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決意の夜、誕生の日

※本作品は独断と偏見により書き進めております※

 夏1の月の27日、今日はメリエルの誕生日だ。


 なんと街の人総出でお祝いするらしい、規模が大きすぎる・・・。メリエルの人気のなせる業でもあるだろうが、エディを畏れてというのもあるのだろう。


 前日まで色々と準備にいそしんでいたから俺とエディに覇気がない。ギルド2階の談話室でテーブルに突っ伏している。


 ちなみにメリエルと母さんはドレスアップのために部屋に篭っているからここにはいない。


「エディ~」


「なんだ~タカ~」


 うわ~、二人ともだれてるなぁ。もちろん俺も含まれているけど。


「いまから話す事はみんなに聞こえない~?」


「ん・・・ああ、大丈夫だ」


 エディは目を閉じて気配を探る。これに対抗するのはBランクの最上位以上が本気で隠れない限り無理だろう。


 了承の言葉をもらって聞くことにした。


「ふぅ・・・どこの学校に行くことになってるんだ?」


 起きて姿勢を正す。エディも真剣な話しだと分かるなり姿勢を正した。


「軍事国家ウルジア帝国、首都ベリアスの学校だ。現国王がちょっとした知り合いでな、無理を聞いてもらった。黒髪黒眼も少なからずいるから目立たないだろう。それに・・・あそこは実力主義だ、年齢関係なく入学できるからな」


 そう、首都ベリアスの学校べネディー総合学園。闘技・魔術・商術・各分野の技術と、護身術・戦術などを教えている。


 護身術・戦術などは必須で、闘技・魔術・商術・各分野の技術から1つ以上を専攻して受ける。


 3年制の学校ではあるが、1年に1度下位の学年から上位の学年へ専攻している学科で勝負を申し込むことが出来る。


 勝てば学年が一つ繰り上がる。2年生は1年生に負ければ3年への挑戦権を失う。3年はペナルティはない。成功すれば2年で卒業できるシステムだ。もちろんテストでダメなら留年もありえるが。


 戦う相手はくじ引きで決めるため運や裏工作も実力のうちという実践主義ッぷりだ。


「姓はガレシアのままでいい。入学も国王が手を回して決まっている。護衛は任せたぞ、死ぬ気でメリエルを護ってくれ」


「どこまでもメリエルか。そういうところが好きだぜエディ」


 娘愛はいっそ清清しいまでだ。メリエルはエディが生きているうちに結婚できるのだろうか?


「それだけじゃないが・・・、いずれ分かるだろう。この話はこれで終わりだ」


 言ったと同時に立ち上がる。俺はそれを怪訝な目で見つめること数十秒。


 俺の気配の探知範囲にようやく引っかかった気配で気づく。いや、エディ化け物だろ。


 後ろを振り返ると、階段の奥からかしましい声が聞こえてくる。


 メリエルと母さんと着付けを手伝っていた冒険者が階段を下りてくると、メリエルが走りよってくる。


「お兄ちゃ~ん!」


 たたたた・・・・ぴょーんと飛び込んでくる。うん、文字通り飛んだ。


 俺はしっかりとメリエルを受け止めて抱き上げる。もちろん服が汚れないように慎重にだ。


 後ろからの殺気がいつも通り怖い。怖いのだがメリエルに悲しそうな顔をされるよりはマシだ!


「メリエル、ドレス似合っているよ」


 頭を撫でながら褒める。嬉しそうにはしゃぐメリエルと戯れていると、エディが土下座をしているところを発見した。


「エディのバカ・・・」


 母さんが褒めてもらえなかったことにいじけて壁にのの字を書いている。エディ、ドンマイ。


 土下座で必死に母さんを煽てているのを横目に、ギルドを出てパーティー会場へと向かった。


-------------------------------------------------------------------------


 メリエルを降ろして手をつないで歩く。


 会場はギルドの目の前にある、要するに学校なのだが・・・。


「いや、今日は学校あるんじゃないのかよ」


 平民学校、戦闘は教えていない上に勉強も生活知識や単純な計算など。小学校のようなものだ。


 メリエルもここに入る予定だったのだが、ギルドマスターの娘だということでかなり恐縮してしまったらしい。


 特別扱いさせて色々と問題を起こすよりは自分達で教育しようと思ったとのこと。


「パーティーの準備完璧・・・」


 昨日は普通に学校があった場所に色とりどりの花束や料理、高級そうな絵画やメリエルの銅像などなど。正直やりすぎだ。


「どれだけ金かけてるんだ!俺の事は注意したくせに!」


 理不尽な思いにとらわれて叫ぶ。メリエルは毎度のことに平然としていたものの、まわりはそうは行かなかったらしい。


「メ、メリエル様!」


「相変わらず可愛らしい顔!愛くるしい顔!」


「遠くから愛でることこそ至高!近づけばその炎で焼かれてしまう!」


 一切俺に注視することなくもだえる大人たち。『メリエル様親衛隊』のようだ。


 俺はメリエルの手を引いて壇上に上がる。途端に上がる歓声、そして拍手。


「「「メリエル(様)(ちゃん)、お誕生日おめでとうございます!」」」


 当の両親を置いて誕生パーティーは開始された。


-------------------------------------------------------------------------


「それでは、改めてメリエル様の健やかな成長を祝って・・・カンパイ!」


 メリエルを魚に盛り上がる宴会組。


「メリエル様、はぁはぁ」


「メリエルぅぅぅ~~~」


 『メリエル様親衛隊』とそれに囲まれているエディ。


「うま!これうっま!」


「美味しいです~」


 一心不乱に食事を食べている冒険者。


「うふふふ」


「お母様、お父様は?」


 そして我らが家族。


「子供がいない・・・」


 そう、同世代の子供がいないのだ。理由は大体想像ついてはいるが・・・。


「エディが招待状を送ってないわね。女の子達には送ってたみたいだけれど・・・」


 来ていない。この雰囲気には来づらいよなぁ・・・。


「仕方ないでしょう。メリエル」


「お兄ちゃん。これは?」


 俺はきちんと包装された例のプレゼントを渡す。


「メリエルにプレゼント。開けてみて?」


 微笑みながらメリエルの手に持たせる。


 メリエルは少々の驚きとはにかみを混ぜた表情でゆっくりと包装を解いていく。


「気に入ってくれると嬉しいな」


 解きおわったネックレスをしげしげと見つめるメリエル。ひとつ頷くと満面の笑みを向けてくれる。


「つけるよ。おいで」


 俺はメリエルのわきに手を差し込んで持ち上げる。


 ひざの上に向かい合わせに座らせると、メリエルの顔が真っ赤に染まる。


 これはいくら家族でも恥ずかしいだろう。我慢してもらうしかない。


 ネックレスを受け取り、両端を持って両手を首に回す。


 髪をすくいあげて小さな、それでいて白いうなじを露出させると、メリエルは体をよじる。


 しっかりとネックレスを固定して長さを調節する。終わると手を離してメリエルを見る。


「ちょっと大人っぽくなっちゃったか・・・。でも似合ってる」


 俺がそう断言して周りを見ると、いつの間にか静寂に包まれていた。


 その後にひと悶着ありながらも(主にエディと)盛大なパーティーは夜まで続いた。


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「よしょっと」


 メリエルを背に負ぶって歩く。エディと母さんはこの後の片づけが残っている。


 メリエルの笑顔がとても可愛くて、いつまでも護ってあげたくて。


 兄としてこの笑顔だけは崩さないように、零れ落ちないように。


 ゆっくりと歩く。メリエルが起きないように。


 そして囁く。聞いてないだろう事が少し残念だが。


「いつでも、いつまでも守るよ。メリエルをたくせる人が現れるまで、そして現れた後も」


 だからこそエディには勝たなければいけない。エディよりも強いものから守るために。


 決意の夜。メリエルを寝室に届けるとその眠りを妨げないようにベッドに腰掛ける。


 その寝顔を見守りながらもう1人の護る者、エディを待ち続けた。

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