デートは終盤へ……
今回はシリアスが入ります。
「…………………」
「…………………」
「あ、あのー……」
「…………………」
「ぁ、っ……」
俺達は観覧車に乗っている間、ずっと無言だった。
………いや、正確には神崎は俺に話しかけてくるが、俺がそれを無視して無理矢理静寂を続けているだけだ。
だって、観覧車には嫌な思い出があるから。
まぁ、それはもう吹っ切れているから平気なんだが、思い出すからあまり乗りたくないというか……。
「………小鳥遊君、私じゃあ、駄目かな?」
「っ!?」
駄目……? 一体何が駄目なんだ?
もしかして、俺の考えていることがわかるのか? まさかな……。そんなことがあるわけ……
「私じゃあ、小鳥遊君の辛さをわかってあげられないかな…?」
嘘、だろ? 何でそんなことがわかるんだよ? 俺は何も言っていないのに、呟いてすらいないんだぞ?
でも、もしも神崎が、俺の辛さをわかってくれるなら……。
「……本当に、わかってくれるんだな?」
「それは……わからない。でも、もし私に話して少しでも楽になれるのなら、私は……力になりたい」
「………そう、か……」
正直、誰かにこの事を話すのはかなり気が引ける。
でも、もしそれで楽になれるのなら……話したい。そして、この気持ちをわかってもらいたい……。
でも、あの出来事は、話さずに心に残しておくべきなのか……?
俺は話すか考えながら、あの事を思い出していた――。
*
それは、透がまだ小学2年生……つまり、8歳の時のことだった。
いつも仕事が忙しい透の親が、久々に休暇をとることが出来たので、3人で遊園地に遊びにいった。
「パパ、ママ、はやくー!」
「はいはい、今行くよ」
「やっぱり透は元気だなぁ」
この時、高いところが好きな透が1番乗りたかった乗り物が観覧車であった。
そして丁度、観覧車に乗ることが出来たのだ。
まさかこの出来事が、透が親と乗る、最期の乗り物になるとも知らずに……。
「わぁー! すごく高いね!」
「はは、透が喜んでくれて、パパとママも嬉しいよ。なぁ?」
「ええ。休みがとれたらまた来たいわね」
「うん! また来ようね!」
そう言った透に向かって笑顔を見せようとした――その時だった。
ドゴォォォォン!
「「「!!??」」」
大きな音がしたかと思ったら、透は父さんと母さんに抱きしめられていた。
「パパ、ママ……?」
「透、絶対に動くなよ!」
「大丈夫、透を………りしないから」
父さんに続いて母さんが何か言っているが、音が大きすぎてよく聞こえていなかった。
そして透が何て言ったか聞こうとした時だった。
バキィッ、……ガァァァアン!!
何かがとれたと思ったら、ものすごい衝撃が透達を襲った。
透は思いきり閉じていた目をゆっくりと開けた。
そこに映ったのは……
――――頭から血を大量に流している、透の両親の姿だった。
「え……? パパ、ママ……?」
まだ8歳という子供の透には、この光景は理解が出来なかった。
ただ、嫌でもわかった…わかってしまった事があった。
それが、『2人が息をしていない』という事だった。
いくら小さいと言っても透は既に8歳になっていた。
だから、息をしないと人は死んでしまうということも知っていた。
だからこそ、透は信じたくなかった。わかりたくなかった。
「嘘、でしょ? 目を、開けてよ……。息、ちゃんとしてよ……。パパ、ママ……」
透は驚愕な顔をしながら、ゆっくり両親の体を揺すりながら何度も呼び続けた。
しかし、目を開けることも呼びかけに答えることもなく、どんどん体が冷たくなっていくだけだった。
しばらくして救急車が来て搬送されたが、それは透に『両親が死んだ』という残酷な現実を突きつけるだけだった―――。
*
「小鳥遊君……?」
「っ、あ……悪い……」
昔にトリップしていたら、いつの間にか観覧車は一周していた。
俺は慌てて立ち上がり、外で待っていた神崎のところに向かった。
しかしどうしても、あの出来事を話そうとは思わなかった。
「……やっぱり、私じゃあ役不足かな…?」
「そう言うわけじゃない。もう気にしてn「嘘だよ」……は?」
「小鳥遊君、絶対に気にしてる……吹っ切れてないよ」
神崎はまるで俺のことをわかっているかのように、自信満々に答えた。
それにどうしてムッとしたのかわからないが、無意識に言い返していた。
「黙れ。何でそんなに自信満々に答えられるんだよ。自分のことなんだから、わかってるに決まってるだろ」
その言葉に怯むこともなく、負けじと神崎も言い返してきた。
「わかるに決まってるよ! それに私は、小鳥遊君の役に立ちたいの! いつも助けてもらってばかりで、なにもしてあげてられてないから……」
「俺はなにもしていない。それに、もう吹っ切れてる。気にしてないんだよ!」
「絶対に吹っ切れてないよ! だって、もし本当に吹っ切れているなら、気にしていないなら……
そんな顔をするはずないもん!」
「は……?」
一瞬、神崎の言ったことがわからなかった。
そんな顔……? 一体どんな顔をしてるんだ?
その疑問に答えるように、神崎の言葉はどんどん紡がれていく。
「今、すごく悲しい顔をしてる。もし本当に吹っ切れているなら、そんな顔をするはずないもん! 悲しい顔をする必要ないもん!」
その言葉を聞いて、俺はハッとした。
慌てて周りを見渡して鏡になるようなものを見つけて見てみると、確かに悲しい顔をしていた。
それと同時に、昔の記憶が頭を流れていく。
小さい頃、仕事が忙しくてなかなか遊んでもらえなくてこっそり涙を流していた時、「明日は遊びに行こう」と言われてすごく嬉しかった。
言われたその日の夜は、嬉しくて夜も眠れなかったことを思い出す。
「だから……っ!?」
俺の頬に、暖かい何かが流れた。それを見て、神崎が目を見開いてる。
ああ、なんだ。
神崎の言う通り、ただの思い違いだったんじゃないか。
「………ごめん。ごめんな、神崎……」
「小鳥遊、君……?」
俺、すごくバカだ。勝手に決めつけて、自分が正しいと言いはって。結局それが間違いで。
でも、今回神崎に言われてよくわかった。
何て言おうと、自分が正しいと言いはっても、結局俺はまだ……
『過去』という名の檻から抜け出せていなかったんだから――――。