後押し、心の気持ち
今回はある歌の歌詞の言葉を使わせてもらいました!
あの後私達は比嘉崎先輩が失踪(?)したので、教室に戻るために廊下を歩いていた。
そこで私はふと気になったことがあったので、小鳥遊君に話しかけた。
「ねぇ、小鳥遊君」
「ん? どうしたの実乃里ちゃん?」
「さっき比嘉崎先輩と話してる時さ、もとの喋り方だったよね? あの時もしかして、もとに戻ってたの?」
「あ、ううん、違うよ。比嘉崎先輩は僕が8歳の小鳥遊透だって知らなかったから、もとの喋り方で話してただけだよ」
「へぇ、そうなんだ……」
私はその流れで「教えてくれてありがとう」とお礼を言おうとした。
しかし小鳥遊君はまだ言いたいことがあったのか、その後に「でもさ」と続けた。
「それにしても、どうして前の僕はあんな喋り方をしてるのかな? 幼い僕にはただかっこつけてるようにしか思えないよ。あれでどれだけの女の子を落としてきたのか……」
「あ、あはは……ど、どのくらいだろうね? 小鳥遊君かなりモテてるからねー……」
――――……この状況で「私も落とされました」なんて、言えるはずもなかった。
さっきのことを聞いて、私はどうしようかと考えた。
確かに私は小鳥遊君が好き。それは入学してからずっと変わらない。
でもその小鳥遊君は、今目の前にいる8歳の小鳥遊君じゃない。心の底に殻を作って閉じ籠ってる小鳥遊君なんだ。
だけどこんな気持ちで小鳥遊君に告白するなんて嫌だし、かといって他の人に告白するのも……。
すると突然誰かに腕を引かれ、誰もいない空き教室へ入れられた。そのままバタンッと扉が閉まる。
「なっ……」
「実乃里、いい加減にしたらどうや?」
ああ、そう言えばこんな時にいつも立ち止まってる私の背中を押してくれるのは彼女だったなぁ、と冷静に考えていた。
「………また、お説教かな? 逢歌」
「お説教……そうかもしれんなぁ。今の実乃里は、見ててイライラするんや」
「ちょっ、理由が自己中すぎない?」
「………どうせ『本当に好きな小鳥遊君にこの気持ちは届かない』とか思ってるんやろ? それがイライラするって言ってるんや」
「おーっ、よくわかったね。正解だよ逢歌♪」
そう言って私はニッコリと笑った。しかし逢歌はそれを見て顔をしかめる。
「今度は仮面を被って誤魔化すんかい……いい加減にせぇや?」
「あはは、ごめんね。でも、今は……うじうじ悩んだり、こうやって仮面を被ることしかできないんだ」
「っ……! だからっ、それを止めろって言ってるんや!」
とうとう我慢の限界に達したのか、逢歌は私の胸ぐらを掴んで顔を近づけ、大きな声で言った。
「いつもの実乃里はちゃうやろ!? どんなに自分が辛くても悲しくても、その人のために精一杯頑張るのが神崎実乃里やろ!? 『届かない』なんてネガティブなことを考えるんやない! 『伝わるように頑張ろう』って考えるんやないの!?」
「っ! あ……」
逢歌の言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に17歳の小鳥遊君の笑顔が浮かんだ。
そうだよ、私が届くと信じていれば、この気持ちはきっと小鳥遊君に届く。
私がまた会えると信じてれば、きっとまた出会える!
私は逢歌の手を離して、さっきとは違う笑みを浮かべた。
「逢歌、ありがとう! 私、頑張るよ!」
「そうそう、それでこそ実乃里やで♪」
そう言って逢歌は笑い、つられて私も再び笑った。
すると教室に学園祭終了の合図のチャイムが鳴り響いた。するとノイズの音の後に放送が流れる。
『これにて、学園祭を終了いたします。どのクラスが1番だったか、その集計をしている間はこれから始まる秘密企画をお楽しみください!』
「秘密企画って、まさか……」
「実乃里の出場する告白大会やろうなぁ♪」
「楽しそうに言わないでよぉ……」
「そんなこと言わずに! ほらほら、行くでーっ!」
なんだかすごい楽しそうにしている逢歌を見て、私は思わずため息をついてしまった。
すると逢歌はそんな私の肩に腕をかけ、右手の拳を突き上げて歩きだした。
私はそんな逢歌に再びため息をついて、こけないように気をつけながら歩いた。
*
私は告白大会の順番待ちをしている。でも……
「俺はー! 神崎実乃里がー! 大好きだぁー!」
「ふっざけんなぁ!」
「ぶっ殺すぞ!」
「誰がお前なんかに神崎さんを渡すかぁ!」
『おおっ、かなりのブーイングですね! やはり男子に神崎実乃里さんは人気のようです!』
「何を言う! それなら清海逢歌さんも素敵じゃないか!」
「そうだぞ! あのちょっと強気な性格、でも母性本能が強い、すばらしい女性じゃないか!」
「それなら霞さんだってそうだ! あの小柄で可愛い微笑み、そして不動院燐への独占欲……羨ましすぎる!」
『おおっと、どうやら清海逢歌さんと霞小雪さんも人気のようです! やはりこの3人の争奪戦率は高い!』
………なにこのデジャヴ感ありまくりの混沌は。
だから、言ってないけど私は小鳥遊君一筋だって言ってるじゃない! 他の人になんて興味ないの!
それに逢歌はわからないけど、小雪ちゃんは不動院君とラブラブじゃない!
すると今度は女子の声が聞こえてきた。
「私はっ、小鳥遊透君のことが大大大大大好きですっ!」
「何言ってるの!? 小鳥遊君は私のものよ!」
「違うでしょ! 小鳥遊君は皆のアイドルなの! 誰のものとかないのよ!」
「ちなみに私は霧谷君派〜♪」
「それはわかる! 霧谷君もなかなかのイケメンだよね♪」
「それなら不動院君だってそうよ! 一見小柄で可愛いけど、よく見るとすごくイケメンなの!」
「ハッ!? 透×煉馬×燐……キタコレキタ!」
「きてない! 腐女子は今すぐここから去りなさい! そんな要素、全くないから!」
『………えーと、1部すごい発言がありましたが、男子はどうやら小鳥遊透君と霧谷煉馬君と不動院燐君が人気のようですね!』
「燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない燐は渡さない…!!」
って、ちょっと小雪ちゃーーーん!? すごい怖いよーーー!? 皆に引かれてるよーーー!?
ていうかさっきあの3人で妄想したのは誰かなぁ……? 後デオハナシシタイナァ……♪
『さて、それではいよいよこの人です! 我らのアイドル、神崎実乃里さんです!』
(にゃああーーーーーーっ!!)
とうとう順番が来てしまい、私は深呼吸をしてからゆっくりステージに立った。
皆に見られてるこの状況で告白するのは、やっぱり嫌だな……でも!
私は大きく息を吸って言葉を紡いだ。
「今ここには私の好きな人はいません。でも、この気持ちを表したいので言います! 私は、私達はあなたのことが大好きです! あなたは今1人でとても辛い思いをしているかもしれない、でも! 私達は、そんなあなたを見捨てたりしない! 絶対、絶対に助けるから、だから! この言葉を、私が大好きな言葉を、あなたに贈ります!」
私は瞑っていた目をきちんと開き、目を見開いている小鳥遊君の方をしっかりと見て言った。
「君が望めば、また出会える!」
辺りが静寂に包まれ、私は冷や汗をかいた。
しかし次の瞬間大きな拍手の音が聞こえ、私は恥ずかしくて誤魔化すように笑い、その場をあとにした。




