比嘉崎恍の短い逆襲
これにてChapter4は終了です!
…………べっ、別に、ネタが尽きたんじゃないからね!? そろそろ本編に入ろうと思っただけだからね!?
とある部屋に、1人の男がいた。
「できた……ついにできたぞ! これであいつらをぎゃふんと言わせてやる!」
その部屋の机には丸薬が2つと、透と燐が写っている写真が置いてあった。
*
『生徒会長、比嘉崎恍の命令だ! 小鳥遊透と不動院燐は、今すぐ生徒会室に来い!』
その言葉を最後に、ブツリと校内放送は切れた。
「……俺と透?」
「あり? 俺じゃねーんだな。助かったー!」
「つーか、今授業中……」
その放送を聞いた透はため息をつきながら呆れ、煉馬は心から安堵し、燐は小さく首を傾げた。
本当はこのまま無視したかったが、そんなことをしたら後々何をされるかわからない。
そして、先生は会長の命令には逆らえない仕組みとなっているので、たとえ授業中でも行かせなければならないのだ。
「小鳥遊君、不動院君……気をつけてね? きちんと警戒しておくのよ?」
「……はい」
「くれぐれも何かされないように気をつけます」
しかし、問題児であることには変わりがないのだった。
「こら、神崎と清海と霞! どこに行くつもりだ!」
「透のところです!」
「燐のところに決まっていますわ!」
「右に同じくー♪」
「今は授業中だぞ!?」
「「そんなのどうでもいい!」」
「どうでもえーやん」
「お前らちょっと今すぐそこに並べ!」
*
「小鳥遊と不動院、来ました」
「おっ、やっと来たな! 入っていいぞー!」
恍の言葉を聞いて、透と燐はため息をついた。
それはもちろん今の状況からもあるのだが、一番の原因は『恍のテンションが高い』ということだった。
恍のテンションが高い時は必ず何か嫌なことをされる、それはちょっとの付き合いの燐でもわかっていた。
しかしここで立ち尽くしていても仕方ないと思った2人は、互いを横目で見ながら扉を開けた。
「失礼しま――うわぁあああっ!?」
「……っ!?」
そして扉を開けた2人を待ちうけていたのは、体長2メートルくらいの巨大ロボットだった。
そのロボットは入ってきた透と燐の制服の襟を掴んで持ち上げ、宙に浮かせたのだ。
「おいおいおい……! こんなのどうやって持ってきたんだよ……!」
「……きちんと警戒はしていたが、さすがにこれが来るとは予想していなかった」
「ふっふっふ……どうだ、驚いたか!」
「そりゃ驚くわ!」
そしてそんな2人を待っていたのは、こうなった元凶である恍だった。
「惚れちゃダメだぞ☆」
「いや、別に惚れませんから。というか誰に言ってんですか」
「……ノーコメントで」
後ろを振り返って変なことを言い出した恍に透は突っ込み、燐は顔を背けながら小さく呟いた。その顔は無表情だが、どこかげんなりとしている。
そして恍は再び透と燐を見て「てってってーてってっててー♪」と歌いながらポケットをあさり、2つの丸薬を取り出した。
それを見た透は、沸き上がってくる嫌な予感を必死に隠しながら、恐る恐る恍に聞いた。
「あの、その丸薬って……一体何ですか?」
「よくぞ聞いてくれた、小鳥遊透よ! これはその名も『ぷち化ナール』だ!」
「……『ぷち化ナール』?」
「そうだ! どんな薬かは……飲んで確かめろ!」
「へっ? ちょっ、まっ――!」
「……っ!? やめっ――!」
授業を終えた煉馬、そして説教を終えた実乃里と逢歌と小雪は、生徒会室へ向かって走っていた。
「そんで? 結局それっきり戻ってこうへんのやな?」
「そーなんだよ!」
「うぅ……透……!」
「いくら生徒会長でも、燐に何かしたら許しませんわ……!」
そう言い合いながら生徒会室の扉を開けると、そこには上履きが2足放ってあった。
「これって、まさか……透と燐のか?」
「う、そ……」
「いやぁあああああっ! 燐っ、燐っ! どこなのっ!?」
煉馬は目を見開いてそう呟き、実乃里はそのままその場に座り込み、小雪は何度もそう叫んだ。
するとさっきまで無言でいた逢歌が上履きのある異変に気づき、首を傾げながら近づいた。
「逢歌、どーしたんだ?」
「いや……今なんか、上履きのこの辺がボコって……」
そう言いながら上履きを逆さにすると、上履きの中に入っていた何かが顔を出した。
そこには花吹雪学園の制服を着ている、掌に収まるくらい小さい生き物が2匹いた。
「ん? なんやこれ?」
「あれ、この子……透に似てる……」
「と〜?」
「こっちの子は燐に似てるわ……」
「……りー?」
2匹は同じ方向に首を傾げると、透に似ているのは実乃里の肩に、燐に似ているのは小雪の頭に乗った。
そしてその直後、どこからか『バヒュンッ』と『ドンッ』という効果音が聞こえてきた。
「「きゃあああああっ! 可愛いいいいいいいいっ!」」
「そうだろう、そうだろう! そうだろうとも!」
「「会長は黙っててください! 本当に可愛いいいいいいいいっ!」」
「「いやいやいや」」
さっきの『バヒュンッ』は実乃里と小雪が2匹の可愛さに心を奪われる音、『ドンッ』は恍がまたどこからか現れた音だった。
そして勢いよく愛で始めて恍を無視した2人に、傍観を決め込んでいた煉馬と逢歌は思わず突っ込んでしまった。
「そんで会長さん、あの生き物は何なん?」
「小鳥遊透と不動院燐だが?」
「そーか透と燐かー……って、はぁあああああああっ!?」
恍の言葉を聞いて思わず納得しかけた煉馬だが、その後恍の言葉を理解した瞬間に叫んだ。
また、それを横で聞いていた逢歌は目を見開き、実乃里と小雪は愛でている状態で硬直してしまう。
そんな4人を全くもって気にしていない恍は、ポケットから丸薬を取り出して自慢気に語り始めた。
「これは『ぷち化ナール』といって、飲んだ者を掌サイズにしてしまうのだー! どうだ、すごいだろう! ただ1つ、残念な点が――」
「「「「な……」」」」
「――ん?」
「「何してるんですかぁああああああっ!?」」
「「なにそれすごい面白そう!」」
(2名違うことを言っていたが)やはりそう叫び、実乃里と小雪は慌てて2匹――透と燐を見た。
よく見ると確かに元の姿の透と燐と瓜二つで、あの丸薬の効果は本当なのだと思い知らされた。
そしてさらに慌てた実乃里と小雪は、透を煉馬、逢歌に燐を渡してから恍に詰め寄った。
「「どうすれば元に戻るんですか!?」」
「だからさっき『残念な点がある』と言っただろう? それが時間についてなんだ」
「もしかして、時間制なんですか!?」
「じゃあ、この効果はどれくらいなの!?」
「えーっと、確か――
――……30分だったかな」
「「…………へ?」」
実乃里と小雪が間抜けな声を出すと、後ろからボフンッという音が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、そこには元に戻った透と燐がいた。
それを見た瞬間、恍に詰め寄っていた実乃里と小雪はそれぞれ抱きつく。
「透っ!」
「燐、よかった……! 元に戻った……!」
「……小雪?」
「お、おい実乃里? どうしたんだ?」
「へ? どうしたって……」
「もしかして、覚えとらんの?」
実乃里達の言葉を聞いて、透と燐は首を傾げた。
するとそれを見計らったかのように恍は咳払いをして、腕を組みながら説明をした。
「実はだな、この薬には副作用があってだな……。それが、『薬を飲んだ時の記憶がない』なんだ」
「なるほど、副作用なぁ……」
「道理で透はともかく、燐が惚けるわけだ」
「おいちょっと待て煉馬、それ一体どういう意味だ?」
「……煉馬、安らかに眠れ」
「え、ちょっ、まっ、ひどっ!? てか透痛い痛い痛い痛い痛いっ!」
「安らかに眠れ、といえば……」
「覚悟はできてますよね? 会長♪」
「ん? 何が――ちょっ、待て待て待て! その関節はそっちに曲がらないんだが!?」
「「「問答無用!」」」
「「ぎゃあああああああああっ!!」」
――――この日、生徒会室から2つの叫び声が聞こえてきましたとさ。
ちゃんちゃん♪
そういえば、燐に『小雪』って名前で呼ばせたの、今回が初めてかも……。




