息抜き・前編
※本作品は独断と偏見により書き進めております※
訓練もそれなりに進んできたある日、メリエルの誕生日が近づいてきたことに気づいた俺は、メリエルの誕生日プレゼントを買いたいとエディに相談してみることにした。
相談を持ちかけるとエディはメリエルの反応をみて決めればいいと言い、家族総出で露天へと繰り出すこととなった。
「エディ・・・ここ進むのか?」
東通りの状況を見ながらも右隣に立っているエディに話かける。
俺は迷子にならないようにと渡された地図を右手に持ち、左手をメリエルとつないで呆然とつっ立っている。
目の前には大変賑わっているようでなによりな露天。
オークション形式で落札される声が響く。それを見守る野次馬達。はっきり言うと邪魔。
「これ、はぐれると思うんだけど」
人込みがすごい。この中に入ったらメリエルや俺は瞬間的にあらぬ方向へ行ってしまうだろう。
「そういえば今日は商人が来ていたな。新商品が入荷したとか言っていたようなきがしないでもない」
胸を張って言うことじゃないし、そこは覚えとこうよ!新商品、少し見てみたいがこの人込みに飛び込む勇気はない。
「先に服屋へ行こう、エディ」
メリエルが不安げな表情をしていたので、地図をしまってあいた右手で頭を撫でてやる。
すこし身をよじりながらも逃げ出さないので、思う存分撫で続ける。恨みがましい視線を感じるが無視無視。
「その手を離せ!そこに触っていいのは俺だけだ!さっさと服屋に行くぞ」
ガバァッとメリエルに覆いかぶさると、こちらを睨みつけて威嚇してくる。
その目に怯みながらも目を逸らさずに睨み返す。そのまま数十秒睨みあっていると邪魔が入った。
突然エディの顔の前に出現した母さんが手を振った瞬間、エディの体が崩れ落ちた。
目を丸くして驚きつつもよく見ると、その口の中には虹色に染まった粘体生物がうねっている。母さんやばい!!鬼だ!
その粘体生物はスライム、その中でも絶望的な味を持つ【スライム・レインボウ】という種だ。
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【スライム・レインボウ】種族:魔物
手のひらサイズの虹色の模様を持つスライム。スライムは繁殖能力が高いものの、彼らは繁殖能力を一切持たない。
いつ生まれたのかは謎に包まれており、スライムの突然変異だと言われている。
火・風・水・土・雷の属性攻撃を同時に与えることのみでしか倒せない。
攻撃力は皆無、魔法も使えないため害は無いが、味は絶望的。
食すことで3日ほど寝込むが、魔力を持った人間は上記属性との相性が極微上昇する。
3日間の間にスライム・レインボウは気体となり、体から虹色の光が立ち上る。一定量で再度スライム化する。
弱点:なし
属性:火・風・水・土・雷
討伐ランク:D以上推奨
(ギルド書庫・魔物図鑑より抜粋)
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俺はあわててエディの口の中から【スライム・レインボウ】をかき出す。
少量食べてしまったのか気絶したままのエディを引きずって服屋へと向かうことにした。
2メートル近いおっさんが引きずられて大通りを進む。それがエディだと気づくと、爆笑するもの半分、驚くもの半分、そして少量の哀れみの視線がエディと俺達を貫いていく。
結局、エディは母さんとメリエルのファッションショーが終わる頃に気を取り戻して、ファッションショーを見られなかったことで再度『動かないエディ』状態になってしまったので路上放置して宿屋に向かった。
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この街には食堂が宿屋と兼業しているらしい。
宿屋へと向かった俺達はカウンターにいる愛想のいい『お姉さん』に食事だけという旨を告げ、食堂へと向かう。
テーブルにつき注文をとろうとすると、外から腹に響く音が聞こえてくる
「・・・ぇ・・ぃ・・ぇ・・ぅ・・・・・メェ~リィ~エェ~ルゥ~~~!!」
「ズドドドドドド、バーン!」とくぐもった音から喧しい音へと変わる。その音に負けないほどのエディの叫び声は近所迷惑である。
案の定全員から非難の視線を向けられたエディは、ばつの悪い顔をしながらこちらに近づいてきた。
「(なぜ俺を置いていったんだ!)」
エディが俺に囁いてくる。小声であるところを見ると常識はわきまえているようだ。
「だって父さんが動かないから」
ニコッと満面の笑顔を貼り付けながら毒を吐く。エディが「うっ」と詰まるなりさらに言葉を畳み掛ける。
「大体さ、この間メリエルに攻撃を当てられたからって八つ当たりで俺の意識が朦朧とするまで訓練という名のイジメをする父さんに何を遠慮する必要があるのかな?それにメリエルが好きだからっていちいち暑苦しくかまってるからメリエルに引かれるんだよ?(しかも母さんをないがしろにしてるせいで母さんの訓練まで厳しいし本当にどうにかしてよ。父さんそのうち刺されるんじゃない?)。第一、その言動のせいで他の人たちから奇異の目で見られるこっちの身にもなってほしいよ」
一気に言い切り最後にため息をつくと、俺は注文にきた『お姉さん』にスパゲティらしきものとスープ、サラダを2人分頼む。
メリエルと母さんもそれぞれ注文をすると、虚ろな目をしたエディをスルーして厨房へと消えた。
復活する見込みの無いエディを放っておいて食事を取る。一家団欒を大黒柱なしで行う偉業を成し遂げた後でエディを見る。
食事を取り終わった俺達に対し、麺の1本1本をゆっくりとすすっているエディ。見かねた母さんがフォークを奪い取ると食べさせ始める。
俺が呆れながら見ていると、エディは涙を流しながら母さんに甘えていた。「あーん」とか「もっと」とか子供には目の毒だ。
メリエルが毒されないうちに『お姉さん』に頼んで席を移してもらい、メリエルと2人で遊ぶ。あやとりを教えたりトランプで遊んだり手遊びをしたり。
数十分はそうしていただろうか。結局は宿屋の『お姉さん』が止めるまで夫婦のイチャイチャは続いていた。
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そんなこんながあり、ようやくメインの露天や市場がある東通りにたどり着いた。
新商品とやらが売り切れたのか、先ほどの人込みは見る影もない。
とは言ってもそれになりに人は多く、下手をしたら迷子になってしまうだろう。
先ほどの服屋でメリエルの好みは把握したため、服を送ってもいいだろうと思っていた。
気楽に構えつつもメリエルの反応を注視する。先ほどとは違いエディの頭に乗っているため、見上げる形になる。
エディとメリエルの意見を合わせた結果、肩車といういかにも『親子』な形として楽しんでいるようだ。
肩車をすることが決定して、ワンピースから服屋で買ったフードつきのパーカーに短パンという衣装に身を包んだメリエルはどこからどう見ても美少女だ。
エディは男の子に見えるように買い揃えたようだが、どう考えても可愛らしい美少女にしか見えない。
ちなみに俺は母さんとエディに挟まれていて、少し恥ずかしい。先ほどとは打って変わって生暖かい視線がガレシア一家に注がれる。
暖かい雰囲気を保ったまま俺達は人込みにまぎれていった。
休みの日というのを書こう!と張り切ったはいいものの、いざ書くとなると難しいですね。