27話
辺境伯エリック視点
こんな気持ちを引きずったままではいけないと思うのだが、先程の二人の姿が忘れられない。微笑み合いながら歩く二人の姿が。
自分にもこんな感情があるのだなと、初めて思う。
憎しみ合う両親の姿を見て育った私は結婚なんてまやかしだとずっとそう思っていた。
好きになった女性もいたが、付き合ってみると必ず地位やお金が絡んでくる。それを感じた途端冷めてしまうその繰り返しだった。
そんなことを繰り返しているうちに女性に対してなんの感情も持てなくなっていた。筈だったのに。
そういえば、別宅に住んでいる彼女は今迄私の周りにいた貴族令嬢とは随分と違う様だ。
掃除や料理など身の回りの事は全て自分でこなしている。
先日、ランカスターが持ち帰った焼き菓子も手作りだという。とても美味かった。
うちに出入りしている商会が持ってくる菓子よりずっと美味かった。
ランカスターに置いてくる様渡したお金もわざわざ返しに来た。
彼女にはずっと興味があったが未だ一度も会えていない。
いつになったら会ってくれるのだろうか? だがきっと、会ってくれたとしても私の事は怒ったままだろう、いつか和解が出来る日は来るのだろうか?
そんなことを考えながらふと、我に返った。思わず、私は何と優柔不断な男なんだと気がついた。
パン屋の彼女のことを思い、まだ見ぬ妻のことを考え、これでは軽蔑していた父と同じではないのかと自分自身情け無く思った。
今の気持ちのままでは駄目だ、きちんと気持ちを切り離さなくては。
私には歴とした妻がいるのだから。




