我が家
※本作品は独断と偏見により書き進めております※
2人はひとしきりイチャイチャとキスしたりお互いの手を取り合ったり額をあわせてなにやら囁きあった後、雰囲気が変わる。
さきほどまでの甘ったるい空気と違い、ピンと張り詰めたような空気。茶化しは許されない。
2人は俺を連れ立って建物の中に入る。外から見た限り、3階建ての建物だ。
3階には人が1人もいないように静まり返っている。4つほどのドアがあり、中を見るまでもなく進んでいく。
階段を下りて2階につくと、そこは広い談話室のようになっていて、20人近くの武装した人間たちがたむろしていた。
彼らは2人の姿を確認すると、急に立ち上がり敬礼した。
「「「マスター!お帰りなさいませ!」」」
全員が声をそろえていうさまは圧巻と言えるだろう。俺は迫力に気おされて後ずさりする。
「ただいま戻った。メリエルはどこにいる?」
「はっ!ここに」
エディの重苦しい声音に1人が答えて人垣が割れる。中から金髪でエメラルドグリーンの目をした少女が現れる。
メリエルと呼ばれた少女はその場にいた人間たちの腰の高さほどで、とても可愛らしい。メリエルは突然の空気に戸惑っているのかおろおろとしている。
数秒ほどの時間がたった時、メリエルはこちらの姿に気づいたのか、とてとてと走りよってくる。
「お父様、お母様、お帰りなさい」
愛くるしい笑顔で首を傾けながら走ってくる様に周りの人間たちは見惚れているようだ。
「メリエル!」
エディがしゃがんで手を伸ばす。そのまま飛び込めば温かい家族の光景になっただろう、しかし。
「お母様~」
しゃがみこんだエディを見事なスルースキルで流してレミリィさんに抱きつくメリエル。
レミリィさんはメリエルを抱き上げて頭を撫でながら何事か囁いている。その横でしゃがみこんだまま泣き崩れているエディ。
そんなエディの肩を叩きながら慰めの言葉をかける周りの人たち。置いていかれている隆久は呆然とフリーズしていた。
「メリエル・・・なぜ飛び込んでこないんだ・・・」
「お父様はゴツゴツしてるから嫌っ!」
さらに追い討ちをかけるメリエルに絶望の表情を浮かべるエディ、子供ゆえの残酷さにひどい心の傷を負ったようだ。
いつの間にか張り詰めていた空気は消えていた。ようやく動き出した隆久は少しの緊張と多大な焦りによりテンパっていたが、状況の把握に動き出していた。
「彼女とこの武装した危ない人たちのご関係は?」
真っ白に燃え尽きて今にも吹き飛びそうなエディは役に立たないのでレミリィさんに聞いてみる。
「この子は私達の娘で、竜のメリエル。武装した人たちは冒険者で、エディが『メリエルの守護及び遊び相手』の依頼を張り出したみたい」
依頼でやっていたのか。彼らの様子からはとてもそうは見えないけど。
「4人までの女性限定のDランク依頼だったのだけど、どうしてこうなったのかしら」
俺の疑問の声を待たずにレミリィさんは答えてくれる。顔に出ていたのだろうか?
ふとエディのほうを見るとようやく復活したようだ。
「お前ら、よくやってくれた。だが男も居るとはどういうことだ?」
鋭い目つきで男の冒険者を見渡す。確かに半数ほどは男で構成されていた。
「「「我々『メリエル様親衛隊』はメリエル様をいつまでも守る存在であります!我々の規律は触れずに護り愛でる事!一切メリエル様には触れていません」」」
「噂の『メリエル様親衛隊』か。よくやってくれた。これからも頼む」
エディは彼らと固く握手を交わしてメリエルの可愛さについて語り合っている。
噂の、がどの程度の噂なのか怖くて聞けないものの、エディのあの迫力を相手にして堂々と言い切れるのだから触れてすらいないのだろう。
心配する気持ちはとてもわかる。ロリコン趣味のない俺から見ても十分に可愛らしい。
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事態が落ち着くまで2時間をようした。
30分ほどして眠くなったメリエルがレミリィさんと部屋を出て行ったことで『メリエル様親衛隊』の勘と父親の嗅覚でメリエルがいなくなったことを察してパニックになったり、俺が説明して落ち着くまでに数分を要したり、俺にメリエルの可愛さについて懇々と熱弁してきたりといろいろなことがあった。
エディさんがようやく解放してくれた時にはもう日が落ちていて、夕食の時間となりレミリィさんがメリエルと共に食事に呼びにくるところだった。
食事はこの場所の3階でとった。豪華でも質素でもないが、とても家庭的な見た目、味だった。
家族での食事というイメージで、友人やボディーガード達との食事より温かみがあった。もちろん友人やボディーガード達との食事は面白みでは勝っていたが。
この温かさの中で育つのならメリエルも捻くれたりはしないのだろうと少量の羨ましさと共に家族の食事を見ていた。
1階が依頼斡旋・冒険者登録・素材の買取などなど、冒険者ギルドというイメージを表したようだった。もちろんメリエルのために冒険者用の酒場は通りの向かい側に移転したらしい。
2階はご存知の通り談話室となっていて、軽食やお菓子や飲み物が用意されている。汗を流すためのシャワールーム(有料)などもある。
3階はエディ・レミリィ・メリエルの寝室や職場、生活の場であり4つの部屋に分かれていた。登ってきてすぐの右の部屋に夫婦の寝室、左にギルドマスターの執務室。奥の右の部屋が将来のメリエルの部屋で、左がダイニングルームだ。メリエルは今年の誕生日で12歳になり、そろそろ部屋を与える年頃なのだがエディが渋っているらしい。
「それで俺はどこで寝ればいいのでしょうか」
2階に備え付けられたシャワールームから戻ってきたエディに質問を投げかけてみる。
「メリエルの部屋は使わせないぞ」
迫力の視線と共に脅しをかけてくる。それを理解しているから聞いているんだが。
「だろうからどこで寝るのか聞いたんですよ」
俺は顔に手を当てて嘆息する。この娘命の親ばかを止めてくれ。
「執務室に折りたたみのベッドがあるはずだ。それを使え」
少々考えたエディは思い出したように執務室を勧めてくる。もちろん反対はしないが。
「了解です」
それを聞きつけたのか、レミリィさんがメリエルをつれて俺の方に来ると、シーツと温かそうな毛布を渡してくれた。
「ではおやすみなさい」
「ああ、ゆっくり休めよ」
「おやすみなさい、よい夢を」
「ふぅ?おやすみなさぁ・・・」
律儀にもおやすみと返してくれた。こっちにもそういう文化があるのか。そしてメリエル可愛い、ロリコンじゃないぞ!洗脳されただけだ!
俺は多量の感謝を込めながら頭を下げると執務室に入り、意外と整えられていることにびっくりする。執務室と聞いて書類でごちゃごちゃとしていると思っていたのだ。
右奥に折りたたんで収納されているベッドを発見し、引き出してみる。シーツははがされていてきちんと清掃もされているようだ。しかし!
シーツをセットして毛布をかけてさあ寝るぞ!という時に少量の匂いが鼻腔をくすぐる。
何の匂いか気になって吸い込んでみる。エディの汗のにおいと女の人の汗のにおい。頭に浮かんだのは不味い想像。
すぐに頭から追い出して無理やり眠る。羊が285匹になった頃に眠気が襲ってきたため、抗わずに身を任せた。