煉馬と逢歌のデート、始まり
この話は何話か続きます!
(――………何してんだよ、俺は……)
(――………もう、何してんやろ……)
((自分のバカさに、呆れてくる))
*
きっかけは、実乃里が見つけた雑誌の1ページだった。
「あれ? これって……逢歌の好きそうな映画じゃない?」
「ん? どれ? ……あぁ、確かに見てみたいなぁ」
「その映画? へぇー……逢歌ってそういうのが好きなの?」
「そーなんよー♪」
実乃里がたまたま見つけた逢歌の好きそうな映画が、運良くその週の土曜日に公開するのだ。
そしてその日は丁度逢歌が映画館の近くに出かける用事があったため、見れるなら見ようと思ったのだ。
「逢歌、ごめんね。その日はちょっと……」
「私も、その日は習い事があって……」
「ええよええよ、気にせんといて」
しかしその日に実乃里は透とデートを、小雪は燐と一緒に通っている習い事があって無理だったのだ。
逢歌は気にするなと言ったが、正直1人で寂しく映画館に行きたくはなかった。
そしてその日になんの用事もなくて家でのんびり過ごしているだけであろう人物――霧谷煉馬を誘うことにした。
*
「は? 土曜日? まー確かに透とも燐とも遊べなくて暇だけど……」
「よし、なら決定やな。一緒に映画館行こうや」
逢歌の予想通り煉馬は土曜日にやることがなくて暇していると言ったので、逢歌は手を叩いてそう言った。
煉馬は最初断ろうとしたが、その映画が煉馬自身も気になっていたものだったので、一緒に見に行くことにした。
「ほな、土曜日の午前10時に駅前の噴水のところでな。午前やからな? 午後とちゃうからな?」
「わか……いやいやいや、それを間違えるほどバカじゃねーよ!? そんじゃーな!」
大切なことを決め終わったので煉馬はその場から去っていき、逢歌は土曜日がとても楽しみになった。
(ふふっ、霧谷君とデートやぁ♪ 霧谷君と………あれ?)
ここで逢歌はふと思った。どうしてここまで土曜日が楽しみなのか……と。
(まさかウチ、霧谷君が……? いや、そんなわけあらへんよな。きっと映画が楽しみなだけや)
逢歌はそう言い聞かせ、実乃里と小雪のところへ戻ることにした。
「透ー、燐ー、今戻ったー!」
「……おかえり。どうかしたか?」
「へ? 何が?」
「何って……キモいくらいに顔がにやけてるし、顔がすっごい真っ赤だぞ?」
「へっ!? なっ、なんでもねーよ!?」
(さらりとデートに誘われたなんて、言えるわけねーだろ!? か、勘違いかもしれねーけど……)
*
そして当日、煉馬は友達だとしてもさすがに女子よりも遅いのはどうだろうと思い、早めに待ち合わせ場所へと向かった。
(10分前か……これって早いのか? それとも遅いのか?)
普段遊ぶ時はいつも時間ギリギリに着いていた煉馬は、これが早いのか遅いのかよくわからず悩んでいた。
すると近くにいた女子が煉馬の方を見てコソコソ話しており、ハイタッチを交わしたと思うと、近寄って煉馬に話しかけた。
「あっ、あのっ! よかったら一緒に遊びませんか!?」
「え? 俺?」
「そうそう! 君みたいな人と遊べるならこっちも大歓迎だしね♪」
「どうかなぁ?」
――……なるほど、これが逆ナンというものか。
逆ナンをされたのが初めてな煉馬は、顔に笑顔を浮かべつつもどうしようかと困っていた。
しかし運良く煉馬には逆ナンの師匠がいる。あんな感じでやればいいのかと思いながら実行することにした。
煉馬は頭を掻きながらニッコリ笑った。
「すみません、俺ちょっとそういうのは……。それに、連れを待ってますし……」
「えー、いーじゃん。その連れって男子? それとも女子?」
「女子っすよ。デートみたいなもんです」
「そんなこと言わないで、ねっ?」
「いやいや……」
あと少しだ、そう煉馬が思った時だった。
「すんませーん、ウチの彼氏が何かしましたかー?」
突然煉馬の腕が引かれて倒れるように後ろに下がり、腕にふわりと柔らかい何かがくっついた。
「ぅえ…!?」
驚いて思わず変な声を出してしまった煉馬は、慌てて何かがくっついている方の腕を見た。
するとそこには胸を押しつけるようにして腕を組んでいる逢歌がいた。
「ん……? あんた誰?」
「さっきも言った通り、この人の彼女ですよ?」
「えっ、恋人同士なの!?」
「え!? あ、いや、そうなんすよ。たはは……」
「それはさすがに邪魔できないわー。仕方ない、諦めようか」
「「はぁーい……」」
煉馬と逢歌が(嘘だけど)恋人同士だとわかった途端、空気を読めた3人は去っていった。
しばらくしてやっと安心できた煉馬は助けてくれた逢歌にお礼を言おうと再び隣を見た。
「え……?」
しかし逢歌の顔を見て、煉馬は思わず声を漏らしてしまった。
――――そこには、プクッと可愛く頬を膨らませている逢歌がいたからだ。
「え? あの、清海さーん?」
「邪魔したなら悪かったなぁ。だけどせっかく映画を見に行くんに、なに遊びに付き合おうとしとんの?」
「いや、むしろ助かった――……あれ?」
ここまで言って、煉馬はふと思った。
今まで透が女子と一緒にいる時、実乃里も今の逢歌のように頬を膨らませていたのだ。
それは実乃里がヤキモチをやいていたからということはわかっている。それじゃあ逢歌は?
「なぁ、もしかして……ヤキモチ、か?」
「は、はあっ!? なに言うとんの!? バカやないの!? ほらっ、はよ行くで!」
「ちょっ、いくらなんでもバカは酷くねーか!?」
煉馬は思わずそう言ってしまったが、実は逢歌の耳が真っ赤に染まっていることに気づいていた。
(あーあ……本当、清海って可愛いな。モテるのもなんだかわかるわ)
そんな逢歌に煉馬はクスリと笑い、隣に並ぶために駆け出した。
さあ、デートの始まりだ。




