま部屋に駆け込み、そして閉じ籠った。
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……! どうすれば、どうすればいいの……!? このままじゃ私は捕まって、2人の、未来が……!)
そこまで考えて、瑠璃は涙を流しながら最悪の未来を想像してしまった。自分のせいで、遠矢と透の未来が台無しになる、そんな未来を。
それだけは避けたかった。自分はどうなってもいいから、2人の未来は明るくあってほしかった。
すると瑠璃は、ある1つの作戦を思いついた。
最低で最悪で、だけど助けられる、唯一の方法を。
それは、すぐにバレてもおかしくない――最大限の偽装工作だった。
「ただいま……って、え? る、瑠璃!? どうしたんだ!?」
「お母様が、お母様が……! いやあああああああっ!」
「お、落ち着け! 母上がどうしたんだ!?」
遠矢は泣き叫ぶ瑠璃を抱き締め、ゆっくりとリビングへと向かっていった。
リビングに近づくにつれ、何かの臭いがどんどん強くなる。遠矢には、嫌な予感しかしなかった。
そしてリビングへと入った瞬間――全身が、震え上がった。
リビングには、仰向けで倒れた状態の世羅。腹部あたりからは大量の血が流れ、水溜まりのように床に溜まっている。
「は、は、うえ……母上ぇぇぇぇぇっ!!」
「わ、私のせいよ……! 私がでかけずにお母様と一緒にいれば、こんなことには……!」
瑠璃の泣き声。遠矢はそれが聞こえていたが、今は慰める余裕なんてなかった。
今後どうればいいのか、それすらもわからないほど、遠矢の頭は混乱していた。
しばらくして落ち着きを取り戻した遠矢は、深呼吸をしてから警察に連絡をした。
それを確認した瑠璃は部屋に戻り、遠矢は1人でリビングにいた。
(一体誰が、母上を……! どうして、どうして……!)
そう思っていると、世羅の近くにカッターが落ちているのに気づいた。それを指紋が付かないように、ハンカチでくるんでから手に取る。
「っ、これは……!」
遠矢は驚愕の声を漏らし、慌てて近くにあった筆箱をひっくり返す。しかしそこには、いつも使っているカッターが入っていなかった。
そして、遠矢は気づいた。あれは全て、瑠璃の偽装工作だったことに。犯人は――……瑠璃だったことに。
その瞬間、遠矢は一気に全身から力が抜け、膝からその場に崩れ落ちた。
「あ、あ……俺は、どうすれば……」
遠矢は世羅を殺した犯人を許せなかった。復讐してやりたいとも思った。
だけど、それ以上に遠矢は瑠璃のことが大切だった。瑠璃から離れたら自分は死ぬと、そんなことまで思ってしまうほどに。
覚悟を決めた遠矢は、手当たり次第に物を叩き落としたり壊したり、キッチンに行って食器を割ったりした。
最後にカッターを手に取り――自分の腕を切った。
そしてカッターを床に放り投げ、切ったところを手に当てる。そして包帯を取り出して腕に巻きつけた。
(これでよし……。あとは瑠璃に警察が来ても大人しくしているように伝え、俺が全て対応するだけだな)
しばらくして、警察が家にやって来た。そして遠矢が全て対応し、警察は犯人探しに向かった。
警察が去った後、遠矢は壁に寄りかかり、ため息をついた。
「ふー……やっといなくなったか……。でも、これでいい……引っ越しをすれば、事は全て上手く運ぶ……。偽装工作だって完璧だったから、疑われることもない……。これで、俺達の、未来は……あは、あはは、あははははははははっ!」
遠矢の不気味な笑い声が、家全体に響き渡った。
こうして、偽装工作に偽装工作を重ねて警察を騙しきった遠矢と瑠璃は、透を連れて遠い町へと引っ越した。
また新たな事件が巻き起こる、最低で最悪な悪童のいる町へ。
「あなたが小鳥遊遠矢様……ですね?」
「そうだが……お前は誰だ? 用件があるなら、さっさと言ってくれると助かるんだが」
「まあまあ、そう警戒しないでくださいな。とりあえず、これを見てください」
ある日の夜、残業で遅くなってしまった遠矢は、急いで我が家へと向かっていた。
すると誰もいない通り道で、黒いローブを被った男が遠矢に話しかけた。
早く帰りたい気持ちが募っていた遠矢は素っ気なく返したが、それを気にしていない男は1枚の写真を取り出した。
「何だこれ、は………っ!?」
「ふふっ……どうやら、早く帰るというのはできなさそうですね?」
「おい……これは一体どういうことだ?」
男が取り出した写真、そこには手足を拘束され、口をガムテープで貼られた瑠璃と透の姿があった。
それを見た瞬間に遠矢は男を睨み付け、うなり声のような低い声を出した。
男はそれさえも愉快そうに眺め、遠矢を手招きした。
「真実かどうか知りたいなら、私と一緒に来てはくれませんか? あ、勿論リンチとかはしませんよ」
「…………どうだかな」
「おや? どうやら、信用してもらえてませんね? 大丈夫ですよ――」
――――全て真実ですから。
そう言って微笑む男を見て、遠矢は「誰が信じられるか」と吐き捨てた。
結果からして、男の言ったことは全て真実だった。
男に連れられて向かった場所は、廃墟となった工場で使われていたボロい倉庫。
倉庫の軋む扉をゆっくり開いた先には、先程の写真と同じ体勢で眠っている瑠璃と透の姿があった。
呆然と固まる遠矢に、男は囁くように言った。
『助けたいなら、週に1回、子供を最低で10人は連れてきてください』
普通なら了承しない言葉。だけど今の遠矢には、それ以外の行動が浮かばなかった。
遠矢は男の言う通り、週に1回あの倉庫に子供を最低10人は連れてきていた。
これまた偽装工作が大変だったが、2人を助けられるなら構わないと思いながら、5週間それを続けていた。
しかしそんなある日、遠矢がそんなことをしていると聞きつけた学生時代の友人――宮野一翔と宮野真愛が、遠矢を説得しに家を訪れたのだ。
「いい加減にしてください! そして、こんなことはもう止めてください!」
「うるさい離せ黙れ! 2人を助けるためには仕方ないことなんだよ!」
「だからってやっていいことと悪いことがあるだろーが! 2人が解放されたとしても、最低な夫と父親になるんだぞ!?」
「もうなってるからいいんだよっ!」
そう叫んで遠矢はその場に踞った。そしてゆっくりと話し始める。
「だって、もうどうすればいいのかわかんないんだよ……。俺1人じゃ言うことを聞くしかできないんだよ……」
「「…………」」
その言葉を聞いた2人は顔を見合わせて確認するように頷くと、一斉に遠矢の頬を引っ張った。
「いひゃ!?」
「まったくよー、なんつーバカなことを考えてんだよお前はさー」
「そうですよ。だって、あなたは1人じゃないでしょう?」
「ふへ?」
遠矢が子供のように目を丸くして首を傾げると、2人は無邪気に笑いながら言った。
「「仲間なら、ここにいるよ!」」
その笑顔は、学生時代の笑顔と重なって見え、遠矢は思わず涙を流してしまった。
それを見た2人は困ったような笑いに変え、遠矢を優しく抱きしめた。
「よーしよーし、寂しかったよなー」
「大丈夫だよ。ずっとずっと、私達がいるから」
「っ、う……うあぁ……!」
2人に抱きしめられながら、遠矢はしばらくの間涙を流していたのだった。
2人の協力のおかげで瑠璃と透を取り戻せた。
しかし翌日に行った遊園地で、遠矢と瑠璃はこの世からいなくなってしまうのだった。




