息抜き・後編
※本作品は独断と偏見により書き進めております※
市場には果物や野菜、魚や魔獣の肉などの食品類。
露天には生活雑貨やアクセサリー、骨董品などの物品。
それぞれ住み分けながら出店しているようだ。
そんな中でも目を見張ったのは小さな人形だった。
職人の腕がよく分かるくらいの細部まで施された塗り。徹底された削り。中でも目を見張るのは漆黒の瞳。
それは深く深く吸い込まれるような瞳で、それでいて生気を失っていない。
「おじさん、これいくらですか?」
思わず手が出てしまうのも仕方の無いことだろう。
「お兄ちゃん、これ買うの?」
震えながらしがみついてくるメリエル。ごめん、俺は直感だけは信じているんだ。
怖がっているメリエルをエディに預けて先に行かせる。
「おーう、不気味で誰にも売れなくてな。いまなら別のモン買ってってくれりゃただで譲ってやるぜ」
「それならそこのネックレス下さい」
そちらも手のかかった品であろう、よく見ればかなりの出来だと断言できる。
華美な装飾は無いが、白銀の花びらがいくつも重なって出来ていた。
「あいよ、金貨3枚だ」
ネックレスならこのくらいが相場だろう。ためらいもせずに払う。
「俺が作ったんだが、高くて売れなくてな。また会えたら買ってくれや」
目の前のおっさんに言われて頷く。このおっさんが作ったのか、似合わないな!
酷いことを思いつつもネックレスはきちんと包んでもらい、紙袋にいれて上着の内ポケットにしまう。
人形はズボンのポケットに突っ込み、エディたちをを追って市場を進んでいった。
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幸いにもメリエルをすぐに見つけた。ただでさえ大きいエディの頭に乗っているメリエルは目立つ。その容貌とあいまって存在感はさらに引き立てられている。
後姿を追っていくとそこには確かな『家族』の形があって、俺は声をかけるのを躊躇してしまう。
さっきはメリエルの今後のためにもエディにきつく言ったが、俺の予想通りならきっと今後の分までメリエルを可愛がっているのだろう。
そんな家族を邪魔しないために、ゆっくりと気づかれないようについていく。
なぜなら12歳のメリエルと17歳の俺が一緒に通える学校なんて大陸に一つしかないのだから。
ふと意識を戻すと、こちらをじっと見つめているメリエル。
エディと母さんもそれに気づいて振り返ってくる。
3人共こちらに歩み寄ってくる。ああ、僕はここにいてもいいのだろうか。
既に出来上がっている形に新しいものが入る。
良くも悪くもその場所は変わっていく。
俺をこの中に入れてくれるならどうか、神様。いい方向に変わって欲しいです。
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夕食後、今日家族で出かけられたことがよほど嬉しかったのか、メリエルのはしゃぎぶりはすごかった。
ようやくメリエルが寝付いた後、俺はどんなものを買ったのか聞かれ、正直に話すと怒られた。
「ネックレスに3金貨も使うやつがあるか!稼ぎを全部使うな!」
「いや、本当にいいものなんだって。メリエルへのプレゼントに安物なんてエディが許しても俺は許さないよ」
俺はエディを付き添わせて、クエストをクリアして賃金を貰っていた。俺の記憶力と直感がうまく働き、ギルドの低ランク任務用の薬草の在庫がすべて埋まってしまった。
まあ時期が被って無いから低ランクはほとんどこの都市にはいないから、恨まれる心配はしないですんだ。
ちなみに薬草は根っこさえ取らなければまた生えてくるらしい。根っこのほうが効果はあるんだけど、低ランクは葉で十分だ。
「だからと言って使いすぎだ。もうすこし勉強が必要なようだな、レミィ頼む」
「わかったわエディ。タカ、行きましょうか?」
この後、世間一般の常識を叩き込まれた俺はようやく世間一般の物の価値を知ることとなるのだった。
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朝の1時、ようやく解放された俺は新しく引かれたシーツの上にうつぶせでベッドにつっぷす。
「主殿、つかれておるようじゃの」
「ああ」
「肩でも揉んで差し上げようかの?」
「ああ」
肩に重力を感じ、ふにふにとした感触が肌を撫でる。
ふと先ほどからの声に疑問を感じ、視線を肩の辺りへと移動させる。
黒髪黒瞳の手のひらサイズの人形が動いていた。
「ぇ゛」
いや、落ち着け俺。
もう一度深呼吸をして視線を肩の辺りへ。
「うん・・・しょ」
生気の宿った黒い瞳、手のひらサイズの人形が・・・。
「夢・・・か・・・」
納得した俺はすぐに思考を放棄する。これ以上考えちゃダメだ、頭がもたない。
「夢じゃとは失礼な、これでもれっきとした魔具なのじゃよ!」
魔具か、それなら理解も出来る。だが・・・。
「魔力は?」
そう、魔具の発動には魔力の供給が不可欠。しかもその属性を発動できないと発動しないという厄介なものが魔具だ。
あの棍も魔具なのだが、その場にいたギルド員やエディ、メリエル、レミリィなどが魔力を流しても使えなかった。
言わずもがな、俺も発動させることは出来なかった。色的に光だと思うんだ。
つまり、彼女(?)は外見からしてもおそらくは・・・。
「さっきの人形が魔具だったわけ?」
そう、それ以外にはありえないのだ。大穴としてネックレスが、という可能性もなきしにもあらずだが。
「そうじゃ!我はリュージの案内役だったこともあるのじゃぞ」
「え?流時叔父さんの?」
それは驚いた。流時さんなら持って帰りそうだから。
「うむ、しかし流時は我が動けなくなるからと連れて行かなかったのじゃ!納得いかないのじゃ!」
「なるほどね、俺は流時叔父さんの甥の隆久って言うんだ。君の名前は?」
肩から手のひらにのせて聞いてみる。昔の流時叔父さんを知っている数少ない1人だ。それにエディたちが何の反応を示さなかったのが気になる。
「我はイザヨイ。タカヒサよ、よろしく頼む」
挨拶を交わし、指と手をくっつけて握手をする。
「我の言葉はリュージやその同郷の者にしか聞こえんのじゃ。うっかりと我に話しすぎると痛い子になるから気をつけるのじゃな」
「ホッホッホ」と老師のような口調で笑う。
「話す時は小声で聞こえないようにの。我は異界の魔力で発動する魔具。他にはない特殊な力があるのじゃ」
しっかりと胸を張る。胸ないけど。
「一つの属性の魔法を溜め込み放出することが出来るのじゃ。水道を開発するまでリュージは生活水として使用しておったの」
「じゃあ、俺もしばらくはそうするよ」
悪いがとにかく俺は疲れてるんだ。できれば明日にしてくれ。
「仕方ない、そろそろ魔力が切れるのじゃ。明日になったらまた魔力を流すのじゃぞ!」
説明はおいて置いてくれ、俺はしっかりと睡眠を取るんだ!体が持たない!
決心した俺は、朦朧とした意識をゆっくりとまどろみの中へと沈めていった。
文字数が徐々に減っていることに皆さんお気づきでしょうか?
そして描写も日々下手になっていくという・・・。