突然の来訪者
はい、案の定短いです。そして展開が早いです。
……………すみませんっ!
たとえどんなことがあってもそれは過去。今を生きる私達には関係ない。
そう、納得したはずなのに。
私は、私達は、小鳥遊君のことを、小鳥遊君の家系のことをなにも知らなかったんだ。
*
私達が休憩している時、クラスメイトに小鳥遊君が呼ばれた。
気になって全員で見に行くと、大和撫子と言っても過言ではない女性が立っていた。
「あっ、透! 久しぶりね♪」
「え、と……あなた、は……?」
「またまたぁ! とぼけちゃってぇー!」
「へ? へ? へ?」
状況が理解できずに目を何度も瞬きさせている小鳥遊君の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
それを見た私は逢歌の制止を無視し、奪うように小鳥遊君の腕を引っ張った。
私が彼女を睨むと、さっきの小鳥遊君のように目を何度も瞬きさせた彼女は、口元を押さえて笑いだした。
「な、何なんですかいきなり!」
「ごめんごめん! いやー、まさか透にこんな可愛い恋人がいたとはね〜♪ お姉さんびっくりだわ!」
「……………はへ? こ、恋人!?」
それを聞いた私が自分でもわかるくらい顔を真っ赤にすると、彼女は「初々しいわね〜♪」と呟きながら微笑んだ。
そんなやりとりをしているのを見かねたのか、逢歌が顔をひきつらせながら彼女に話しかけた。
「あ、あのー……小鳥遊君に何か用事があったんとちゃうんですか?」
「あ、そうだった。まぁ、透にだけじゃないんだけどね」
彼女はそう言って身だしなみを整え、綺麗にお辞儀をした。
「はじめまして。私は高橋麗奈。透のお母さんの双子の姉で、小鳥遊家の家系をよく知る人物の1人です♪」
この自己紹介に、私達は固まってしまった。
小鳥遊君のお母さんの双子の姉で、小鳥遊家の家系をよく知っている……それはつまり、小鳥遊君とは知り合いだということ。
だけど今、小鳥遊君は記憶喪失で幼児退行している。それをこの人は知らない。
慌てて説明しようとした時、麗奈さんは1つの手帳を取り出してパラパラと捲り始めた。しかも上機嫌で。
「んー……何から暴露していこうかしら? 真実はやっぱり最後のお楽しみよねー……。よしっ、決めた!」
麗奈さんはパタンと手帳を閉じると、無邪気に満面の笑みを浮かべて言った。
「さーてと、秘密の暴露大会をしましょうか! 誰もいなかった屋上でね♪」
私達は、屋上へと駆け出した。
*
「すー……はー……。やっぱり風が気持ちいいわね!」
そう言って麗奈さんはその場でくるりと1回転し、近くにあった壁に身を委ねた。
私達は息を整えながら床に座り、ジッと麗奈さんを見た。
すると麗奈さんは「その前に」と言って、小鳥遊君と霧谷君を見て微笑みながら、衝撃的な言葉を放った。
「透、いつまで演技をしているのかしら? 幼児退行はしてても、記憶喪失にはなっていないでしょ? そしてどうして煉馬は秘密にしているのかしら? 言えばいいじゃない。自分も小鳥遊家の1人なんだって」
「え……演、技? 秘密……?」
私は呆然としながら呟いた。
嘘。だって小鳥遊君は本当に記憶がなくなっちゃって、私達のことがわからなかった。
霧谷君は小鳥遊君と親友だし、居候でも家族でもない。なのに、小鳥遊家の1人? ありえるはずない。
それを聞いた小鳥遊君と霧谷君は目を見開いたが、その後小鳥遊君はため息を、霧谷君は頭を掻いた。
「よくわかったね。記憶喪失なんかじゃないってこと」
「まさか言われちまうとはなー……やっぱ早めに言っとけばよかったなー」
2人は苦笑しながら肩を竦め、それでも静かに言葉を肯定した。
真実は、もうすぐそこだ。




