竜に乗って
※本作品は独断と偏見により書き進めております※
光る鉱石によって淡く照らされた洞窟の中、2つの影が走り抜けていく。
2つの影に魔物が飛び掛る。片方の影の拳が当たった瞬間、液体を撒き散らしながら壁へと吹き飛ばされる。
魔物の体が壁に当たり、潰れる。同時に砂となって消えていく。後に残されるものは黒い玉のみ。
もう片方の影が魔物を吹き飛ばした影に話かける。
「ところでエディ、ダンジョンってなんだ?」
先ほどから木彫りの看板にダンジョン××階層とかいう文字がやたらと視界を横切って気になっていたのだ。
「ここは古代の、この大陸が生まれた時代からあるとされている遺跡なんだが、リュージのやつが「ダンジョンだ!」と言ってそのまま『ダンジョン』として定着したんだ、呼びやすくていいだろう?」
なるほど、流時叔父さんの影響力はすごいな。
「ああ、タカヒサはしばらく姓を隠しておけ。騒がれたいなら関係ないが、公表すると色々と面倒なことになるからな」
「はい、元々隠すつもりだったんで構いませんよ」
面倒ごとはごめんだとつぶやく。そういえば普通に会話が通じるんだが、なにか魔法とやらがかかっているのか?
「はい、質問」
「どうぞ、タカヒサ少年」
「言葉が通じるんですが、なぜでしょうか?」
「リュージが広めた日本語が共通言語だからな。故郷の言葉なんだろ?っは!」
隙を突いて攻撃をしたのであろう魔物がまたも飛ばされて壁に当たり、潰れては砂となる。
衝撃の新事実発覚!あれ、リュージさんが広めたってことはリュージさんは言葉通じなかったんじゃ・・・。
いや、アマゾンの奥地から原住民とお友達になって帰ってくる規格外な人間だ、気にしないことにしよう。
「タカヒサは戦わないのか?っだ!」
相も変わらず吹っ飛ぶ魔物、この人もこの方面は規格外だ。
「魔物を素手で吹っ飛ばす規格外なエディさんと一緒に戦ったら心がへし折れそうなんで嫌ですよ」
「それはスマン。1人で戦いたかったか・・・」
俺の言葉を聞くなりすぐに拳をしまうエディさん。
向かってきた魔物の攻撃を棍で受けて、流す。勢いのまま背後の壁に激突すると「ゴブァ」と情けない声を上げる。砂になっていないところを見ると倒せてはいないようだ。
「それはそれで危険なんで拒否します。腰の剣は飾りですか?」
「職業上、武器がないとなめられるからな。仕方なくさしているだけだ、よっっと」
再び吹き飛んでいく魔物。一騎当千、いやチートではないだろうか。どちらにせよ意味は同じか。
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そんなこんなで走っていると遠くに日の光が見えてきた。やっと地上に出られる。
魔物も下の階層より弱いのか、他の人影をちらほらと10人ほど見かける。それでも見る限り俺よりも数段格上の実力を持ってそうだ。
エディの戦い方に全員が振り返って驚いて剣をあらぬ方向に振り回したり魔物の攻撃で突き飛ばされたりしているが、前者は気づいた瞬間に軌道を変えて攻撃を当てているし、後者はしっかりと防御と受身を取っている。
しばらくして出口付近に到着すると、岩の陰に隠れた場所で手招きしてくるエディ。なんだろう。
「タカヒサ、ちょっとこっちに来い」
俺は呼ばれるままににエディのそばに行く。すると、突然だきついてきて俺の姿をマントで隠す。
「え、ちょ・・・俺そっちの趣味はないんですが!?」
「黙れ、出るときに面倒なことになるからな。隠しておくに限る」
そういわれると納得するしかないため、結局抱かれたままマントにくるまれる。
ガッシリとした手がすこし痛いくらいに抱きしめてくるが、本当にそっちの趣味はないんだからな!
背はエディの方が圧倒的に高くマントごとかき抱かれた俺は宙に浮かぶ。
足が付かないことに不安を感じるが、マントから足が4本生えていたらそれは間違いなく人間じゃないため我慢する。
「うす!寒い中の見張り、ご苦労さん」
「あ、エルディオさんお疲れ様です。人が少ししか来ないのに見張りを立てるなんていじめ以外の何ものでもないですよね」
嘆息しながら答えを返す兵士と思われる人物。
「じゃあ、急いで帰らないと娘が心配するのでな」
「引き止めてすみません。一度は龍に乗せてくださいね?」
「ああ、考えておく」
やっと歩き出すエディ。俺は無事に抜けられたことに安堵しながらも気になる点を聞くことした。
「(誰も居ない?)」
「(いないが待ってくれ、誰も来ない場所に行ってから解放する)」
「(わかった、どのくらいかかる)」
「(あと5分くらいだ、我慢できるか?)」
「(大丈夫)」
気になった点は後で聞くとして数分ほど我慢する。腕で抱かれた手の当たりが痛い。それはもう滅茶苦茶痛い。
数分後、ようやく腕から解放された俺は腕をさすりながら辺りを見回す。壁に囲まれているのか、少し暗い。
壁は太陽の光を浴びて、緑色の鱗を輝かせている。ん、鱗?
「え?」
上のほうへ視線を向けると、蛇がいた。舌をシュルシュルと出し入れして上を向いている。本能的な恐怖を感じた俺はエディの背後に隠れながら叫ぶ。
「ちょ!エディおじさん!?あれなんですか!?」
「おじさんはやめろ!」
拳骨が落ちた。酷い頭痛に悩まされながらも、パニック状態から落ち着いた俺は現状の把握に努めてみる。
「本当にあれなんですか?本能的な危険をものすごく感じるんですが」
蛇を指差しながらたずねる。蛇の目がギョロリとこちらを向いて「ヒィ!」と情けない声を上げてしまう。ふと頭に重さを感じて顔を上げるとエディの笑顔が待っていた。
「安心しろ、俺の妻で竜のレミリィ・ガレシアだ。レミィ!周りに人はいないか!?」
「シャー!」
「よし、人型になってくれ。タカヒサ、この子の名前なんだが、怖がっている」
どう見ても竜じゃなくて蛇なんですが突っ込んだら負けなんですねそうなんですか!
混乱しているうちに竜(?)から人に変わったレミリィさん。
腰まで垂れて後ろでひとまとめにしてある緑の髪にエメラルドグリーンの瞳、白い肌に白いワンピースを着た20代前半と見られる美人な女の人だ。
「始めまして、竜のレミリィ・ガレシアです。夫がお世話になったようで」
流れるような仕草で礼をすると、となりのエディが胸元を見つめてニヤニヤしていた。変態だ、変態がいる。
「始めまして、隆久です。お世話になったのはこちらのほうです」
向こうの世界で習った礼儀作法にのっとり腰を曲げる。
「タカヒサさん、これから行くあてはありますか?」
そういえばそうだった。すっかり流されていたがこっちで寝るところがない。
「ないのならうちにいらっしゃってはどうでしょうか?エディもそのつもりのようですし」
あんな魔物がいる世界でこのまま生きていく自信はない。かといって街中で仕事を探そうにも素性の知れない者を雇ってくれるかどうか・・・。雇ってくれたとしても絶対まともじゃないからなぁ。
「はい、それではお願いします。いまのままでは野垂れ死にそうなので」
断る理由も見つからず、申し出を受けることにした。
「後で色々と説明しますから、怖がらないで私に乗ってくださいね」
言うなり、レミリィさんの体が光を放つ。瞬く間に竜の姿になった。
ドラゴンではなく日本の竜のような姿。長さは50メートルには届かないくらいで、背には鬣が生えている。足が4本生えていて、よく見ると尻尾は尾ひれのようになっている。顔は蛇のままだったが。
「タカヒサ、鬣をしっかりと掴んでおけよ」
エディは、俺を横抱きにして竜に飛び乗る。鬣を掴ませると抱き込みながら俺の前の鬣を掴む。
「レミィ!」
名前を呼ぶと竜が飛び立つ。強力なGが俺の体を軋ませる。
しばらく耐えていると、雲の上に浮上する。上から見下ろす雲はもふもふとしている。まるでわたあめのようだ。
左右に体を振られながらしっかりと鬣を掴んでいる。体制が崩れると即座にエディのフォローが入る。
ようやく重心の取り方に慣れてきた頃には高度が下がって街が見えてきていた。
「タカヒサ、あそこが俺達の家があるソロノア連邦の都市の一角、ガレシアだ」
城壁に囲まれた中に街がある。一軒一軒の大きさが、日本の一軒家の2倍くらいある。その中でも大きいものは何かの重要な施設だろうとあたりをつける
街中に竜が下りていって怖がらないのかと不安になるが、あの兵士の様子から考えるに何度もこういうことがあったのだろうと自己完結しておく。
街の上空近辺で、円を描いてゆっくりと降下するレミリィさん。街を一望できるいい機会だと頭の中に地図を作っていく。
円状になっている壁に、正反対の位置にある2つの出入り口。門番らしき人影があるため、検問でもしているのだろう。
中心から4方向に大通りが伸びていて、2つは先ほどの門、もう2つはその線から垂直に伸びている。
中心の角の位置には学校らしきもの1つと大きな建物が3つ、そのうちの1つの建物の屋上にレミリィさんは向かう。
エディが俺を横抱きにして飛び降りる。20メートルはあったのに予想していた衝撃がほとんどない。
俺を放すとエディは上空を見上げる。そこには竜の姿は既になく、レミリィさんが笑顔で両手を広げて降ってきた。
ガッシリと受け止めたエディに初めて男としての尊敬の念を抱いた瞬間だった。