芽生えた気持ち、絶望
「あーっ、面白かったなぁ♪」
「だな! 何度見ても飽きねー気がするぜ♪」
「せやな!」
映画が終わり、映画館から出てきた煉馬と逢歌はそれぞれの感想を述べていた。
雑誌に載っていたあらすじなどがあまり人をひきつけないものだったのか人はあまりいなかったが、そのおかげでいい席で見ることができたのだ。
さらにはあらすじとは違って内容がとても面白く、煉馬も逢歌も時間を忘れるほど夢中になって見ていた。
「さーて、次はどうする? このまま帰るのもなんかあれやろ?」
「そうだなー……。あ、そういや清海ってシューティングゲーム得意だったよな? それで勝負しようぜ!」
「おっ、いいなぁ! それじゃあ早速行こか! 先に着いた方が勝ちなー!」
「ちょっ、ズリィ! 待ちやがれ!」
次にどこへ行くか決めた2人は、先に目的場所に着くために走り出した。
*
「ばーんっ!」
「うわっ、また負けた! 清海、強すぎだろ!」
「だって得意やもん、これ♪」
目的場所に着いた2人は、あれしようこれしようと言いながらシューティングゲームの前まで来た。
しかしさっきから何回もやっているものの、逢歌が強すぎて煉馬は1回も勝てていないのだ。
もう勝てないだろうと思った煉馬は手を上げて降参のポーズをした。
「いっや、もう無理マジで無理ほんと無理。クレーンゲームとかでもしよーぜ?」
「んー……確かにクレーンゲームもやりたいなぁ……。よっし、じゃあそうしよか!」
逢歌は考えてからそう言うと、煉馬の手を引いてクレーンゲームのある方へと歩き始めた。
そしてそのことに思わず赤面してしまった煉馬は、得意の演技で誤魔化しつつも心の中では叫びまくっていた。
(わああああああああ落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!! 清海にそんなつもりはないんだクレーンゲームを早くしたいから引っ張ってるだけなんだ!! だから静まれ俺の心臓ーーーーーーーーーー!!)
「ほらっ、着いたから何かしよー………え? どしたん?」
「えっ!? い、いや、なんでもねーよ!? 気にすんな!」
「ふーん…?」
煉馬の挙動不審さに疑問を抱きつつも、クレーンゲームのところまで来たのでさらに煉馬を引っ張った。
「なぁなぁ、これどうや? 可愛くない?」
「おっ、おおっ、確かに可愛いなっ! でもアームが緩そうだな……。とれるか……?」
「それはー……微妙やな……。あっ、あれならとれるんとちゃう? 景品も可愛いし!」
「おっ、確かにあれならいけるかもな……よしっ、最初はあれやるか!」
「せやなっ♪」
そんなこんなで2人は1時間ほどクレーンゲームで時間をつぶし、逢歌が最初から用事があったというお店に行くことにした。
*
「失礼しまーす。秋ちゃんいますかー?」
「いるけどその呼び方止めろっ! 俺はもう25だ!」
2人は逢歌が用事があったというお店……アクセサリーショップに来た。
逢歌がお店に入った途端に誰かの名前を呼ぶと、奥から文句を言いながら誰かが出てきた。
その人を見た瞬間、煉馬はすごいと、ただそれだけを思った。
その人は背も高くて顔もイケメンであり、下手したら透よりもモテるのではないかと思ったからだ。
その人は煉馬を見て「誰?」と言って首を傾げ、煉馬は慌ててお辞儀をした。
「秋ちゃんさんはじめまして! 俺は霧谷煉馬といいます!」
「うん礼儀正しくありがとな! だけど勘違いしてんなら言っとくけど、俺は『秋ちゃん』なんて名前じゃねーから! そっからさらに『さん』をつけなくていいからな!?」
「わかりました秋ちゃん!」
「ぷっ」
「だからその呼び方を止めろ! 俺には『嘉野秋夜』って名前があるんだよ! それから逢歌、そこでさりげなく笑ってんじゃねぇ! しかもさっき完全に吹いただろ!」
「そんなことないで? さすがにしないてそんなブフォッ!」
「吹いてんじゃねーかよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そんな逢歌と秋夜のやりとりを見ていた煉馬は、なぜか心の中にムヤムヤとしたものが現れた。
(……? 何だ、これ……? すっげームヤムヤする……)
とにかくあの2人が仲良くしているのを見たくなかった煉馬は、深呼吸をして「あの」と言った。
「「?」」
「あ、いや……清海が、ここに用事があるって言ってたから……それはいいのかなー、なんて……」
「ああ、そうやったそうやった。すっかり忘れとったわ」
「忘れてんじゃねーよ……。今とってくるから待ってろ」
「ほーい」
逢歌がそう返事すると、秋夜はまた奥に戻っていった。
そのうちに煉馬は聞きたいことを聞いてしまおうと思い、逢歌に話しかけた。
「なぁ、清海……さっきの人って親戚か何かか?」
「あーっと……確か従兄やったと思うで? そういうの全然気にしてへんかったからうろ覚えやけど……。それに、秋ちゃんは……」
そこまで言うと逢歌は言葉を区切り、穏やかな目で秋夜がいなくなったお店の奥を見た。
それを見て、煉馬はどうしても心の中のムヤムヤが増えていって仕方なかった。
(嫌だ、この先は……聞きたくねぇ!)
しかしそんな煉馬の願いは届かず、逢歌はさっきの目のままポツリと呟くように言った。
「それに、秋ちゃんは――……ウチの、初恋の人やねん」
ガラガラと、煉馬の中で何かが崩れ落ちた。




