第1話 争いの火が灯る時
11月2日。この日を以て、戦争の火蓋が落とされた。
攻撃を仕向けたワイベラス州国家とその同盟国で成り立つ、『反乱軍』。
そして、最初に狙われたネネントアーム国、それを助けたアスベリーゼ王国を主に結成された『保守軍』。
―――この2勢力によって、戦をすることになった。
▪▪▪
翌日、隊の基地にて。
「……今のところ、保守軍を支援する国は25になりましたね」
軍から配布された資料に目を通した、ドーマが言う。
「相手は18。こちらよりも少ないけど、油断してはいけないね」
キャンベルが言うと、ドーマは頷く。
「中尉、よろしいですか」
リンが話しかけた。
「はい、何でしょうか」
「ガンネイド大佐がお呼びです。会議室へ来てください、と」
多分昨日のことだろう、とキャンベルは思った。
「分かりました、向かいます」
キャンベルがそう返すと、リンは頷いた。
▫▫▫
キャンベルは会議室に赴いた。
扉をノックすると、「入れ」とガンネイドの声がした。
「お呼びとお伺いしました」
「……そこに座りなさい」
キャンベルはガンネイドの向かいに座る。
横にはパソコンが置いてあり、大将であるヨイドルの姿が見える。
「ヨイドル大将、お待たせ致しました」
『ああ、済まないね、お二方。……まずは、ネネントアーム国の護衛、中尉のお陰と聞き申した。ご苦労であったぞ』
大将からそう言われ、あの時の判断とガンネイドが背中を押してくれたのは間違いでは無かったと確信した。
『で、だ。昨日の緊急会議により、キャンベル中尉を少佐に階級を上げ、軍の現地指揮を任せたい……そう話が出ましてな』
まさかの話に、キャンベルは驚いた。
「……は、私で、よろしいのでしょうか」
ガンネイドに目線を移すと、彼はゆっくりと頷いた。
『任せたい』、という合図だ。
キャンベルは目を閉じた。
ここは腹を括るしかない。
「……分かりました。お受けいたします」
その後、明日の午後にキャンベル含めガンネ隊はネネントアーム国に向かうように、と指示があった。
「……貴女の勲章と、追加の情報を取りに行ってくる。機体の整備と奇襲には気を付けてくれ」
会議室を出る前、ガンネイドがそう言う。
「はい、分かりました」
そう言い、キャンベルは会議室を後にした。
▪▪▪
「少佐に昇格だなんて、女性初じゃないですか!流石先輩ですね!」
機体の整備中、ドーマが言う。
「ほら手を止めない。それと、言葉遣いも気を付けないといけないし、『先輩』では無く―――」
「少佐、ですよね。以後気を付けます……」
「分かればいいわ」、と言わんばかりにキャンベルは頷いた。
再び、自機体に触ろうとした時だ。
あの時と同じ、違和感を感じ周りを見渡す。
「どうしたんです?」
「誰かに見られている、そんな感じが……」
機体から飛び降り、収納庫内を注意深く見ながら歩いていく。
……だが、その気配はすぐに無くなってしまったようだ。
(大佐が言っていたの、こういう事も含むか……いつもより、気が張るわね)
これ以上は探しようがない、そう悟ったキャンベルは機体の方へ戻っていった。
▪▪▪
その頃、強襲軍では会議を行っていた。
「最初の強襲に失敗した、と聞いているが」
参謀長のゴルセットが、ギリシに言う。
「それに関してはこちらの不手際なのは承知……ただ、面白い機体と遭遇をしたのでね」
ギリシはその場に居る皆に、「資料を見よ」と言う。
「これは……シロヴィンか?」
中の1人が言う。
「あの最低限の装備しかない奴、それも1機にやられたんか!?」
もう1人が声を荒らげる。
ギリシはその人をたしなめながら、
「まあこれには続きがある」
と言う。
カスタム機である事、操縦者はかなり手馴れた人である事を伝えた。
「もしや、たまたま相手の輸送中にこちらと遭遇した可能性がある……そう言いたいのか」
ゴルセットが言うと、ギリシは頷く。
「今後の脅威と成りかねんと感じ、解析班に調査を依頼しています」
会場がざわざわとし始める。
ゴルセットが机を叩き、静かにするよう促す。
「とりあえず、だ。これからどう巻き返すかを考える必要がある」
今回の会議は、これで一旦終わらせた。
▫▫▫
「大尉、よろしいでしょうか」
会議室から出たギリシに、解析班の班長が呼び止める。
「何か分かったのか」
「……まだ確定とは言いませんが、現地組から報告がありましたので」
そのまま、データ室へと向かう。
「それで、分かったのは何だ?」
ギリシが言うと、班長はタブレットを出す。
「シロヴィンを主に使う、ガンネ隊の基地の写真です」
収納庫らしき所に2機のシロヴィンがあり、そこに2人の兵士が居る。
「少し遠目だが、ビームの型がやはり違うな」
「はい。大尉の言う通り、でした」
「ただ……」と班長が言葉を濁す。
「もしや相手に気付かれた、か」
「……はい。辺りを見渡すような素振りを見せたので、一時撤退したとの事です」
それを聞いたギリシは、顎を触る。
(操縦技術に観察眼、直感……並の兵士以上はありそうだな)
「……分かった。これからも頼めるか」
「はい、承知しました」