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君と歩む世界  作者: 沙由梨
Chapter4
31/44

透と実乃里の出会い

これにてChapter4、スタートです!



――――きっかけは、たわいもない会話だった。


 *


「えっと……こっち、だったっけ……?」


1人の少女――神崎実乃里は校舎の外側をぶらついていた。


理由は簡単、道に迷ってしまったからだ。


今日は花吹雪学園の入学式であり、実乃里が高校1年生としてスタートをきることになる日だ。


だけど入学式が行われる体育館へと道がわからず適当にぶらついていたら、最後は迷子になってしまったのだ。


「あああ……もう最悪……。絶対に間に合わないよぉ……」


もう何もかもに絶望し、体育館へ行くのを諦めた時だった。






「………あんた、こんなところで何してんだ?」






「え…?」


突然上から誰かに声をかけられたので実乃里が顔を上げると、そこには木の上に座って実乃里を見ている1人の少年がいた。


その少年は目を丸めて実乃里を見ており、同様に実乃里も目を丸めて少年を見ていた。


すると少年は実乃里を見てどうしたのかわかったのか「ああ」と言って首を傾げた。


「もしかしてあんた――……道に迷ったのか?」


「ふえっ!? ちっ、違うよっ!?」


少年の言ったことが図星だった実乃里は、なんだか恥ずかしくなって思わず事実を否定してしまった。


しかし少年はそのことがわかっているのか、指を左に向けた。それを見て実乃里は首を傾げる。


「なんで意地はってんだよ……。体育館ならあっち。行くならさっさと行けば?」


「あっ、ありがとう……って、あなたは? 行かないの?」


「は? 僕? 入学式なんかに行くわけないだろ、めんどくさい。それにあんなことしたくねーし……」


「めんどくさいって……。それに、やることあるならなおさら行った方が……」


きっと不良少年なのだと思った実乃里は、あることを聞いてから体育館に向かおうと思った。


「じゃあせめて名前を教えて。私は神崎実乃里よ」


「なんで? 別に教えなくていいだろ? どーせ会う機会なんてないだろうし」


「だから一応で。ほら、早く早く!」


「………小鳥遊透だ」


「ん、小鳥遊君ね。わかった、またね! あと、気まぐれでも来てくれると嬉しい!」


そう言って実乃里は手を振りその場を去っていった。


「気まぐれでも、なぁ……」


そんな実乃里を見て少年――透は一言呟いて、木の上で器用に体制を直してから地面に飛び降りた。


 *


実乃里は無事入学式に間に合い、とてもとても長い長い学園長の話を聞いていた。


しかし学園長の話が長すぎるため周りは寝てたり友達と話していたり男子が女子をナンパしていたりだったので、実乃里も学園長の話を聞いているふりをしながら、透のことを考えていた。


(小鳥遊君、大丈夫かな……? さすがにサボるのは入学式だけだよね……?)


そんな不安を胸に残しながら、新入生の代表挨拶は誰かとドキドキしていた。


『えー、それでは新入生挨拶……代表、小鳥遊透!』


「………え……?」


先生が言ったことに実乃里は思わず声を漏らし、同時にあの不良少年が代表なのだと理解した。


この新入生挨拶は新入生の中で1番成績の良かった人がするという、ごく普通のシステムだ。


だから実乃里は透が学年主席で入学していることが信じられなかったのだ。


『………あれ、小鳥遊は休みですか? え、違う!? どこにいるんだ、たく!』


進行担当の先生は怒り狂い、透が来た途端に殴ってしまいそうだと実乃里は思った。


(あああああ小鳥遊君さっきの言葉は撤回します! いや、完全には撤回できないけど! お願いだから今は来ちゃだめぇぇぇぇぇっ!)


実乃里は心の中でそう願った。


しかし悲しきかな、透はさっきの実乃里の言葉を気にしていたのだ。だから入学式に来ないという選択肢は透の中から消えていた。




「――……遅れてすみません。新入生代表小鳥遊透、います!」




その声は小さく、だけど透き通る声だったため、体育館にいる全員の耳に届いた。


そっちの方を向くと、そこには息を切らして膝に手を当てている透がいた。


(来ちゃったーーーーー!!)


実乃里は顔をひきつらせて心の中でそう叫んだ。そしてその間にも進行担当の先生は透にどんどん近づいていく。


「小鳥遊! 今の今まで何してたんだ! あぁ!?」


「っ、ごめんなさい…! 来る途中に、困っている人がいて……その人を助けて、たら、遅くなってしまいました…!」


「んん? 人助け? そーかそーか、それなら特別に許す! ほら、早く壇上に上がるといい!」


「いてっ!? は、はぁ……」


(って、ええ!? 人助け!? なに普通に嘘言ってるの!?)


透の言葉を聞いて先生は怒っていた顔がどんどん嬉しそうな顔に変わり、透の背中を強く叩きながら早く壇上に上がるように言った。


そしてその会話を聞いていた実乃里は透がさらりと嘘を言ったことに驚愕していた。


しかも今壇上に向かっている時は全く息が切れていないのだ。つまりさっきのも演技だったということになる。


(何してるのよ小鳥遊君!)


透が壇上に上がって答辞を述べている時、実乃里は入学式が終わった後に透を問い詰めることを心に決めた。


 *


「ちょっと小鳥遊君! なにさらりと嘘を言ってるのよ!?」


「は? つーか、そんなことで呼び出したのか?」


実乃里は透を問い詰めるべく、体育館裏へと呼び出した。


早速実乃里が本題を口にすると透は眉をひそめてそう言ったので、実乃里は逆に眉をつり上げた。


「そんなことじゃないでしょ!? 先生に嘘ついて……バカじゃないの!?」


「俺にとってはそんなことだし、これでも一応学年主席。つーかあの状況で嘘をついて誤魔化す他に選択肢があったとでも?」


「本当のことを素直に言えばよかったじゃないの! そうすれば怒られたかもしれないけど、先生に『素直な良い生徒』って思われた可能性も…!」


「可能性なんて皆無。ていうか素直に言ったとしても、今回のことは怒られて『サボる問題児』っていう肩書きをつけられるだけ。それに『嘘も方便』って言うだろ?」


「むむぅ……」


透の言葉に、実乃里は反論できなくなってしまった。


たとえ入学式をサボろうとした問題児だとしても、成績は学年一なのだ。そこそこ良いくらいの実乃里が、この言い争いに勝てるはずもなかった。


すると透は話が終わったとでも言うようにその場から去ろうとして、実乃里は慌てて止める。


「ちょ、ちょっと!? 話はまだ終わってないよ!?」


「確かに終わってないな。でも、解決はしただろ? だったら別にいいだろ?」


「え!? 何言って「それから」………?」


「その性格、止めたらどうだ? 1人になりたくないからその性格作ってるんだろうけど、それじゃあ逆にモテて後々大変なことになるぞ?」


「っ!! いっ、いいのっ!!」


「ふーん……あっそ。あんた、案外孤独になりたくないんだな。まぁ、この道を進んでも孤立感はあるだろうけど。忠告はしたから、じゃーな」


「あっ、ちょっと!?」


透はそう言って手を振ってその場を去っていった。


(何なのよ……意味わからない、不思議な人……)


実乃里は首を傾げつつも透の言ったことが気になり、どうであれ実乃里の心の中に、透は忘れられない人として存在することとなった。


 *


そして、透の言ったことは見事に現実へと化した。


実乃里は容姿、スタイル、性格、全てにおいてすばらしく、男女関係なしに人気になった。


だけど彼らが見ているのは神崎実乃里の作られた全て、つまりは『ニセモノ』であり『ホンモノ』の神崎実乃里を見てはいなかった。


そしてそのことから孤独感に襲われた実乃里は1人、屋上に寝転がっていた。


(あーあ……結局は小鳥遊君の言った通りになっちゃったなー……。でもまぁ、仕方ないよね……)


そう思いながら体制をコロコロ変えながら楽な体制を作ろうとしている時だった。






「………あんた、今度は何してんだ?」






「ふぇ? あ……」


間抜けな声を出しながら顔を扉の方へ向けると、そこには顔をひきつらせて実乃里を見ている透がいた。


「あっ、小鳥遊君!」


「仮にも学園のマドンナが何してんだよ……やっぱり孤独感に包まれたのか? 演技しても『ホンモノ』は誰も見てくれないのがわかってたから、きちんと言ってやったのに……」


「あはは……うん、その通りなの……。小鳥遊君すごいね!」


「……は? 何が?」


実乃里が無意識にパッと顔を明るくしてそう言ってきたので、透は訳がわからなくて首を傾げた。


「だって、私が孤独感に包まれることを予想してたじゃない? そういうのって、すごいと私は思うの!」


「………すごい、か……。そんな大層なものじゃないし。経験上、なんとなくわかっただけ」


「へー……そっかぁ……」


実乃里が笑顔でそう言うと透は寂しげな表情を一瞬浮かべたが、すぐにいつもの無関心な表情に戻って言った。


それを聞いた実乃里は『経験上』という言葉に疑問を抱いたが、聞かれたくない話なのだろうと思って聞かないことにした。


2人の間にしばらく静寂が訪れたが、実乃里はふとあることを思い出して透に聞いた。


「ねぇねぇ、小鳥遊君!」


「………何?」


「えっと、あのね――


























 ――よかったら、友達になってくれない?」







「……………は?」



実乃里の突然の言葉に透は呆然とし、実乃里はニコニコしながら手をさしだした。


透はどうしてそんな話になったのかわからず、ただジッとその手を見ていた。


「………どうして友達になる必要がある? お前はもう友達が何人もいるだろ?」


「え? だって、小鳥遊君は『ホンモノ』の神崎実乃里を見てくれたでしょ? 私には『ニセモノ』の友達しかいないから……」


「………そういうのは、僕以外に頼め。お前なら、見つけられるだろ?」


「え、あ、ちょ、小鳥遊君!?」


実乃里の言葉を透はバッサリ切り捨て、とっとと去ろうと立ち上がった。


それを見て実乃里は慌ててその場に立ち上がり、扉の方へ向かっていく透に叫んだ。


「っ小鳥遊君! いつかは、友達になってくれる!?」


すると透は動きを止めて、しばらくその場に突っ立った後に実乃里の方を振り向いて言った。






「――……気が向いたらいつか、な」






そう言って透はふわりと微笑んで身を翻し、手を振りながら去っていった。


そしてその透の貴重な笑顔を見た実乃里は顔を真っ赤に染めて、その場に座りこんだ。


「………あれは、反則だよ……」







一方、去っていった透は、歩きながら真っ赤に染まっている顔を手で隠しながら、ポツリと呟いた。


「何してんだ、僕は……」



 *


この時、この瞬間、長い長い2人の両片思いが始まったのでした。



そして2人に別れの時が訪れますが……それはまた、機会があったその時に。






See you next story...



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