透と実乃里の波乱な1日
お久しぶりです! 遅くなってすみません……!
※今回はボーイズラブ&ガールズラブ要素を含みます。苦手な方はご注意ください。
「お前が……好きなんだ! 俺と付き合ってくれ!」
「すっ……好きです! 付き合ってくださいっ!」
「「………………へ?」」
彼――小鳥遊透と彼女――神崎実乃里は朝から告白されていた。
そして、その光景を見ていた人達が一斉にざわめく。
透と実乃里はモテるのでよく告白されている。だから本当なら騒ぐようなことではないのだ。
――――透に告白しているのが煉馬、実乃里に告白しているのが逢歌でなければ。
*
「透ー! お約束のハグー!」
「ちょっ、まっ、別にお約束じゃな――ぐえっ」
「……煉馬、そのままじゃ透が死ぬぞ」
透達の教室では、誰もが『どうしてこうなった!?』と思うくらいすごいことになっていた。
授業が終われば煉馬は必ず透に抱きつき、そのせいで首が絞まって呼吸ができなくなり、それを見た燐が止めるという行動の繰り返しだった。
それなら抱きつかないように言えばいいだろうと思うが、それは煉馬の言葉によってできずにいた。
「げほっ、ごほっ、かは……っ! 煉馬、いい加減に抱きつくのを止めろ!」
「えー……? じゃあキスしてくれたら止める! もちろん、口にな♪」
「あ、やっぱり抱きついてもいい。いくらでも抱きついていいから、頼むからそれだけは勘弁してくれ……!」
「よっしゃー!」
そう言って煉馬が再び透に抱きついて燐がため息をついた直後、教室の扉が勢いよく開いた。
するとそこには逢歌に抱きつかれている実乃里と、透達を見て疲れた顔をしている小雪がいた。
「ちょっと霧谷君! 抱きつくなら、透じゃなくて逢歌にしてよ!」
「酷いなぁ、実乃里は。ウチやったら、実乃里のことを小鳥遊君よりも幸せにできるで? 色々なことで……なぁ?」
「ひゃああああああああああっ!? おっ、お願いだから胸は触らないで……ひゃんっ!」
「…………この2人を任せられるかと思って来てみたけど、どうやらそれは無理そうね……」
そんな実乃里達の会話を聞いていたクラスの人達は『こいつらもか……!』と思いながら小さく舌打ちをしていた。
そんなクラスメートの心情など理解していない透達は、必死にどうしてこうなったのかを考えていた。
「ああもう……! どうしてこうなっちゃったのかなぁ……!」
「やっぱり、何か原因があると思うけれど……。燐はどう思う?」
「……すまないが、俺には全く見当がつかない。周りにこんなことをするような人物がいるなら別だが……」
「こんなことをするような人物……? あれ、もしかして……ああああああああっ!」
そう叫んで透は勢いよく立ち上がり、力を抜いていた煉馬はその衝動で床に倒れこんでしまった。
そして、それを見ていた実乃里が透に問いかける。
「と、透? どうしたの?」
「いるだろうが! こんなことをしてもおかしくない人物が、1人だけ!」
そこまで言って透は早足で扉まで行き、開きながらその人物の名前を言った。
「生徒会長、比嘉崎恍が!」
*
「どうだ、面白いだろう!」
「全然面白くなんてないわぁあああああああああっ!」
「何してるんですかぁあああああああああっ!?」
生徒会室に、透と実乃里の怒声が響き渡った。
あの後、透と実乃里は恍のことを問い詰めたのだ。
すると案の定、恍はとても愉快そうに笑いながら先ほどの言葉を言った。
そんな恍を見て透と実乃里はさらに怒鳴ろうとしたが、それはある2人によって阻止されてしまった。
「おいおい透ー……もしかして、俺よりもこいつの方が好きなのかよ……?」
「何でそうなる!?」
「実乃里もやで? そんなチャラ男なんか放っておいて、いい事しようや〜♪」
「それだと何だか大切なものがなくなっちゃうような気がするの! だから止めてぇえええええええっ!」
「おい先輩! 早くなんとかしてくれーっ!」
透がそう叫ぶと、恍は笑いながら言った。
「いやー実はな、それは時間で効果が切れる薬なんだよなー」
「…………つまり、それまで待てと?」
「そういうことだ!」
「ふざけんなぁあああああああっ!」
本日2度目の透の怒声が生徒会室に響き渡った。
しかしいくら叫んでも時間になるまで効果が切れないので、透達は教室へと戻った。
*
そして、時はなったばかりの放課後。
「そんでもって、お次はこれかよ……!」
「これだねー……」
透は怒りと呆れによって体を震わせ、実乃里は遠い目をしながらため息をついた。
そんな透と実乃里の視線の先では、煉馬が燐と、逢歌が小雪と対峙している。
「マジでふざけんなよな! そうやって媚びて透と結ばれようったってそうはいかねーかんな! 俺がいくらでも邪魔してやる!」
「……別にそんなつもりはない。友達に優しくしたりするのは普通のことだろう?」
「あんたもやで! ウチと実乃里の恋の邪魔をする気なら、小雪でも許さへんからな!」
「恋の邪魔って……実乃里には小鳥遊君がいるでしょうに……。むしろ邪魔しているのはあなたじゃない……」
「「ああもう、うるさいなぁ! こうなったら……!」」
「「へ?」」
煉馬と逢歌はそう叫ぶと、野次馬がいるにも関わらず透と実乃里に飛びついた。
突然のことで全く反応できなかった透と実乃里は、そのまま押し倒される体勢で床に倒れる。
そしてその瞬間、透と実乃里は『あ、これって貞操やばい』と悟った。
そんな透と実乃里の気持ちを理解したのか煉馬と逢歌はニヤリと口元を緩めた。
「こんなところではごめんやったけど、仕方あらへんなぁ……。な、霧谷君?」
「そーだな、透のをあまり見せたくはねーけど……仕方ねーよなぁ……」
「「ちょっ、ちょっと待った!?」」
「「やーだ♪」」
そう言いながら煉馬が透のズボンのベルトに、逢歌が実乃里のブレザーのボタンに手を近づけた――その瞬間だった。
「……時間切れ」
「残念だったわね」
「「…………え?」」
透と実乃里がそう言った瞬間、煉馬と逢歌は糸が切れた人形のように熟睡し始めた。
そんな煉馬と実乃里を見て、燐と小雪が説明をした。
「……実はさっき、皆が出た後に会長に聞いたんだ。薬を飲ました時間と、効果が切れるまでの時間を」
「2人に薬を飲ました時間は昨日の5時、効果が切れるまでの時間は約1日。そして今は5時……ここまで言えばわかるわよね?」
「あ……!」
「そうか、今がちょうど薬の効果が切れる時間……!」
そう言った後、透と実乃里は深いため息をついた。
そして小さく「もうこんなことないでほしい……」と呟いた。
こうして、波乱な1日は終わりを告げたのだった。
この後、恍が透と実乃里の鉄拳をくらったのは……言うまでもないだろう。




