残念無念、また来年
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
鏡から目を離して談話室で心を落ち着けていると、ボコボコにされたエディが引きずられてきた。犯人はメリエルだ。
その目には哀愁と後悔と懺悔が漂っている。どう考えてもやりすぎである。
「ん、一応?」
何の反応も示さないメリエルに疑問を覚えながらも曖昧な返事をする。
「ゴメなさごめんさおjgなぃだんlだぅぺぐぁ!」
壊れているエディが地面に放り投げられて、メリエルが走りよってくる。
体中を触れられてくすぐったい。火傷よりも霜焼けのほうが今の俺にとっては怖いのだが・・・。
「良かった・・・大丈夫みたい。とっさにシャワーに気づくなんて流石お兄ちゃんだね!」
にっこりと笑顔が放たれた。至近距離の笑顔!兄の心は釘付けだ!
「ぁあ、うん」
ふいっと目を逸らして心の中でつぶやく。俺はロリコンじゃない!シスコンなんだ!
「ところでお兄ちゃん、この髪と目はどうしたの?」
そして、未だに白と黒が反転した髪と目のことを指摘された。怖がらなかったのはなぜだろうか・・・。
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ようやく説明を終えて、エディが回復をした。お帰りなさい、エディ。
「おそらく力が強すぎたのだろう。そのうち直る」
先ほどの話を盗み聞きしていたらしく、まともな回答を示した。
「そうだ、母さんに言っておかないと。多分属性は水の派生、氷だとおもうって」
ふと思い出した。母さんから宿題を出されていたことを!
メリエルは説明した後に膝の上で寝てしまっている。柔らかな体がとても温かい。カイロのようだ。
メリエルを抱き上げると、目の前の髪が黒く染まっていく。目も治ったのだと推測した。
「エディ、母さんに会いに行って来る。その前にメリエルをベッドに寝かせるから付いていて欲しいんだ」
もちろん娘命のエディは即答して、嬉々としてスキップしながら階段を上がっていった。
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母さんを探して幾千里・・・なんてことは無くダイニングで夕食を作っていた。
「母さん、宿題の答え分かったよ」
「ちょ、っと待ってね」
ガンガンとまな板から轟音が響く。今日の夕食はアレか。
「ふー、どう?」
そこには1センチ大の包丁で砕かれた岩石が見える。確かに良い出来である。
「うん、いい出来だよ。俺の属性は氷だったみたい」
「そう、これで免許皆伝ね。氷に関しては自力で覚えなさい」
薄情な言い方であるが、氷属性なために答えることが出来ないのが本当のところだろう。
それだけ5属性以外のバリエーションが広く、覚えるものが少ないのだ。
「りょーかい、今日の夕食楽しみにしてる。部屋に居るから何かあったら言って」
そう告げて執務室に篭る。いや、ここが寝床なんです!
懐から黒髪の人形を取り出してベッドの脇に置いた。それに魔力を流し込む。
「イザヨイ」
「なんじゃ主殿。告白かの?」
いや、それはない。とは言わない。
「氷の力についてだよ。流時叔父さんは持ってなかったのか?」
流時叔父さんが実は隠し持っていた可能性もあるため聞いてみた。
「残念ながら持っていなかったのじゃ」
残念ながら世界はそんなに甘く無いらしい。
「残念。氷の魔術は分かるか?」
「魔法陣は分からないのじゃ。おそらくはイメージ・言霊・きっかけのどれかなのじゃ。ほれ、試してみ」
手を振って催促される。
いつも思うのだが可愛い容姿にとてつもなくミスマッチな言葉遣いだ。
「じゃあ、まずはイメージから」
目を閉じて、まずは場所の固定。前方50センチ・手の伸ばした先の温度が急激に下がり、氷を作っていく。その氷をゆっくりと大きくして数センチの塊を作り出したとイメージした。
「ダメか」
目の前には何も変化が起こっていない。イメージではなかったらしい。
「んじゃ次、『冷えろ!』『凍れ!』『氷雪!』」
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それから十分ほど。どんなに唱えても氷のこの字も出てこない。
そうなると、あとの一つの可能性。きっかけとなる。
「熱湯を被るのは嫌だなぁ・・・」
むしろそれ以外考えられない。なんて不便な能力なんだ!
「主殿。ドンマイじゃ」
ありがとう、イザヨイ・・・。