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昼の一幕

※本作品は独断と偏見により書き進めております※

「う・・・っ・・・いつ・・・」


 夢から覚めた俺はあまりの痛さに強制的に現実へと引き戻された。


 その痛みであれが夢でなかったことが分かる。亜衣の手加減なしでの蹴りは後々に響くことを今日学んだ。


「あ゛~、痛かった・・・」


 とりあえず周囲を見回してみる。広い部屋に机がたくさん、周りには誰もいない・・・。


「うっそ、もう放課後かよ」


 ふっと外を見るといまだ晴天で、夕日も月も出ていない。


 しばし呆然としていると、外から声が聞こえてくる。


「走れ走れ~!」


「ボールそっち行った!」


「このっ!ちょこまかと!」


 聞き覚えのある声が聞こえてくる。ふと窓の外を見てみると、グラウンドに白線の中で戯れる男女の姿が。


「ドッヂボールか・・・」


 今朝見た赤い髪もキラキラと輝きながらあっちにこっちに・・・。


「おはようございます隆久様。現在3時限目終了の5分前でございます」


 ビクッ


「あ、おはよう。いつからそこに?」


 いつの間にか俺の背後に現れたボディーガードに驚きながらも質問を投げかけてみる。


「初めからでございます」


 ボディーガードは一本指を立てて上を指した。つられて視線を動かすと。


「穴・・・開いてるな」


「大丈夫でございます。穴が開いたように見えるのであって、実はボディーガードが10人ほど隠れているだけです。後でふさぎますよ」


「いや、それは見えるんじゃなくて開いてるんだよね?」


「気のせいです」


 はぁ・・・、とため息をつくと穴の中からいくつかの視線が降りかかる。ぱっと見てみると猫さんまでいるな。


「猫さん、亜衣の警護は?」


「亜衣様の名を呼ぶなド変態。鷹に任せてある」


「あ、鷹さんきてるんだ」


 鷹さんとは亜衣のボディーガードの1人なのだが、もちろん本名ではない。亜衣が動物の名前で呼ぶからだ。普通はボディーガードに名乗る名前なんて無いんだが、亜衣の一存でニックネームが強制的に決まった。


「とりあえず、っと」


 俺が教室に引いてあった布団から出ると、ボディーガードが片付けていく。丸めて上へ・・・あそこ倉庫だったのか、いつもなんでも持ってるからどこに隠してるのかと思ってたけど。そして猫さんは布団から大げさに逃げるのやめて欲しいです。


「そろそろみんな戻ってくるし隠れてすぐに穴ふさいだ方がいいんじゃない?」


「クズにしてはいい案だな、撤収するぞ」


「では隆久様、強く生きてください」


 ボディーガードたちは猫さんと俺のボディーガードの2人からの言葉を残して天井裏に帰っていった。


 それと同時にざわめきが近づいてくるが、男連中の声しかない。女は着替えるの長いしなぁ。


「うーっす」


「あれ、起きたんだ隆久?永眠してればよかったのに」


「馬鹿が起きたぞー!」


「この間渡したエロ本どうだった?あの腰のくびれがなんとも・・・」


「女子とドッヂボールしてきたんだぜ、触れようとするとボディーガードからの殺気が飛んでくるから触れなかったけどな。隆久がいれば・・・!」


 俺はつまり、変態的な行動を取る馬鹿、男子連中のムードメーカーという立ち位置を獲得していた。


(まず初めの計画は失敗だな。体育の着替え中が一番逃げ出せる確率が高かったんだけど)


 特に俺のようなやつなら女子の更衣室に行く振りして逃げるのは容易かったんだが、ままならないな。


「どーしたよ?変な顔して。隆久にはそんな知的な顔は似合わないぜ」


 くっくっくと笑っているやつに腹パンを入れて少し引っかかった言葉を発したやつに向き直る。


「いいか、ボディーガードは所詮ことに及ぶまで殺気を放つしか出来ない。だからこそ思いっきり突撃するんだ。ただし運動の出来る女子は避けろ、かわされたら何も出来ずにボディーガードに半殺しにされるからな」


「さすが隆久!参考にさせてもらう!」


「ふっ・・・いつでも頼れ」


 そんなことはできないだろうがな。箱入りの娘を狙うと触れる直前で叩きのめされるし、運動できる娘はよけられた後に本人にボコボコにされた上でボディーガードに折檻されるからな。もちろん両方とも体験談だ。


 だがしかし!俺は努力の末に運動できる娘のうちの1人、亜衣に抱きついたことがある。あの時は亜衣が顔を真っ赤にしてもじもじしてて可愛すぎた。思わず頭とか背中とか腰とかお尻とか撫で回してしまったな。


 もちろん後で酷い折檻を食らった。亜衣からの攻撃が無かった分、良かったのか悪かったのか・・・。


 鷹さんにホースを口の中に入れられてガムテープで固定されて、さらに足かせに鉄球をつけられて水深5メートルほどの湖に沈められた。数時間ごとに引き上げられてはまた沈められるんだ・・・はは・・・。


「隆久が遠い目をしているぞ!感触か!女子の感触を思い出しているんだな!」


「くっそー!羨ましい!俺だって馬鹿でさえあったのなら!」


「いや、お前も馬鹿だろう?やはりここは僕が・・・」


 こんな会話は女子が着替え終わって戻ってくる時まで続いた。


 ちなみに余談だが、女子の男子への見る目が侮蔑の表情になったことは言わなくても分かるだろう。


-------------------------------------------------------------------------


 生物の授業が終わり昼休み、昼食を食べようと立ち上がる。この学校は昼食は弁当派・食堂派・コック派に分かれている。


 まず弁当派。これは名の通り自分で弁当を作ったり親に弁当を作ってもらったり料理人に弁当を作ってもらっている。稀にコンビニ弁当のやつがいるが、大抵の場合は彼女に弁当を作ってもらえなかったという理由からだ。


 次に食堂派。これが一番数が多い。値段も200円から上は20万円までとレパートリーも豊富だ。キャビアやフォアグラなんてものは普通で、よく分からない生物とか絶滅危惧種っぽいモノとか保護団体が出てきそうなものまである。特に『本日の絶滅危惧種☆20万円』とか言っちゃダメだろ!?高額裏メニューで『本日の絶滅種☆1000万円』とかあるらしい。これは学園七不思議のひとつで信じる人間は少ないが、俺は絶対に信じる。


 最後にコック派。弁当派より人数が多い。学校のコック室で昼食を作るのだ。わざわざ料理人を連れてきて材料も調達して・・・正直俺にはできない。コックなんて雇えないし。平然と使ってるのが恐ろしくなるな。


 いろいろ言ったが、俺は食堂派だ。低額裏メニュー『素うどん80円』や『何かの焼肉20円』とかを好んで食べる。低額裏メニューの出現条件は『具なしカレー200円』を1年間食べ続けることだ。おそらく七不思議も20万円のものを食べ続けるのだろう。


「じゃ、食堂行きますか」


「隆久様、コックくらい用意できますが」


「無駄遣いは嫌いだ」


「隆久様は面白がっているだけでしょう・・・」


 分かってらっしゃる。確かにボディーガードに何かの焼肉を毒見させてはいるが、そんなに嫌かね?


-------------------------------------------------------------------------


 なんだかんだで食堂にやってきた俺とボディーガード一行。食堂に入り適当な席に着く。


[いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ]


 機械的な音声が聞こえてくる。これは各テーブルごとに備え付けられた小型の液晶画面から聞こえてくるものだ。


 無駄に金がかかっている。耐水仕様だし埋め込んであるしタッチパネル搭載だし。


[隆久様は裏メニューがごらんになれますが、いかがなさいますか?]


「低額裏メニュー『天才と紙一重の闇鍋(50円)』をお願いします」


[かしこまりました。ボディーガードの皆様も同じものをお持ちいたします]


 それにしても最新のAI技術はすごいな。顔認識までできるとは・・・。


「隆久様、その『天才と紙一重の闇鍋』とはどんなものなのでしょうか?」


「馬鹿みたいなものを闇鍋に入れるんだよ。もちろんポテチとかマシュマロはデフォで入ってる。稀に本当においしいものが出てくるが、やばい時は吐きそうになるくらいだな」


 もちろん毒見はボディーガードに頼むが、死にはしないだろう。前回食べさせたボディーガードは吐いたが、毒が入っていたわけではない。大丈夫だ、問題ない。


「私はそこはかとなく不安になるのですが、隆久様は不安にはならないのですか?」


「もちろん君達に毒見をしてもらうから問題ないよ」


「そ、そうですか・・・」


 ボディーガードの不安をあおる話をしているうちに料理がやってきた。ここの料理人は値段ごとに料理する料理人が違う。もちろんまずいものなら即解雇されるのだが、低額裏メニューの料理人は毒を作らない限り解雇されない。


 料理を運んできたのはその料理人で、顔にはニヤニヤとした笑みを貼り付けている。この顔の時はものすごいものができた時だ。()()()()()()、が付くのだが・・・。


「こちら、『天才と紙一重の闇鍋』3人前です。代金はいつも通り口座からの引き落としでよろしいですか?」


「ども~、いつも通りでよろしく」


「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 踵を返してゆっくりと去っていく。ふとまわりを見渡してみるとこの席から5個分は離れた席に全員座っていた。まるでモーゼのようだ。


 気を取り直して蓋を開けてみるとものすごい匂いが漂ってくる。この匂いだけで気絶しそうだ。


「こ、これはなんともカレーと唐辛子とフレンチトーストと焼きマシュマロとコンソメスープと焼きマヨネーズと・・・とにかく色々な匂いを足して2で割った匂いのようですね」


「正直この匂いは初めてだ。悪いが2人共味見を頼む」


「はい」


「うっ・・・わかりましたぁ・・・」


 片方は先ほどまで黙々と横に控えていた方。もう片方はさっきから喋っていた女性の方だ。


 2人を椅子に座らせると、3つの鍋すべてを押しやる。


 2人共そろそろと口に運ぶと、ままよ!という雰囲気で放り込む。途端に体が跳ねる、毒!?


「「びょーーーーー!!」」


 奇声を発しながらのどを押さえる2人。あわてて水を飲ませると、息を荒くしながら感想を告げてきた。


「はぁ・・・ふぅ・・・そうですね、米がたったご飯と芯のあるご飯を同時に食べたような感覚と、ジョロキアと大量の砂糖を一緒に食べたような味と」


「美味しい!と思ったら苦くなったり、すっぱい!と思ったら不味くなったり」


 毒ではない、ようだが・・・。


「よし、これは1人ずつ食べよう。やばくなったらすぐに水を飲ませるんだ」


「はい!水を大量に用意してまいります」


「私は医者を呼んできます!」


 パッと退散する2人。10分後には万全の状態が整った。


 テーブルは俺とボディーガード2人が席についている。そのまわりをぐるっと囲むように医師や大量の2リットルのペットボトルに入った水、さらに非番のボディーガードまでいる。


「よし、俺から逝こう」


「「「ご武運を!!!」」」


 その場にいた全員から励ましの言葉を貰いお玉にすくった物を食べる。


「!?」


 体が大きく跳ねる。痛い!痛い!え?快感が・・・痛い!口の中で虫がうじゃうじゃと・・・あれ?トロッとした蜂蜜の味・・・口が爆発した!あ、極上の味が・・・ふぁぁ・・・炭の味がぁぁっぁぁ!!


 そこまで考えたところで水を流し込まれる。ふっと息をつけるようになってから全員を見渡す。


「これは・・・すごいな」


 その場にいた全員が闇鍋を食べては俺と同じ感想を述べていく。


 結局食べ終わったのは5時限目が終了する3分前だった。

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