夢の中で話すこと
※本作品は独断と偏見により書き進めております※
ふわふわと、ふわふわと漂う体。
存在があやふやで、意識もあやふやで。
そんな中で声が聞こえてくる。
「・・・ぃ・・・ろ」
「ぉ・・・ぉ・・・」
「ぉ・・ぃ・・き・」
「おーい、起きろ」
ゆっくりと脳が覚醒して目の前の光景を映し出す。
黒い髪に黒い瞳、心配そうな顔をした流時叔父さんがうっすらと光りながらそこにいた。
「流時叔父さん。お久しぶりです」
久しぶりの再開にもかかわらず態度を変えずに挨拶する俺。だって流時さんだし。
「久しぶりだな、そっちの世界はどうだ?」
「そっちの世界って・・・ここどこですか?」
完全に脳が覚醒して当たりが暗い闇に包まれていることに気づく。よく見ると俺の体もうすい光りを放っていた。
暗い闇に包まれているのに不思議と恐怖感を抱かない。温かい暗さとでも表現するといいのだろうか。
「夢の中、だな。具体的に言うと僕の夢に隆久を連れてきた」
そういわれても特に疑問を抱かない。なぜかって?だって流時さんだし。
「実はなぁ、あれ発動させるの10年ごとに1回だからあと10年は戻ってこれないんだよ」
「は?」
気まずそうに言う流時さんの言葉は俺の頭が正しく翻訳してくれていないようだ。
いや、落ち着け。流時さんはこんな時に冗談を言う人じゃない。いや、・・・10年戻れないってどういうことさ!あれ仕掛けたの流時さんだったのか!
「簡潔に言うとあと10年はそこから戻れない。ついでにそっちで彼女でも見つけてつれて来い」
「えっと・・・まあわかりましたけど、他の方法で戻れないんですか?」
仕方ないか、どうせ身を隠して逃げるつもりだったし。こっちにいる間に信彦が跡を継ぐだろ。
彼女云々は出会い次第かな・・・。そういえば亜衣はどうしたんだろう。
「隆久の魔力と僕の魔力を引き合わせれば1年に1度だけ物を送ることは出来るかも。だけど人間を運べるのは魔力がこちらの世界に通じやすい日だけなんだよね。圧倒的に魔力が足りない」
つまり10年に1度だけそちらの世界とこちらの世界の位置が近づく、という感じか。
「ちなみに夢でならいつでも会えるから。睡眠状態の精神はこちらもそちらもほぼ同じ位置にあるらしいよ。それでも双方ともかなり魔力が無いと会えないけど」
さびしそうに笑う流時さん。おそらくはエディさんや他の仲間のことを言っているのだろう。
「エディさんは元気ですよ。毎年、流時さんのいなくなった日にダンジョンの隠し部屋に行っていたみたいです」
これはメリエル自慢の時に「メリエルの可愛らしさを毎年報告に行ってたんだぜ」と言っていたから確定だろ。
「そっか」と苦笑いを浮かべる。悲しそうな表情をするが、それも一瞬だけのこと。
「そういえばロリコン君にはあった?」
「え?」
あれ、いま変な単語を聴いた気がする。幻聴だと信じたい。
「その様子だとまだかな、エディだけでも会えたならよしとしよう。また準備が出来たら呼ぶから、またね」
「あ、はい。そっちの学校の方はどうなってるか分かりますか?」
ダメもとで聞いてみる。知らない可能性が高い。
「亜衣さんはショックで休んでるみたいだね。復活するのにもうちょっと時間かかると思う。学校には信彦くんが罰として代わりに通うことになったよ、いわゆる替え玉作戦だね。義姉さんは爆笑してたみたい。兄さんは前から予想はしてたみたいで、根回しはもうすんでたよ。僕も知ったのは兄さんに聞いてからだし。異世界に行ったことを知っているのは兄さん、義姉さん、僕、ジュリアだけかな、亜衣さんと信彦くんにももしかしたら教えるかもしれない」
なるほど。亜衣は少し心配だけど大丈夫かな。
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ。魔力通信は切るけど、しばらくしたらまた夢の中に呼ぶからその時に説明するね。いまはちょっと時間がないんだ、じゃあまた!」
急いでいる時に一方的に喋って帰る癖は相変わらずだな、と流時さんのまねをして苦笑した。父親似の俺には似合わないかもしれない。
そのままゆっくりと意識は眠りに落ちていった。
-------------------------------------------------------------------------
朝、窓から差し込んでくる光を感じながら目を覚ます。叔父さんは相変わらずだなと向こうの世界を想う。
亜衣、僕は君を好きなわけじゃなかったんだ。確かに最後は君のことが好きになりかけていたけど、恋にまでは至らなかった。はじめてまでは奪わなかったから許して欲しい。
どちらに頭を下げればいいのか分からなかったから窓から外を見つめて土下座する。
たっぷりと数十秒の間、頭を下げ続けた俺は少しだけ軽くなった罪悪感を抱えて次の人物に思いを馳せる。
クラスメイトのみんな、ごめん。信彦とうまくやってくれ。
兄貴、しっかりと俺の代わりを務めてくれよ!運動能力はそれなり、頭は馬鹿にしておいてくれ!弄りキャラ認定とかされるんじゃないぞ!
母さん、笑うのは酷いと想う。俺が不幸になると爆笑するのは本当に酷い。幸せになってその顔を驚きに染めてやる!
流時叔父さんは本当にすごい。元の世界に戻るほかの方法は、あの人でも無理なくらいだからきっと神様とかでも難しいんだろう。
馬鹿親父、いつも張り合ってばかりだったけど尊敬はしてたんだ。どうも兄貴に跡をつがせる気がないようだったし、今回のことも都合が良かったと解釈しておくのが無難だろう。出来上がった会社をついでも面白くないじゃないか。それに多分・・・いや、これは誰も気づいてないだろうし言わない方がいいだろう。馬鹿親父の驚く顔も見てみたいし、な。
一部ニヤニヤと笑いながらも、ひとしきりお別れの言葉を送って心を切り替える。永遠の別れではないもののしばらく会えないだろうし、引きずっても仕方が無い。
昨日の『メリエル!最愛の娘』談義で聞いた話だが、メリエルは魔獣と純人間のハーフ、つまり亜人間らしい。背中が鱗に覆われていると言っていた。
亜人間や魔獣は魔人間にものすごく嫌われていて、冒険者の間は比較的ではあるが理解があるもののガディア神国では迫害の対象だとか。ダンジョンに連れて行かなかったのもそのせいだと言っていた。
他の国の魔人間にも嫌われてはいるが、ガディア神国は拉致・監禁・陵辱・暴力・奴隷化・殺害・売買のすべてが許されていて、横行しているようだ。
また例外はあり、純人間・魔人間の奴隷・使い魔(魔獣のみ)の場合は手出ししてはいけないという規律がある。破った場合は奴隷・使い魔の『隷属跡』と呼ばれる印から致死性の電流が放たれる上に運良く生き残っても主人が自由に処罰を出来るそうだ。
『隷属跡』とは奴隷や使い魔につけられる魔法陣の一種で、首の後ろに刻まれる魔法陣だ。刻まれた者の魔力を吸い取り常時起動させる。純人間・亜人間の魔力を持たない者には効果がないらしい。
奴隷は殺し・自殺以外の命令に従わない場合に全身に激しい痺れと痛みを与える。
使い魔は自殺以外の命令に従わない場合は、その・・・体中が敏感になるとか・・・。
流時さんも奴隷制度は廃止させようと動いたらしい。殺しの禁止とガディア神国以外での奴隷化・売買の禁止をさせるところまでしか出来なかったとか。そこまでできれば純粋にすごいとおもう。
話が逸れてしまった。昨日の『メリエル!最愛の娘』談義の最後にこちらの常識をまとめた資料を渡してくれると言っていたし、少し楽しみだ。活字を読むのはこれで結構好きなんだよね。
11月4日集計(1日)
PV999、ユニーク204
1000に届かず!珍しいので乗せてみました。