朝の一幕
※本作品は独断と偏見により書き進めております※
「う・・・う・・・」
体が動かない。
「隆久様、お水でございます」
そばにいたボディーガードの一人がコップを傾けてくる。
「ぷ・・・はぁ・・・」
コクコクと飲んだ後、ゆっくりと意識が覚醒してくる。体の節々が痛いのはなぜだろうか。
「おはよ、いま何時?」
起き上がり、寝ていた場所がソファであったことを思い出して一人納得する。
体の痛みが取れるわけではないのだが、原因が分かってやっと一息つける。
「現在7時半でございます」
この寝床から学校までは徒歩10分ほどだ。元々、高級マンション自体がうちの幼稚園組みから大学までのエスカレーター学校専用に作られたらしいから納得だ。
もちろん駅も新しく増設されているし、タクシー乗り場なんてものまである。生徒以外でもすみたがる者は多い。
「制服の用意と朝食を頼むよ。朝食が先でよろしく」
俺が朝食を用意すると怒られるため、いつも通りに朝食を頼む。
しばらくすると香ばしい匂いと共に焼き魚・きのこの混ぜご飯・お吸い物・ほうれん草のおひたしが出てくる。
「いつも思うんだけどさ」
「なんでしょう隆久様」
「こんな庶民じみた朝食でいいの?俺が頼んだせいだろうけど」
そう、仮にもお坊ちゃまなのだ。庶民然とした生活でよいのだろうか。
「隆久様は次男でございますゆえ、自由に生きていただいてよろしいのではないかと」
「だよなー」
俺は適当に返事を返す振りをしながら自由を勝ち取るために動き出した。
-------------------------------------------------------------------------
朝食を食べ終わり学校へ行く準備をしてもらう。俺は歯磨きを終えてトイレへ入る。
(うはぁ・・・めんどくせぇ)
やっぱりいつ見ても抜け出す穴が無い。協力者を探すなんてことも出来はしないだろう。
(やっぱりアレしかないな)
長すぎると強制的にトイレから出されるのでとりあえずドアを開ける。予想通りトイレのドアの前に一人。
「いつも思うんだけどさ」
「なんでしょう隆久様」
「わざわざドアの前に仁王立ちしなくて良いだろ」
透視能力でもあるのかと言いたくなるが、それは我慢しておこう。本当に会ったらすごく嫌だ。
「いつも同じ質問でいらっしゃいますね、隆久様。貴方が初日に逃げようとしたからでございます」
「うっ・・・」
そうなのだ、初日にトイレ内に監視がついていないのをいい事にドアを開けた瞬間走って逃げたのだ。速攻で捕まったけど。
ちなみにトイレの窓の方は双眼鏡で監視されていた。顔を出して確認したらいたから間違いない。もしかしたらそのせいですぐに捕まったのかもしれない・・・。
「まあそれはおいといて。準備終わったら行こうか」
「今日の授業は1時限目・数学、2時限目・歴史、3時限目・体育、4時限目・生物、5時限目・国語、6時限目・学園祭の準備となっております」
「了解、んじゃ行こうか」
ボディーガードからかばんを受け取ると、家のドアを開けて待っているもう一人のボディーガードがいた。
「異常なしです」
いちいち確認しなくてもいいと思うのだが、確かにドアを開けた瞬間が狙われそうではあるな。
「ご苦労さん」
俺が労いの言葉をかけるとふっと苦笑した気がした、気のせいかも知れないが。
エレベーターに向かっていく途中に警備員数人に会ったので「おはよう」と挨拶しておいた。全員まったく同じポーズで敬礼するだけなのだから異常に怖い光景となっていた。もう慣れたけど。
エレベーター前につくと先客がいた。とてもお嬢様という名前に似つかわしくない活発的な友人だ。
「おーっす」
「おぃーっす!」
俺が挨拶をすると向こうもかなり砕けた調子で挨拶を返してくる。振り返った拍子に赤い髪が流れる。顔立ちは美少女なのだが、いかんせん性格がなぁ・・・。
「なんかひっどいこと考えてる気がするんだけど?」
そして勘も鋭い。身長は俺の鼻ほどの高さで女子としては平均的な身長ではあるが、やはりその顔で上目遣いはやめて欲しい。本気になったらどうしてくれる。
「いやぁ、亜衣はいつも通り可愛いなぁって」
「むー。この天然タラシが!」
いや、天然タラシじゃないよ、腹黒だけど。ちょ、やめて痛い痛い!
「痛いわ!」
俺の脛を蹴り上げてくる亜衣にスコンとチョップをかます。亜衣のボディーガードにすっごい睨まれたが気にしない。
そんなバカをやっているとエレベーターが降りてくる。扉が開くと俺のボディーガードの片方が先に入り異常が無いか確認する。確認が出来ると俺と亜衣が乗り込み、残りのボディーガードが乗り込んでくる。
「さすがに5人いると狭いな」
俺、亜衣、亜衣のボディーガード1人、俺のボディーガード2人で計5人。いや、12人乗りなんだけどね。
「そんなこと言いながらお嬢様の側に行こうとするんじゃないよこのクズ」
亜衣のボディーガードで、3人のうちの1人、コードネーム猫さんが話しかけてきた。
亜衣自身が相当強いのでボディーガードは1人で事足りるらしい。確かに男に腕相撲で勝つ亜衣は怖い。かなり細身なのだがどこにそんな力が隠されているのだろうか。
「嫌だなぁ猫さん。貴方に近寄ろうとしてるんですよ?」
「ひぃっ!」
手をわっしゃわっしゃと胸をもみしだくように動かすと、猫さんが悲鳴を上げながら後ずさる。やばい可愛い。
「隆久様。すぐにその変態的な顔をどうにかしないと危ないですよ」
俺のボディーガードが忠告してくる。何が危ないのだろうか。
「このっ!隆久の変態!よりにもよって猫ちゃんに!」
「ごふっ!がっ!ぐぼぉ!」
腹に膝蹴り、同じ足で後頭部に回し蹴り、逆足で前蹴り。ちょうどエレベーターが開いて俺はそのまま数メートル吹っ飛ぶ。
1階エントランスホールに突然現れた俺にピリッとした殺気が各主人のボディーガードと警備員から放たれるも、俺だと気づくと納得した雰囲気に変わる。
「またか、隆久様は・・・」
「今度は誰に何をやったのか・・・」
「きっとまた無理やりキスをしようと・・・」
「いや、胸をもみしだこうと・・・」
「どちらにせよ最低です・・・」
各々の反応に反論を唱えたくなるが、微妙に当たってる部分があるので何もいえない。
口も体も動かせない俺はエレベーター内部からの全員の蔑んだ視線を感じながら意識を手放した。