第6話 それぞれの思惑
「……で、だ。例の『範囲外の機体』については分かったのかね」
そう、ゴルセットは言う。
「いえ、詳細な事はまだ解析班の情報待ちでありますが、かなりのスナイピング技術があると見ています」
ギリシが、返す。
すると扉の向こうから
『失礼してもよろしいでしょうか?』
と、班長の声がする。
「ああ、構わんぞ」と、ゴルセットが言う。
「失礼します」
と、タブレットを持った班長が一礼をする。
「範囲外の機体の件ですが、特定出来ました」
と班長が言い、タブレットの写真を見せる。
「……この機体、アスベリーゼの主力機では無いな」
ギリシが言うと、班長は頷く。
「『ニベア試作機』と呼ばれる機体で、スナイパー専用で開発された物です。……搭乗者は今現在、まだ解析中です」
「大尉の言う通り、スナイピングに長けていた……か。この状況、どうする」
と、ゴルセットが言う。
「二正面作戦で、ネネントアームの軍本部基地と、他の国を同時に攻めようと思う」
「二箇所同時は、不利な作戦と言われています……大丈夫でしょうか」
班長が不安そうに言う。
「確かに不利な作戦ではあるが、ネネントアームの軍基地を制圧する訳ではない。あくまでも、シロヴィンやニベア試作機を出させないようにする為だ」
ギリシはそう返す。
「彼の意見には一理ある。それで、作戦時に狙う国は―――…」
▪▪▪
―――その頃、ネネントアームでは。
朝食を食べ、部屋に戻ろうとするキャンベルに、ドーマが慌てる素振りで呼び止める。
「そんなに慌てて、どうしたの」
やや呆れ気味にキャンベルは返す。
「ニッケラ中佐から、です。ネルベイさんと話していたんですけど、少佐を呼んでこいの一点張りで」
「はぁ」、とキャンベルは溜め息を漏らす。
「仕方ないわね。部屋に案内して貰えるかしら」
ドーマは頷き、部屋へと案内する。
該当の部屋に着くと、ドーマは扉を叩く。
「中佐、キャンベル少佐をお呼びしました」
『済まない、入ってもらえるか』
キャンベルが扉を開け、入る。
それを見たドーマは、会釈をしてその場を去った。
『やーっと来なすったか!』
通話画面の向うに居る、ネルベイが言う。
「すいません、急にお呼び立てして」
ニッケラが小声で言う。
「仕方がないわ。気にしないで」
と返しつつ、キャンベルは椅子に座る。
「で?私を呼んだのはどうしてかしら」
キャンベルが言うと、ネルベイは声を荒らげる。
『中佐から聞いたんだが、お前は何考えてるんだ!』
キャンベルは、目を閉じる。
それを見た彼は、言葉を畳み掛ける。
『シロヴィンはな、俺が初めて設計したもんなんだ。子どもみてぇなやつでな、それをあんたらの所に信頼して預けている。それを破壊されただ!?しかも、装備を増やせって……今の機体じゃあ無理に付けると、バランスを崩す。そうなったら、「飛ぶ棺桶」になっちまう。俺はそんなの真っ平御免だぞ!!!』
『リーダー、少佐に対して言い過ぎです!』
側に居た整備隊の一人が、横から言う。
『お前は黙ってろ!これはこっちの話だ!』
『お、落ち着いて……っ!』
「飛ぶ棺桶、か」
キャンベルがそう呟くと、ネルベイがこちらを向く。
『ああ、無理な装備の増設は……』
「……貴方、今の状況を理解しているの!?」
『なっ』
キャンベルの一声で、ネルベイは一瞬言葉を怯ませる。
「今は戦争下、戦闘に破損は付き物、状況を鑑みて武器を増設しなければならない……そうでもしないと生き残れはしない。それを何ですって?生みの子を壊すな、増設は危険だ、飛ぶ棺桶だ……!?そんな戯言を言わないでちょうだい!」
キャンベルは「ふぅ」と一呼吸を置いて
「私だって、シロヴィンは愛用機よ。貴方の気持ちは分かります……が、こちらの意向にそぐわないのであれば、今すぐにでも辞めたって良いのです。設計者の変わりはたくさん居るわ」
それを聞いたネルベイは、諦めた表情で頭を掻きむしる。
『……だー、分かりましたよ!その代わり安全性は度外視しますけど、それで良いですね?』
「ええ、そう言って貰えて助かるわ」
ネルベイは
『お前ら、使えるモンを探せ!』
と部下に一言言ってから、こちらを再度見る。
『まったく、昔からあんたにゃ逆らえんですわ。それじゃあ』
そう言って、通話は切れた。
「……はぁ、まったく。これだから戦闘を知らない設計者は」
事が終わり、キャンベルはそう呟く。
ふと、昨日の夜の事を思い出した。
彼の言う事は分かる。
……実父は設計のミスで、死んだようなもの。そういう事故が起きない事も大切だから。
(……戦場で死ねるなら本望よ)
と心の中で言い聞かせる。
「そろそろ会議の時間ですね。急がないと」
ニッケラに言われ、我に返る。
「大佐が居なくて良かったわ。言葉遣いを指摘すると思うから」
先に出ようとしたニッケラに、キャンベルが言う。
「……ええ、そうですね。それでは先に行きますね」
そう言って彼は部屋を出る。
「さてと」
キャンベルも部屋を出ようとした、その時だ。
(……?)
嫌な感が働く。
廊下から外を見渡しても、何もない。
「……疲れ、かしら」
そう呟くと、自部屋の方へと歩いていった。